最後の駅の向こう

何でもすぐ忘れる人の特に記憶に残しておきたいライブの簡易レポートと趣味のレビューの予定。あくまで予定。

20191130/9mm Parabellum Bullet“FEEL THE DEEP BLUE TOUR 2019”@Zepp Tokyo

 

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アルバム「DEEP BLUE」リリースツアー、ファイナル。

約2ヶ月、全部で10公演。滝さん復帰以降では最も長いツアーだった。自分は11月開催の公演しか観ていないからというのもあるかもしれないが、やはりあっという間にファイナルまで来てしまった。

この日はフロアの様子を見て、2柵目中央あたりを選んだ。ツアー中で初めて1階のほぼ中央から観る。開演前の自分の視界には卓郎さんのマイクスタンドとアンプ、ドラムセット・PHXが見える。前日にも2階席から観ていて気付いたが、この日もPHXがステージ中心からバスドラ1個分くらい左寄りに置かれていた。

チケットが完売していた日だったこともあり、開演15分前にはフロアの見える範囲は満員という様子だった。開演が若干押していて、開演時刻である18時からアナウンスが流れ始めた。「映像収録用のカメラが入っています」のひと言に期待が膨らむ。周りからも歓声が上がり、アナウンスが終わると早くも拍手が起こっていた。

定刻を5分ほど過ぎたところで場内が暗転。Digital Hardcoreと大歓声が響く中、前日と同じく左右からスポットライトの点滅を浴び、15周年仕様の巨大な双頭の鷲がステージに現れた。 

 

DEEP BLUE

名もなきヒーロー

The Revolutionary

太陽が欲しいだけ

Getting Better

Scarlet Shoes

反逆のマーチ

The Revenge of Surf Queen

Beautiful Dreamer

君は桜

Calm down

Ice Cream

夏が続くから

Mantra

ロング・グッドバイ

Black Market Blues

新しい光

Carry On 

 

いつまでも

Punishment  

 

この日もDEEP BLUEからライブが始まる。自分の真正面に卓郎さんがいた。かみじょうさんは卓郎さんの影に隠れている、滝さんは何となく見える、という感じの視界。真ん中で観ていたので当たり前ではあるが、上手や下手で観ていた時よりもドラムの音が目立つので、サビ前の三連符が真っ直ぐに自分の体を突き刺すような感覚が心地良かった。卓郎さんが歌いながらフロアのあちこちに視線を移している様子がよく分かる。

かみじょうさんが演奏を繋げ、滝さんがギターのペグとナットの間を搔き鳴らし、ライブアレンジのイントロに入った名もなきヒーロー。前日に2階席で観ていた青とピンクの照明が左右対称に交差する様子は、下から見上げるとバックドロップの双頭の鷲を囲むように見えた。サビの「また明日」の部分でいきなり真っ赤になる照明はバックドロップ下のLED横照明の光が強いため、2階席より1階で観ている方がインパクトが強かった。最後のサビ前で滝さんがギターのボディを叩いて手拍子を煽っていた。そして最後のサビ、滝さんが音源通りにピックスクラッチを入れていたがツアー前にはやっていなかった気がする。自分が気付かなかっただけで、このツアーから導入されていたのかもしれない。

続いてはThe Revolutionary、眩しい白い照明が卓郎さん達を包む。間奏では卓郎さんと滝さんがお立ち台に上りツインリードを弾く間に和彦さんと爲川さんがかみじょうさんの前で向かい合って弾き、ふたりでタイミングを合わせて同時に各々の定位置に戻っていった。

ステージが純白から目の覚めるような赤へ、滝さんの爆速ピッキングから太陽が欲しいだけ!「さあ両手を広げてすべてを受け止めろ」と卓郎さんが歌うとフロアにいる多くの客が両手を高く上げる。赤い空間に無数の手が上がり、それ越しに白いシャツを着た卓郎さんが見える。歌い切ると卓郎さんも両腕を大きく広げ、その様子が無数の手の隙間から見えた。 

 

演奏が終わるとフロアから5人の名前を呼ぶたくさんの声が飛んでくる。誰かが「裕也!」と言った後に何故か少しだけ笑いが起こっていた。すると卓郎さんが、「何で裕也を呼ぶと笑うの?」とその様子を拾っていた。

 

 次の曲はGetting Better、和彦さんが赤いスポットライトを浴びながら歪んだベースの音を響かせ、続けて滝さんが軽快なタッピングを披露。この部分の切り替わりは個人的にとても好きなところ。「まだ良くなる きっと良くなる もっと良くなるさ」という歌詞には実は若干皮肉な意味も込められているとインタビューで読んだが、ステージ上で生き生きとした演奏と歌声を響かせる5人を観ていると、ひたすら真っ直ぐな頼もしい歌に聴こえる。

