結成19周年を迎えた9mmが「9」の付くアニバーサリーイヤーを記念して今年1年かけて開催しているツアーのファイナル公演。
ライブ開催の数週間前にこの公演で1stアルバム「Termination」再現ライブを行うことが発表された。12月9日のAC 9mmワンマンにてこれが和彦さんの提案であることも明かされた。ツアー初日の福岡公演が最新アルバム「TIGHTROPE」の再現ライブだったので、ツアーファイナルはTerminationの再現ライブをやろう、というアイデアとのこと。LIQUIDROOMは恵比寿に移転したのが9mm結成と同じ2004年で何度か合同の周年イベントが開催されたことがあり、2007年11月にはTerminationがリリースされた直後に9mmがワンマンライブ「硝子越しの暴走」を開催したという縁もある場所なのでTermination再現ライブをやるには相応しい会場なのかもしれない。
大体キャパの半分くらいの番号で入場、見やすそうな場所を探し下手側最後方の段上を取ってみるとステージは遠かったが人の頭が被らずステージ全体を見ることができる位置だった。大箱やホールではないので、ステージには既に19周年仕様のバックドロップが掲げられていた。このバックドロップを見られるのもこれが最後かもしれないと思うとツアーが終わる寂しさが込み上げてきた。19時6分に場内が暗転。
Brand New Day
One More Time
All We Need Is Summer Day
泡沫
白夜の日々
名もなきヒーロー
ガラスの街のアリス
カモメ
The Revolutionary
Psychopolis
Discommunication
Heat-Island
Sleepwalk
Heart-Shaped Gear
Sundome
Battle March
Butterfly Effect
Termination
The World
Punishment
(teenage)Disaster
Talking Machine
自分がいた位置はメンバー全員が見えて音量もちょうど良かったが照明の光が強かったのでかなり眩しくてステージを直視できない時も多かった。でも眩しい光の中に5人がいた光景もそれはそれで良いものだった。
Termination再現を最初に持ってくるのかどうかが気になっていたが1曲目に演奏されたのは9mmの最新曲であるBrand New Day。曲のイメージに合うような淡い青の照明が眩しいくらいにステージを輝かせていた。次の曲はOne More Time、ライブでもすっかりお馴染みのナンバーに2曲目にしてフロアが完全に盛り上がっていてサビの〈One more,one more time〉の繰り返しでは大合唱の歌声が最後列までよく聴こえてきた。2番に入ると滝さんがギターを弾かなくていい部分でステージ中央あたりまでズンズンと歩いて行くなど自由に楽しんでいたようだった。間奏に入る時には卓郎さんが〈ほら出番だよご主人様〉と歌った後に「滝ちゃーん!!!」と叫んでギターソロに入った。
One More TimeからAll We Need Is Summer Dayへ、2022年リリースのアルバム「TIGHTROPE」収録曲が続いたのでもしかして時間を遡るようにリリース順の新しいものからセトリを組んでいる…?と何となく考えたがまだ確証がない。青や赤を駆使した真夏日っぽい照明の中、サビ前の〈All We Need Is Summer Day 〉の部分では再びフロアからの大合唱が巻き起こった。そこからほぼ間を空けずに泡沫の演奏へ、3連続「TIGHTROPE」の曲が並んだのでやっぱりそうか…?と。自分がフロアの中でも段上の一番高い位置にいて天井が近かったことや、それまで気付かなかったがフロアの天井にステージと同じライトがステージと逆方向を照らすように設置されフロア最後方のこちらまでステージと同じ色に照らされるという演出の効果もあり、天井が水面でフロアの一番下が水底のように見えて、この曲にものすごく合う光景が広がっていた。中盤の〈どうして どうして どうして いつも〉からの部分だけ真っ赤な照明、テンポがスローになり重みを増す演奏、そして和彦さんがそれを更に視覚で表すかのように体を屈め低い体勢になりつつ上半身を大きく振るような動きで演奏する様子は遠くから見ていても迫力を感じるほどだった。しなやかな歌声を出し続けていた卓郎さんが最後のサビの〈どこまでも沈めてくれ〉だけはかなり力を込めるようにして歌うのがいつ聴いても心を奪われるところ。
