最後の駅の向こう

何でもすぐ忘れる人の特に記憶に残しておきたいライブの簡易レポートと趣味のレビューの予定。あくまで予定。

20190905/a flood of circle“SHINJUKU LOFT KABUKI-CHO 20TH ANNIVERSARY×a flood of circle 10th Anniversary 「BUFFALO SOUL×PARADOX PARADE」@新宿LOFT”

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新宿LOFTの20周年、そしてa flood of circleの1stアルバム「BUFFALO SOUL」と2ndアルバム「PARADOX PARADE」10周年記念として開催された、その2枚のアルバムを再現するというライブ。LOFTのレーベルからインディーズデビューし、独立するまでLOFTの事務所に所属していたフラッドにとってLOFTは“ホーム”である。故郷と自身の節目を同じ年に祝えるというのも、両者のとても強い縁を感じさせるな、と。

そんな記念すべき公演なのでチケットは即完、フロアは超満員だった。普段からライブに来ている人はもちろん、色々な事情でフラッドから少し離れていたが久々に観に来たという人達も少なくなかったと思われる。

 

 

シーガル

Thunderbolt

Buffalo Dance

エレクトリックストーン

-session #1-

ブラックバード

陽はまた昇るそれを知りながらまた朝を願う

僕を問う

-session #2-

春の嵐

ラバーソウル

ノック

 

黒い革ジャンの佐々木さんを筆頭に黒を基調とした衣装で登場する4人。この記念すべきライブの始まりを告げたのはシーガル!1曲目とは思えないくらいに爆発的に盛り上がり普段と同じように人が飛んでゆく。いつもより前髪が長く伸びていた佐々木さんに、10年前の佐々木さんの姿と同じものを感じたのは流石に考え過ぎだろうか。次の曲はThunderbolt、ここでセトリがアルバムの曲順通りであることを察する。バンド編成では久々に聴いたThunderboltは姐さんの唸るようなベースとテツ君の威勢のいいギターのおかげで桁違いの威力があった。「轟く雷鳴の中じゃ祈る声も全て馬鹿馬鹿しい」という一節が堪らなく好きだ。

バッファローの足音が聴こえてくる…」という佐々木さんによる懐かしい一言からBuffalo Dance、イントロではテツ君が注目を集めるように両腕を広げた後に口に手を当てて「ワワワワワ…」と、これも久々に観られたんじゃないか…という光景がとにかく嬉しい。間奏では佐々木さんとテツ君が近付いて向かい合ってバチバチと張り合うようにギターを弾く。この10年間で佐々木さんと歴代のギタリストたちが同様にこの曲の間奏で繰り広げ続けてきた光景がぱっと浮かび、そして今目の前でフラッドに“最後のギタリスト”として入ってきたテツ君がそれを継承している様子が繫がって見えてそれもまた嬉しかった。

「行かないでよ消えないでよ死なないでよ」と歌う声が胸に深々と刺さるエレクトリックストーン、演奏が終わると佐々木さんが「10年間愚かなるロックン・ロールを鳴らし続けたa flood of circleですよろしくどうぞ」とひと言。

 

ここで-session #1-へ。ちゃんとsessionも演奏されるんだなと思いつつ、ある意味このシリーズをライブで聴けることが一番レアかもしれないな、と。「テッちゃん、好きに弾いちゃって」と佐々木さんが言うとぐいぐいとソロを弾いてゆくテツ君。続いてどっしりとしたリフから始まるブラックバード、サビでは佐々木さんとなべちゃんが一緒に「未来」を連呼してゆく。このふたりは10年以上、ずっと一緒に肩を並べて「未来」を歌い続けてきたのだという感慨深さを一際噛みしめる場面だった。

陽はまた昇るそれを知りながらまた朝を願う、BUFFALO SOULの中でも特に歌に寄り添い引き立たせるようなこの曲ではステージがあたたかい橙色に染まり、サビでは朝日のような一筋の光も射していた。

僕を問う、一転してテツ君がワウを踏みながらの軽快なカッティングを聴かせるリフがフロアを楽しそうに踊らせる。記憶違いでなければテツ君のギターで聴いたのは初めてかもしれない。テツ君のカッティングは本当に心地よくていつまでも聴いていたいと思ったくらい。