引き続き赤いステージのScarlet Shoes、歌い出した卓郎さんの何気ない仕草にエレガントさがあり、曲の雰囲気にとても合っていた。間奏では滝さんが音源通りオートワウを踏んでいただろうか、小気味よいリズムに揺れていたフロアが、まったりとしたリズムに変わる間奏では音に聴き入るように動きが止まっていたのが、フロアも曲と一体化していたようでとても気持ちが良かった。

そのままカウントで繋ぎ反逆のマーチへ。やっぱりこの曲の滝さんは序盤の間で一番動きが大きいような気がして、特に弾くのが楽しい曲なのだろうか、と思いながら観ていた。この日も3連続で赤を基調とした照明の曲が並んだ。

演奏が終わり少し明るさを落としたステージがここで青色に変わり、The Revenge of Surf Queenへ。曲調的にフロアの熱気が一旦おさまったからという理由もあると思うが、空間がすっきりとした青に包まれ一気に体感温度が下がったような気がした。間奏に当たる部分をお立ち台で弾きまくっていた滝さんが、アドリブでクロマチックランを入れ卓郎さんと一緒にテケテケと音を出していた。何年もライブで聴けなかった曲がツアー後半で立て続けに聴けるようになったのは本当に嬉しいこと。

 

僅かに静まり返る空間に少しずつ音が放たれ段々と重厚な演奏へと変わってゆくBeautiful Dreamer、全体的に煌びやかな青を基調とした照明だったが、和彦さんがシャウトする瞬間だけステージが燃え上がるような赤で埋め尽くされる演出は、このツアーの中でもかなり印象に残る、屈指の名演出だった。フロアから9mm自身に向けて「You’re Beautiful Dreamer!!」という一節を投げかけられることによって、遂にこの曲が本当の意味で完成したのではないか…と考えながら、ステージに向かって声を上げた。

春の青空のような照明が瑞々しい君は桜、確かこの曲だったと思うが序盤で滝さんが拍を確認するかのようにかみじょうさんの方を窺っている様子が見えた。ストレートなリズムから開放感のあるサビに入った瞬間にステージが薄紫のような、桜色のような色になる瞬間と最後のサビ、「花ひらいた君は桜」と歌う卓郎さんを桜色のスポットライトが照らす瞬間は何度観ても心を奪われる光景だった。

音が止まると卓郎さんが退場、ツアー中盤からセトリに入れられている和彦さん、滝さん、かみじょうさん、爲川さんによるインストナンバー・Calm down が始まる。始めは4人が静かに演奏する穏やかなメロディーに合わせるかのように淡い青の照明、徐々に演奏が激しさを増してくるとステージを赤と青の照明が縦に二分し、そのまま終盤ではかなりの音圧を叩きつけ、4人の動きも大きくなる。カオス音が空間を塗り潰す頃には滝さんと和彦さんが鬼気迫る暴れっぷりを見せ、最後の一音で照明が赤一色に変わる。“Calm down ”には静まる、や落ち着く、といった意味があるらしいが、序盤はそんな印象もあったものの最後には“Calm down ”とは真逆の演奏が繰り広げられていた。ツアー中盤で卓郎さんの喉に不調が出た後からライブでやり始めたとのことなので、タイトルの意味はもしかしたら演奏中に卓郎さんの調子を落ち着かせる、というところから来ているのかもしれない。

卓郎さんが再びステージへ戻ってくると不穏な雰囲気からIce Creamへ、今度はステージを赤と青の照明が横に二分するような配色。サビでは滝さんのファルセットがとても綺麗に響いていた。ドラムをほぼ正面から聴いていたからか、「もう このまま 眠ってしまえ」の部分で段々と大きくなっていくドラムの音が上手や下手で聴いていた時よりも際立って聴こえた。大変抽象的な歌詞なので、捉え方は人によってかなり変わる曲だと思っているが、音源で聴くよりもかなりヘビーな印象と個人的な歌詞の解釈から、僅かにBABELの面影を感じた気がした。

そんな雰囲気から一転、卓郎さんの歯切れの良いアコギの音から爽やかな白い照明へと変わる、夏が続くから。この曲もドラムのほぼ正面から聴いていたからか、上手で聴いていた時よりもバスドラの音が重たく、どっしりとしたリズムが目立って聴こえた。アルバムの中でこの曲が一番、フロアのどの場所で聴くかによって印象が大きく変わる曲だった。間奏では青い空間の中、滝さんがエレガットを歪ませアルバムの中でも随一の情熱的なソロをかなりの熱量で弾く。その姿とメロディーの美しさは何度観ても強く心を揺さぶられる。

 