「リキッドルーム!」と卓郎さんがオフマイクで言って最初のMCへ。Terminationの再現ライブをやることを改めて説明し、その前に何曲か演奏します、もう少し準備運動がしたいというようなことを言っていた。
文脈を忘れてしまいはっきりと思い出すことができないが、今年の5月くらいから声出しやマスク着脱が自由になったことに触れた(外せるようになってよかった、だけでなく着用していてもどちらでもよいと言って誰も否定しないのが卓郎さんの優しさ)のは予想通り時間を遡るようにセトリを組んだことをここで明かした上で次の曲でコロナ禍の時期までタイムスリップする、というような説明があったからだったかと思う。その言葉通りで次に演奏されたのは「TOGHTROPE」にも収録されたがシングルのリリースはコロナ禍真っ只中の2020年だった白夜の日々。MVのように真っ白な光に包まれたステージにどこか優しげな音色が響いた。演奏を聴きながら有観客ライブすらできなかった2020年を思い出すと3年経ってライブハウスにパンパンに人が入り声を出せるようになった現在のフロアの様子がより一層嬉しいものに感じられた。その次は2019年、9mmが15周年を迎えた年にリリースされたシングル&アルバム「DEEP BLUE」より名もなきヒーロー。ジャケットデザインと同じ青とピンクの照明がステージを彩る。リリースの順番としては実際とは逆だが、〈すべて忘れても 君に会いに行くよ〉とささやかな希望を祈るように歌う白夜の日々の後に〈また明日 生きのびて会いましょう〉と力強く頼もしく歌う名もなきヒーローが続くという流れは素晴らしいものだった。
イントロで歓声が上がった次の曲は2017年にリリースされたアルバム「BABEL」よりガラスの街のアリス 。澄んだ白の照明が曲の持つソリッドな雰囲気にぴったりで、2番に入ると滝さんがギターにエフェクトをかけてピュンピュンと不思議な音を出していてより近未来感を演出するような感じだった。卓郎さんがアコギに持ち替えたので次の曲を察して、だいぶ時間が飛ぶのでは…?と思ったが次の曲は予想通りカモメ。2011年にリリースされたアルバム「Movement」に収録、同年にシングルカットされた曲なのでやはりだいぶワープした感があったが、このあとに演奏される曲が12曲残っていることもあり、限られた尺の中で時間を遡った構成は純粋に楽しかった。空や大海原をイメージさせるような水色の照明の中、壮大さを感じさせる演奏が繰り広げられ最後のサビに入ると朝焼けのような柔らかなオレンジ色がフロアを包み込んだ。
このMCで4年タイムスリップして、ここからTerminationに入ります、アルバムを聴いているつもりで聴いてください、という卓郎さんのひと言からいよいよ「Termination」再現パートが始まり、Psychopolisをサビ前まで演奏したあたりで突然演奏が中断された。最後方からは何が起こったか分からず機材トラブルでもなさそうだったので心配していると「柵壊れた!!」と前方のお客さんが叫んだ声が聞こえた。
…柵が壊れた!?
上手最前の柵が壊れたらしくその辺りが少しざわついていた。Psychopolis演奏中に激しいモッシュなどは無かったように見え、派手な将棋倒しなどは起きていないようだったが、ライブハウスの柵が壊れるなんて初めて見た…。ステージ前にスタッフさんが向かったのが見え、すぐに修理が開始された模様。
卓郎さんが「ちょっとみんな揺れてて!」と言いながらリズムを取るように体を揺らすと即興でセッションが始まった。ゆったり踊れるくらいのテンポのセッションが続き、途中でかみじょうさんがドラムのリズムパターンを変えたり滝さんがエフェクターボードをいじって水中から浮上するような、あるいはSFの効果音みたいな面白い音を作り出すとそれに合わせて卓郎さんと一緒に屈んでから立ち上がる動きを笑顔でやってみたりしていた。
一通りセッションが繰り広げられ滝さんが柵の復旧状況を確認していたがまだだったようで、卓郎さんが時間かかりそうだから1曲増やそうかとまさかの提案。2011年からいきなり2007年へタイムスリップしたから失敗しちゃったかな、とも。柵修理中なのでみんなその場で聞いてくれる?みたいにフロアに話しかけた後で「Black Market BluesかThe Revolutionaryかな?Black Market Bluesだと暴れちゃうって人?(フロアの何人かが手を挙げる)じゃあThe Revolutionaryだと暴れちゃうって人?(フロアの数人が手を挙げる)」と確認し、The Revolutionaryの方が少なかったからそっちにしようと言ってフロアのスタッフさんに向かってみんなが動かないと言ってくれたから1曲増やしますと言ったりかみじょうさんと何やら相談したりしてから演奏へ。