-session #2- ここでは佐々木さんがリードを弾いていて、テツ君が途中で「亮介もういっちょ!」と煽っていた。

BUFFALO SOUL収録曲の中では今でもセトリ入りする回数が多い春の嵐、でもLOFTで聴くといつもより特別な感じがする。「何もかもが明日を思い描いている!」から最後のサビに入るとステージが薄っすら淡いピンクに染まった瞬間と曲の突き抜けるような開放感がぴったりで見事だった。

これも久々に聴けたか、ラバーソウルの「帰り道はないよ 転がるだけさ」という一節はフラッドの10年間の生き様を体現しているように思えた。

 

「LOFT20周年おめでとうございます、a flood of circle10周年ありがとうございます」と佐々木さんが話し始め、「10周年だからもっと大きなところでやれば良いのにと言われたけどうるせえ!って感じ」とこの記念すべきライブを決してキャパが広いとは言えないLOFTで開催することへの思い入れを語る。

生きているともう会えなくなった人もいる…と話す佐々木さん。LOFTの最初のボス、と紹介されたシゲさん、という方もそうなんだと。あまり詳細に話すことは控えていたがその話を経て「また会えるから転がってゆくことと、もう会えないから転がってゆくことは同じなのかも」と言って締めくくる。

そしてBUFFALO SOUL最後の曲、ノック。「次の世界を開くために ドアを叩くんだよ」という一節も今こうして聴くとフラッド自身を表してるかのよう。

 

中盤では佐々木さんがテツ君に「10年前って生まれてた?」と尋ね、テツ君が「高2だった、ギター始めた頃」と返し、次に佐々木さんが姐さんに「姐さんは生まれてましたよね?笑」と話を振ったり、10年前にはまだこのバンドにいなかった2人に和やかに話しかけていた。その当時もうフラッドと出会ってはいたよね、と姐さんが話すと佐々木さんが食い気味に「その時に俺となべちゃんが姐さんに挨拶しなかった話するつもりでしょ!」と加わる。それを聴いていたなべちゃんが「今日はその時に来ていた服を着て来ました」と言うと佐々木さんが「今日も姐さんに挨拶する気ないんじゃん」と言って笑い話に変えていた。

 

BUFFALO SOULの曲が全て終わるとステージから去る4人。フロアが明るくなり、早くもアンコールを求める手拍子が発生したりもしていた。少し長く感じたしばしの間を開けて再びフロアが暗転する。

 

-session #3-

博士の異常な愛情

Paradox

Ghost

アンドロメダ

月に吠える

Forest Walker

噂の火

Flashlight&Flashback

水の泡

プリズム

 

Lucky Lucky

シーガル

 

ステージに戻ってきた4人は赤い革ジャンの佐々木さんを筆頭に全員真っ赤な衣装に着替えていた(この後のMCにて佐々木さんが「まさかフラッドのライブで衣装替えがあるとは思わなかった」と言っていた)。第1部では全てアルバムの曲順通りに演奏されたが、暗転後に登場SEとして-session #3-が流れ、4人が位置に着くとSEに乗っかるようにしてそのまま演奏が始まる。次はPARADOX PARADEの1曲目、博士の異常な愛情。サビでフロアからも飛んでくる「ふっふっふー!」の声が揃う瞬間の嬉しさ。間奏のソロはテツ君が音源とは違うオリジナルのメロディーを弾いていて、以前にもライブで弾いていた(自分はこの日と同じく新宿LOFTで開催されたBATTLE ROYAL 2017で聴いた)とはいえ、この曲をとっくに自分のものにしているという感じの弾きっぷりが頼もしかった。Paradoxのエレガントなリフもテツ君らしいやんちゃさを感じさせつつ、曲調に合わせどこかスマートな印象の弾き姿。最後のサビに入る前にはここでも佐々木さんとテツ君が向かい合って徐々に上がってゆくメロディーを綺麗に重ねてゆく。

佐々木さんがぐっと声量を落として歌い始めるGhost、熱さを内に秘めたようなParadoxと一気に熱量が爆発するようなGhost、という対比。暗闇から這い上がろうと必死にもがくような歌詞はやはり当時の佐々木さんの心情そのものだったのか…とどこか冷静に考えながらもこの曲ではステージの様子を観ることはほぼできなかった。食い入るように聴いていた歌詞に取り憑かれたような状態になり涙が止まらなかった。