ここでまた卓郎さんが話し始めるアルバムのテーマ、“一生青春”について。(CDに貼ってあるシールにも書いてあるけど…と言いながら指で丸を作っていた)“一生青春”とは、ワーワーキャーキャー、チャラチャラしていることではなくて青を塗り重ねて、その他の色も混ざりあって…でも黒くなるのではなくて深い青になっていく、ということ。そしたら“一生青春”と言えるのではないか、と。

次の曲について客に叫んで欲しいものとしてこれまで「嫌いな人の名前」「好きな人の名前」「好きな食べ物の名前」「自分だけのマントラ」など色々なものを挙げていた卓郎さん、この日は「好きな曲」「好きな土地」と「好きなチーズの名前」が入っていた。3秒あげるから考えて!と卓郎さんが言うと滝さんがギターでカウントを始め、3秒目にはかみじょうさんが音を一発鳴らすというファインプレー。

 

卓郎さんの「いけるかーー!!」からMantra!この曲はどちらかというと歌詞にも大きな意味がある訳でもなく、軽い気持ちで聴けるポジションの曲であるようだが、滝さんが大きく口を開けて顔を歪ませながらありったけの声で「終わってたまるか」と叫んでいたその様子がとても切実な、心の底から叫んでいる様子に見えてその気迫を目の当たりにした時には思わず込み上げるものがあった。最後は卓郎さんと滝さんが声をそろえて「なんとかなんのか!!!」

その勢いのまま滝さんのタッピング、ロング・グッドバイへ。赤のイメージである「BABEL」曲のロング・グッドバイが、青がテーマカラーの「DEEP BLUE」曲と同じ青い照明に彩られる演出は、一見正反対に思えるようなこの2枚のアルバムを繋いでいるようにも見えた。これもツアー中でとても好きな演出のひとつ、後のサビ前で滝さんが勢いよくペグとナットの間を鳴らすあの瞬間にスポットライトが一斉に滝さんを照らす。

いよいよ終盤というところでフロアが爆発的に盛り上がるBlack Market Blues、卓郎さんが「Zepp Tokyoに辿り着いたなら!!」と歌う。それに続く新しい光、この日も1サビ後に卓郎さんと滝さんがお立ち台へ、和彦さんと爲川さんがかみじょうさんの前まで出てくるという美しいフォーメーションを見せる。最後のサビ、一瞬静かになる演奏の中でフロアでは大合唱、前日に2階席で聴いていた時にはそれがとても優しい歌声に聴こえていたがいつものように1階で聴く力強さの方が際立っていた。

本編最後の曲、Carry On。卓郎さんが「声を聞かせてくれーー!」と叫べば大歓声と無数の拳がフロアから上がる。滝さんが最後の「いつか鼓動が」をとびきり大きな歌声で歌い、最後の音を卓郎さんの「過去も未来も追い越すまで」にすっかり被るくらい長く伸ばし続けていた。 

 

本編が終わり、滝さんと爲川さんが退場、その後に卓郎さんと和彦さんがフロアに挨拶してから退場。かみじょうさんがドラムセットの後ろから出てくると、どこから持ってきたのかティッシュを手にしていて、ステージ上で鼻をかむとそれをフロアに投げようとしていた。(本当に投げたのかは見えなかったので不明)

 

5人がステージを去り、しばらくアンコールの手拍子が続くと再びフロアが明るくなり、卓郎さんがひとりで出てくる。

前日にも告げた、2020年3月17日に開催する“カオスの百年vol.13”について。平日の開催になることに触れ、理由を「3月17日は9mmの結成記念日……という疑いのある日」「正しくは始めて4人でスタジオに入ったとされる日」と説明。

来年は今年よりもライブをします、色々な場所に行ってライブをします、と話し始めた卓郎さん。メンバーの地元、山形、長野、茨城、仙台…そして「裕也は神戸だね」としっかり紹介。ということは来年は5人の地元でもライブをやるのだろうか。その話に続けて、「今は東京に住んでいるから、東京はホームなんだ」と言う卓郎さん。

 

個人的な話になってしまうが、卓郎さんのこのひと言が、東京生まれ東京育ち東京在住である自分には嬉しくて堪らない一言だった。9mmは結成地=バンドのホームは横浜であり、各メンバーの出身地も卓郎さんが言っていた通り東京ではない。現在は東京を拠点にしているとはいえ、東京はホームではないから9mmを東京の地で「おかえりなさい」という気持ちで迎える訳にはいかないと思っていた。でも卓郎さんは東京のことも“ホーム”の仲間入りさせてくれた。卓郎さんはこの日のライブ中に何度も何度も「東京!」と言っていて、どの曲で言っていたのかを覚えきれないくらいたくさん言ってくれていた。それもずっと嬉しく思いながら聴いていた。これからは「おかえりなさい」という気持ちで迎えさせてください。