9mmのアコースティックやAC 9mmで演奏されるカントリー調アレンジのThe Revolutionaryをエレクトリックの5人編成で、という初めてやったのでは、というくらいのレアな演奏が始まった!滝さんがほぼオートワウのようなエフェクトをかけていたので爲川さんのギターの音と聴き分けることができて、今までこのアレンジでのThe Revolutionaryを演奏したことがないかもしれない爲川さんが序盤からコード弾きっぽいのを入れていてすごいなと思っていたら、中盤で明らかにアドリブのメロディーを入れていてその高過ぎる技術力と対応力に驚かされた。
急遽1曲演奏したがまだ柵の修理は終わらない。すると卓郎さんが「Say!Ho〜?」と言うとフロアから\Ho〜!/と声が返ってくるという普段やらないようなコール&レスポンス、卓郎さんが声色を変えて何度かそれを繰り返した。卓郎さんたちが色々と演奏してくれていた間に物販列の整理に使われるようなパイプでできた柵が運ばれてくるのが見えた。
その他にも卓郎さんがたくさん喋ってくれて、この時だったか、まだ時間がかかりそうなのでと卓郎さんがこの日のサポートを務めた爲川さんを紹介。爲川さんの年内の9mmサポートはこの日が最後であることと日頃の感謝の気持ちを伝え、出演はしていなかった武田さんにもいつもありがとう、と言うと上手側通路の方にぴょこぴょこと動く人影が見えたのでもしかしたらそうだったのかもしれないと思わず笑顔になった。
卓郎さんがフロアに向かって「Terminationから聴いてる古参のファンの人いる?」と話しかけると結構な人数の手が挙がったり(自分も挙げさせてもらった)、話の流れは忘れてしまったがTerminationリリース時と比べて卓郎さんは体重が5kgしか増えてないという話があったり。「Terminationは暴動みたいなアルバム」と卓郎さんが言ったのもこのあたりだっただろうか。12月9日のAC 9mmワンマンの際に卓郎さんが「みんな再現ライブは好き?」と尋ねて肯定の反応にびっくりしていたという流れがあったからか、この日もフロアに向かって「みんな、再現ライブは好きかー!!」と呼びかけるとフロアから大歓声が返ってきて、コール&レスポンスのように「再現ライブは好きかー!!」\イエーイ!!/と何度かやり取りを繰り返していた。再現ライブの需要を把握したばかりの卓郎さんは「だって再現ライブ嫌い、って人とか、再現ライブ…?そんなゴミみたいな…っていう人がいるかもしれないし。そういう人は観に来なければいいだけの話だけど(笑)」と言って、本当に再現ライブをみんなが観たいのかを改めて確認していた。
それなりに時間はかかったが、卓郎さんたちが色々な演奏などで楽しませてくれたので待つ時間も楽しかった。スタッフさんたちの懸命な対応で遂に柵の応急処置も終わったようで卓郎さんがフロアに向かって準備できた?と呼びかける。ここからはあまり私語を入れないようにしますね、と言ってから「いけるかーーーー!!!」とフロアを煽り、いよいよ演奏再開。Psychopolisのイントロが勢いよく演奏された瞬間、2023年の9mmが鳴らすPsychopolisの迫力に圧倒されつつTerminationリリース当時のことが一瞬で頭の中に蘇ってきたのでこの後は演奏をじっくり聴きつつ時折リリース当時まで時が戻ってその時にアルバムを聴いて感じたことを思い出したりと頭の中が忙しい状態になった。
いつものライブアレンジのイントロからDiscommunicationへ。再現ライブではあるがアルバム音源の完全再現というわけではなく、今の9mmのアレンジで演奏されるというのがとても良かった。照明はお馴染みの黄緑色。Heat-Islandは19周年ツアーの他の公演でも披露されていたが何度聴いても現在の9mmが演奏した時の“静”と“激”の緩急に凄まじいキレのある演奏がただただ心地よい。〈冬枯れの街路樹〉の季節に聴くことができたことも嬉しかったSleepwalkは2番で卓郎さんが声を潜めるようにして歌う〈無駄遣い〉の部分で滝さんが卓郎さんを指差し、和彦さんは口に人差し指を当てて静かに、というジェスチャーをして卓郎さんの見せ場を目立たせていた。