イントロ、リフ、そして間奏のソロとギターの超絶的なフレーズが並ぶアンドロメダ、こういう機会に聴くと歌詞も含めフラッドの曲の中でも特にロマンチックだなと思いながら聴いていた。あの凄まじいソロをテツ君が弾いてゆく様子は本当にワクワクする光景だった。

佐々木さんの僅かにかすれた声が結果的にこの曲の寂しげな雰囲気を際立たせていた月に吠える。続いて、「もう2度と作れないであろう曲」と佐々木さんが前置きして(フロアが一瞬ざわついたように見えた)演奏されたのはForest Walker、緑色に染まるステージは天井の低さも相俟って鬱蒼とした森を思わせるようだった。間奏で佐々木さんが屈んでいたのはその部分が見せ場であるなべちゃんを目立たせるためか。

ベース、Hisayo!と佐々木さんが言うと姐さんが先陣を切って弾き始めるイントロ、噂の火。この時の姐さんの音の迫力たるや。良い意味で荒々しさのあるメロディーはテツ君のギターの音が一際よく合う。久々に聴けた、ずっと聴きたかった大好きな曲は今のフラッドの演奏力で恐ろしいほどの化け方をしていて、その気迫に飲み込まれる。Flashlight&Flashbackも特に聴きたかった曲で、もちろんしっかり聴いていたが音に集中しすぎてステージ上の記憶はあまりない。「だから生きることやめないで」という一節が切実に耳と胸に刺さる。

控えめな青い照明がステージを包み、優しい歌声が響く水の泡。そして次の曲がPARADOX PARADE最後の曲、つまりこれでこのライブが終わってしまう…。プリズム、イントロのメロディーを弾くのはテツ君…ではなく、佐々木さん。アンドロメダと同じくかなりの超絶的なメロディーをテツ君ではなく佐々木さんが自ら弾いてゆく。7月にファイナルを迎えた“Tour CENTER OF THE EARTH”でもこの曲は演奏され、その時にもイントロは佐々木さんがメロディーを弾いていた。テツ君ではなく佐々木さんがこのメロディーを弾く理由は本当のところは分からないけれど、PARADOX PARADEのアルバム音源でこの曲のギターを弾いていたのが、フラッドとはかなり古い付き合いであるバンド・FoZZtoneの竹尾さんであり、自分はFoZZtoneのファンでもあるため、竹尾さんの弾いていたメロディーを自ら弾く佐々木さんを目の前で観られることは、どんな言葉を使っても足りないくらいに嬉しかった。

 

 

本編にて話されていたがどこで入るか忘れてしまったMC。

BUFFALO SOULとPARADOX PARADEが同じ年にリリースされたことから「デビューした年に2枚アルバム出したのは知る限りではフラッドかツェッペリンだけ」と話す佐々木さん。「当時のレコード会社の人もいかれてた」とも言っていたが、「いかれてる」というひとことは言うまでもなく、佐々木さんからスピードスター時代のスタッフさんへの最大級の賛辞だ。

 

 

これでBUFFARO SOULとPARADOX PARADEの曲がすべて演奏された。4人がステージを去った直後から絶え間なくアンコールの手拍子が続いていたが、この後にどの曲が演奏されるのだろうか…とぼんやり考えながら待っているとステージ上になべちゃんが、この日から発売になった、自身がデザインしたTシャツを着て登場、ステージ中央で一度止まると少し得意げな顔でこちらにTシャツを見せてくる。その後、他の3人も再びステージへ。

11月にリリースされるミニアルバム「HEART」について、読み方は「ハート(平坦に読む)だっけ、ハート(ハ から下がるように読む)だっけ?」と佐々木さんがテツ君に確認すると「ラード(平坦に読む)と同じ」と返すテツ君。ピンと来ていない様子の佐々木さん。ここだったか、BUFFALO SOULはなべちゃん、HEARTはテツ君が付けたタイトルらしく、佐々木さんが「俺、重要な時にタイトル付けない…」とこぼしていた。

 

その話から披露されたのはテツ君が作詞作曲を手掛けた新曲、Lucky Lucky!2番ではテツ君がメインボーカルを務めるというバンドとしては新境地的な一面も。佐々木さんとふたりで演奏する「サテツ」としての活動が少なからず影響しているのだろうか。「ラッキーラッキー」を連呼する、底抜けに明るい印象の曲もテツ君らしい。