 

アンコール1曲目はいつまでも、歌い始める前に卓郎さんが柔らかい表情で笑っているのが見えた。卓郎さんの声がずっと、数週間前の喉の不調を感じさせないほど伸びやかに響いていた。

この日の、そしてこのツアー最後の曲、Punishment。滝さんによるクリーンなギターの音が聴こえるとフロアから歓喜の声が漏れる。曲の速さを視覚でも表すかのように白い照明が高速で回転していた。アウトロで卓郎さんが定位置から動いたためかみじょうさんの姿が見えた。普段澄まし顔や真剣な表情で演奏していることの多いかみじょうさんが、笑顔を浮かべていた。

 

全ての曲が終わり、滝さんと爲川さんはやはり真っ先に退場。和彦さんと卓郎さんはいつものように下手と上手を行ったり来たり、丁寧に挨拶。かみじょうさんが下手から上手側に向かって投げたスティックが勢いよく自分の頭上を飛んで行った。最後に卓郎さんがステージ中央で万歳三唱をしたが、万歳を1回する度に笑みがこぼれていた、というより完全に笑ってしまっていた。そんな表情を見せる程、卓郎さんも楽しい気持ちでいるのかと思うとこちらもとても嬉しくなる。最後にマイクを通して話し始める卓郎さん。

「みんなのおかげでツアーを終えることができました。」

「それぞれの会場に来てくれたみんなを代表して、東京のみんなに受け止めてもらおうと思います。」

「ありがとうございました!」

 

 

これで“FEEL THE DEEP BLUE TOUR 2019”全公演が無事、終了した。

この日のMCで卓郎さんが爲川さんを「全公演、熱烈サポートしてくれた」と紹介していた通りで、DEEP BLUEの曲たちを始めレア曲Scarlet ShoesもThe Revenge of Surf Queenも、突然のインストナンバーCalm downも見事弾き切りサポートを完走した。どの日も基本的には定位置の上手端で楽しそうに歌詞を口ずさみ、モニターに足を掛けて勢いをつけ、ギターのネックと素敵な笑顔でフロアを撃ち抜いていた。 

卓郎さんはツアー中盤で喉の不調が出てしまっていたが、無事にツアーファイナルを迎えることができた。滝さんはずっと調子が良さそうに見えた。ファイナルでもとても元気いっぱいで、卓郎さんとかみじょうさんの間まで出ては卓郎さんの後ろで拳を振り上げる場面もあった。 

このツアーで導入された、バックドロップ下に設置されたLEDの横一列の照明がかなり目を惹くもので、とにかく美しかった。色を変え向きを変え自在に点滅し、ステージの下半分を紗幕のような光で覆ったり、バックドロップに模様を描いたり、波を出現させたり、ステージを真っ赤に燃え上がらせたり、特定の誰かを照らし出したり。今後のライブでもこの照明は使われるのだろうか。

 

ライブを観ている途中で気が付いたが、結成15周年仕様の特別なバックドロップはこの日が見納めだったのではないかと。思えば3月17日の札幌から始まりこの日まで色々なところでこのバックドロップを見てきた。これが年内最後のワンマンであり、12月はライブハウスのイベントやフェスへの出演はあるが、バックドロップが使われる可能性は低い。それに気付いたらとても名残惜しくなってしまい、終演後もしばらくフロアの中央で真紅の“ⅩⅤ”を背負った巨大な双頭の鷲を眺めていた。

 

今回のツアー、自分の観た公演では全て、アンコールを除くとDEEP BLUEの「君を抱いて暗闇の向こうまで突き抜けたいのさ」で始まり、Carry Onの「君をかならず連れて行くよ」で終わるセトリだった。だから「DEEP BLUE」というアルバムはそれを言うためのアルバムであり、このツアーはそれを各地で言って回るためのツアーだったんだな、と思った。「あっけなく終わりにしたくない」「終わってたまるか」という一節も心に深く突き刺さるものだった。

これでツアーが終わり記念すべき15周年ももうすぐ終わろうとしているが、卓郎さんが「青を塗り重ねて深い青になっていくこと=“一生”青春」だと言っているように、9mmはこれからもバンドを続け、青を塗り重ねていく。去年のツアーでも9mmがバンドを続けるための新しい在り方を提示しているんだな、という印象を受けたが、やはり一度はバンドが止まってしまうかもしれない状況があっただけに、節目の年に「DEEP BLUE」というアルバムが生まれたこと、そして「来年は今年より盛りだくさん」という卓郎さんのひと事から、ずっと9mmは続いていくんだな、という更に先への期待と楽しみがあることが嬉しくて堪らない。「DEEP BLUE」と共に、“一生青春”という言葉と共に、ずっと青を塗り重ねていきたい。