卓郎さんが次の曲について「ここにこの曲が入っていてよかったなと思ってます。イントロのリフをレコーディングで80回弾いたけど、もう大丈夫。」と話してから次の曲、砂の惑星へ。その言葉通り卓郎さんがしっかりとイントロを弾きこなす。以前譜読みした時に感じたが確かにこの曲は滝さんパートよりも卓郎さんパートの方が難しいかもしれない。軽快なリフに合わせて踊るように体を動かしていた滝さんの様子やリズム隊の音がかなりがっしりしているところなどはアルバム音源のどこかうら悲しさを感じさせるような印象とは結構変わったなという感じがあったけれど、アルバム音源も現在の伸び伸びとしたライブパフォーマンスも個人的にはどちらも好きだなと思えた。再現ライブなので次に来る曲を分かっていてもイントロのドラムでソワソワしてしまったHeart-Shaped Gear、1番のサビの後の間奏で滝さんが入れていたアルバム音源と違うアレンジが昔ライブで聴いたものとほぼ同じだったような気がして、ぼんやりと思い出して懐かしい気持ちになった。Sundomeをライブで演奏する時の、かみじょうさんが高速でハイハットを刻み始めてからギターとベースがそれに緩やかに音を重ねてゆくシリアスなアンサンブルから卓郎さんのカッティングそして炸裂する演奏という流れの心地よい緊張感が大好きで、この日も指一本動かすこともなくただただ演奏と向き合って聴き浸った。ただでさえ久々にライブで聴けたBattle Marchは、リリース当時より卓郎さんの歌い方に艶がありそれがとんでもなくこの曲に合っていて、サビではアルバム音源の倍くらいツーバスを踏み続けるアレンジになっていてかなり驚いた。フロア最後方にいても体の真ん中を撃ち抜かれるような振動と音圧があって迫力がとにかくすごかった。
この日は曲が終わってステージが暗くなる度にチューニングなどで間が空くとすかさずフロアから歓声やメンバーの名前を呼ぶ声が飛んできていたが、この時だけはフロアが静まり返っていた。それは誰もが次の曲を分かっているが故に何となく緊張感が漂っていたからかもしれない。卓郎さんが「次の曲はこのアルバムの中ではここ数年で一番ライブでやってるかもしれないね。かみじょうくんのお気に入りだから。」その言葉に続いて演奏が始まったのは、ここ数年より前はライブでほぼ聴くことができなかったレア曲、Butterfly Effect。ギターやドラムが繊細な音を出しているのと反対に序盤からベースの音はかなり太くてフロアに強く響いていて、夢現のような印象のアルバム音源と少し印象が変わっているところもあって興味深かったが、リリース当時よりもしなやかさのある卓郎さんの歌声が柔らかく空間に伸びてゆく様には音源と同じ印象があり、自分の視界に視界に入る位置にあったフロア天井に吊るされたいくつもの電球がゆらゆらと僅かに揺れる様子すらこの曲に合っていた。
「みんな歌ってくれ!」と卓郎さんが呼びかけ、Butterfly Effectの緊張感が一気に溶けてフロアが大歓声と熱狂に包まれたTermination、サビでは卓郎さんの呼びかけ通り、いつも通り大合唱が巻き起こり間奏に入る際に卓郎さんが「ギター!」と叫べば滝さんが前へ出てきて歓声の中ギターソロを披露する、そんないつも通りの熱いライブの様子を観ながらもその光景と重なるようにリリース当時狂ったように観ていたTerminationのMVの《爆音が鳴っているのに静寂も感じる乾いた景色》がずっと頭の中に浮かんでいて不思議な気持ち、2023年と2007年を頭の中で行き来しているような不思議な感覚があった。ライブ定番曲で何度も何度も、何年も聴き続けてきたTerminationも再現ライブという流れで聴くとかなり普段と違う気持ちで聴くことになったがそれは次の曲The Worldも同じだった。MVの最後を想起させるような白い照明。〈目を凝らして焼き付けてみる 明日も僕らが生きていく世界を〉という最後の歌詞とドラマチックなアウトロの壮大さは収録曲順で改めて聴くとこの曲でアルバムを締めたとしてもかなり綺麗にまとまるよなとも思ったが、だからこそ最後を飾る曲のインパクトがより強調されるのかもしれない。
滝さんが静かに音を奏でる中、卓郎さんが「最後の曲です」と告げて演奏が始まった最後の曲・Punishmentではイントロに入る前に滝さんのギターに何かあったのか、状況は分からないが一旦演奏が止まり、でもすぐに何事もなかったかのように再開した。そのリカバリーの早さに加えフロアから特に動揺するような反応も見受けられなかったのでメンバーと客どちらも「このくらいじゃ動じないよ」感があってさすがだなと。本編やアンコールの最後を飾る曲としてあまりにもお馴染み過ぎる曲だが、“Terminationの最後の曲”として聴くと普段とちょっと違う気持ちで聴くことができた。間奏ではそれまでずっとステージの上手奥の方にいた爲川さんもステージ前方に出てきて和彦さん、卓郎さん、滝さんと並んだ。アウトロでは和彦さんが卓郎さんと接触しそうになって謝るようなしぐさを見せていたが、それほどまでに全力を尽くした圧巻の演奏だった。