これで終わりではなく、もう1曲。「俺達とあんた達の明日に捧げる!!」というお決まりのひと言から最後にもう1回シーガル!うまく言い表せないけれどこのアンコールでのシーガルが、大袈裟ではなくこの日1曲目に演奏されたシーガルとは全く別物のように聴こえた。アレンジが変わった訳ではないし、1曲目のシーガルがよくなかったという訳では決してない。1曲目のシーガルは記念すべきライブの始まりを華々しく告げる祝祭感を象徴していたと感じたが最後のシーガルは……このライブでフラッドの10年間を思い返しながらBUFFALO SOULとPARADOX PARADEの全曲を聴いて、そして最後に再び歌われたこの曲は、何があっても転がり続けていればそれが報われてこうして笑える日が来ることを10年かけて証明してみせた、そしてこれからも「未来」を歌い「明日」に向かって手を伸ばし続けるフラッドそのものだった。もう数えきれないほど音源でもライブでも聴いているシーガルでこんなに泣いた日は他にない。思いっきり笑って涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらステージもフロアも一緒になって歌ったシーガル。堪らなく嬉しかった。本当に楽しかった。

 

 

この日のMCで特に嬉しかった話が2つ。

まず、佐々木さん。

「1stと2ndだけ聴いててもいいよ、俺にとっては宝箱だから…ちょっと煤けてるけど」

いつでも「今が最高」だと言い続ける佐々木さんのこのひと言が、佐々木さん達がこれまでのすべてをひとつも置いて行かず、大切に抱えながら前を向いているからこその言葉だと思えたから。

そして、なべちゃん。

MC中に10年前にLOFTでやったライブも来た人?とフロアに向かって尋ねると人数は少なかったけれど何人もの手が挙がって。それを観たなべちゃんが手を挙げた人に感謝を述べつつ「好きになったタイミングは関係ない」と。

フラッドのことをかなり初期から応援している人も、最近フラッドを好きになってBUFFALO SOULとPARADOX PARADEをリアルタイムで聴けなかった人達も、ここにいるすべての人を肯定するひと言だった。なべちゃんからこのひと言が聞けたのが、嬉しかった。その後で「俺は今良い事を言おうとしている」というようなひと言をすかさず入れて笑いに変えていたのがなべちゃんらしかったけれど。

 

自分がa flood of circleを聴き始めたのはBUFFALO SOULとPARADOX PARADEの間、PARADOX PARADEがリリースされる少し前だった。正確に言えばBUFFALO SOULリリース時にフラッドの名前はどこかで見かけたBuffalo DanceのMVや、元々好きだったFoZZtoneがツアーの記事だったかで彼らを載せていたのを見て薄っすら知っていたけれども。

だからPARADOX PARADEはリアルタイムで聴いていたが、BUFFALO SOULは後追いで聴いた。リアルタイムで聴けなかったBUFFALO SOULと、個人的にフラッドのアルバムの中で一二を争うほど大好きなPARADOX PARADEを全曲時系列で、しかもフラッドのホーム・新宿LOFTで聴けるなんて…。この2枚を並べてライブで聴いてみると、ブルースをベースにしながらもポップさを感じさせるBUFFALO SOULから、1曲目「博士の異常な愛情」を筆頭にハードに振り切った曲が何曲も収録されたPARADOX PARADE、という曲調の変化にも今更ながら驚かされ、当時のファンの人たちが味わったであろう感覚を追体験することができたのも嬉しい。

 

そして新宿LOFT。何度も足を運んでいるし色々なバンドをここで観てきたけれど、LOFTで一番観ているバンドはa flood of circleだと思う。 個人的に新宿は思い入れのある場所で、新宿・歌舞伎町にあるLOFTもそういう意味でもとても好きな場所。一歩足を踏み入れるとワクワクする不思議な雰囲気の空間。a flood of circleを見つけ出してくれて、新宿に存在してくれて、ありがとうございます。

 

佐々木さんは「今がどんなに辛くても10年経てば笑えてる」と言った。10年間、どんな苦難があっても転がり続けてきたa flood of circleのひとつの“到達点”がここにあった。そして同時に「フラッドを死ぬまで続ける」と宣言した通り、これからも転がり続けるa flood of circleの“未来”もここにあった。

ずっと「未来」を歌い続けるフラッドを、これからも観続けていたい。

 

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