5人がステージから退場するとすぐにアンコールの手拍子が始まった。なかなか出てこないなといつもより長めに手拍子をしていたような気がするが、いつも本編終了後に流れるGipsy Kingsの「My Way」が丸々フルコーラス流れたあたりで5人が再び登場。このあたりだったか、卓郎さんがほぼ1年かけて行われたツアーが無事ファイナルを迎えられました、と言っていたり来年東名阪でライブを開催することに触れたり、「アルバム」だったか「新曲」という単語も出てきただろうか、いい曲を作れというみんなの圧をください…というようなことも言っていた。
アンコール1曲目は(teenage)Disaster、時間を遡るような構成のセトリだった本編の流れを続けるかのような選曲だった。そしてこの日最後の曲はTalking Machine、(teenage)DisasterもTalking Machineもインディーズ1stの「Gjallarhorn」収録曲だがこの日はそっちではなくTerminationと同じ2007年にリリースされたプレデビュー盤「The World e.p.」から持ってきたのではないか、と勝手に考えながら聴いていた。いつものようにライブアレンジのイントロが始まりいつものように卓郎さんがマラカスを振っていたが、いつもと違い卓郎さんがギターを置いてしまい上手の袖へ向かっていったのでどうした?と卓郎さんの方を見ていたら滝さんたちが突然ヱビスビールのCM曲でありJR恵比寿駅の発車メロディーでもある「第三の男」のテーマを弾き始め、卓郎さんは黒い箱を持ってくると滝さん、和彦さん、爲川さんに金色の缶=おそらくヱビスビールを配り始めた。爲川さんが卓郎さんのアンプの上に置いてあった缶をかみじょうさんに渡すと3人で何やら話していたようで、かみじょうさんが「そのくらいで怒らないから!」と言っていたのだけ辛うじて聞こえたので卓郎さんがかみじょうさんに渡すのを飛ばしてしまったのか(もしくは卓郎さんが後ででかみじょうさんに渡そうとしていたのを、手が空いていた爲川さんが渡してくれたのか)。マイクのある人はマイクの前にビールを持ってきて、和彦さんも体を屈めてあの低いマイクのところにちゃんと缶を持って行って5人同時にプルタブを開けると、何も言わずともPAさんがマイクにリバーブをかけたようでフロアにプルタブのいい音が響いた。卓郎さんが乾杯の音頭を取って5人全員がビールを飲むという、普段の9mmライブでは滅多に見られない光景。和彦さんはお立ち台に座ってちょっとくつろぎながら飲んでいた。
和やかな打ち上げのような雰囲気からTalking Machineの演奏が再開するとびっくりするほど大きな「1,2,3,4!!!」がフロアから聴こえてステージはいつも通りに。1番の〈ああ 何べんやっても〉の直後には卓郎さんを囲むように和彦さん・爲川さん・滝さんが息ぴったりにジャンプ!そんな中でも2番に入ると滝さんと和彦さんが同時に缶を手に取りビールを飲むという先ほどまでの打ち上げみたいな雰囲気も残っていた。アウトロでは和彦さんがステージからフロアに降りてベースを弾いていて、最前列からはかなりの近さで和彦さんの演奏が観られたのではないか。
演奏が終わると滝さんがヱビスビールの缶片手にフロアに軽く手を振って退場、爲川さんもそれに続いた。和彦さんがフロアに何枚もピックを投げ、丁寧にお辞儀をしてから退場。かみじょうさんはドラムスティックを1本フロアに投げてから上手の袖へ。最後に卓郎さんがステージ中央に戻ると両手の拳を万歳のように突き上げてフロアから歓声を浴び、笑顔で退場していった。
今年の2月9日から始まりほぼ1年かけて開催された19周年記念ツアーが無事に終わった。YouTube配信や番外編のアコースティックライブを入れると1月から毎月9日と19日に何かしらの活動がある、という楽しい1年だった。もちろんツアーは全公演行けたわけではないが、特設サイトにてアコースティックライブを除く全公演のライブレポートが公開されたおかげで自分の行けなかったライブもセトリや内容を知ることができたし、YouTube配信で毎回ツアーの映像を少しずつ見ることができたのもありがたかった。“同じツアーの中でも日によってセトリが全く異なる”というかつての9mmのようなライブが鉄壁の5人編成で、更にここ数年にリリースされた曲も入れて完全に帰ってきたというのが何よりも嬉しかった。
4月9日のF.A.D公演のようにライブハウスのスタッフさんにリクエストを募る、5月9日のキネマ倶楽部公演のようにたくさんのゲスト出演者をお迎えする、メンバー4人の地元や出身県でメンバーセレクトのセトリでライブをする“ふるさと納税シリーズ”、ツアー初日の「TIGHTROPE」再現ライブとツアーファイナルの「Termination」再現ライブという対の構成など特別感のあるライブがこれでもかと詰め込まれ、ツアーの中でも一番特別感のある会場の日本武道館で9年振りに開催されたワンマンでは敢えて武道館っぽい派手な演出を極力入れず“いつもの9mm”を大舞台で見せてくれた。全公演終わった今改めて振り返ると、ひとつのツアーにこんなにたくさんのパターンを入れてくれたのか!と、あまりにも盛りだくさんな内容に改めて驚かされた。
“ふるさと納税シリーズ”全公演でTalking Machineにメンバーセレクトのカバー曲やご当地ソングを入れるというアレンジが披露されていて、11月の多賀城公演を観た後に実現はないだろうけれど自分の出身地・東京でもしこれをやってくれるなら東京のご当地ソングは何になるんだろうかと実は考えたことがあるのでツアーファイナルでそれに近いものが観られるとは思わず大変驚きつつとても嬉しかった。恵比寿なので恵比寿駅の発車メロディーにもなっているヱビスビールのCM曲をやったと思うが、その「ヱビスビール」は本当に現在の恵比寿が発祥地なので東京版Talking Machineだったと言ってもいいのでは。
柵が壊れるという今までに遭遇したことのないトラブルがあったことには本当に驚いたし、その柵付近にいた方ができるだけ無事でありますようにと心配な気持ちになった。盛り上がっていたとはいえ(圧縮はあったらしいが)派手なモッシュもダイブもなかったので元々柵が壊れやすい状態だったのかもしれない。ライブを中断せざるを得ない、またしばらくライブを再開できない状況の中で少し様子を窺ったくらいですぐにセッションを始めたり急遽1曲追加して演奏したり、コール&レスポンスをやってみたり、たくさん話を聞かせてくれたりしながら客を楽しませてくれた9mmの、19年間の中で培われてきたトラブルが起こった時の強さと対応力が図らずも完全に発揮されていた。踏んできた場数が違い過ぎる。
事前に「Termination」再現ライブをやるという情報を聞いてはいたが、ただ再現ライブをやるだけでなく1曲目のBrand New Dayからアンコール最後のTalking Machineまで全編を通して時間を遡るような、9mmの19年間を振り返っていくような構成でのライブを観られたことは完全に予想外だった。卓郎さんのMCでそれが意図されたセトリだと確定した後は、その場の演奏を楽しみながら同時にそれぞれの曲がリリースされた時のことを思い出しながら聴いていた。それは2007年の10月に9mmの曲と出会ってから9mmを聴き続けて生きてきた自分の人生も振り返らずにはいられない構成ということでもあった。
自分が9mmの曲を初めて聴いたのは2007年10月、Discommunicationで9mmの曲と出会って、初めて聴いた9mmのアルバムがその1ヶ月後にリリースされたTerminationだった。プレデビュー盤として期間限定リリースされていたThe World e.p.もTerminationと一緒に買った。こんなに激しいバンドを今までに聴いたことがなかった。全てに衝撃を受けて、割愛するが当時曲を聴いた時の感想もまだ全部鮮明に覚えている。「DiscommunicationのMVの演奏シーンと卓郎さんの歌声が人生最大の衝撃だった」「Terminationのすべてが衝撃だった」と文字にするとありきたりになってしまうが、DiscommunicationのMVをテレビで見た時の脳天に雷が落ちたような感覚は多分一生忘れないし、未だにあれを超える衝撃を受けたことがない。
でも当時はまだライブに行き慣れていなくて、チケットの先行予約というシステムもよく分からないし一般販売の争奪戦にも勝てず、硝子越しの暴走もTermination Tourもチケットが取れなくて悔しい思いをした。それから16年も経ってから硝子越しの暴走と同じLIQUIDROOMでまさかの「Terminatination」再現ライブを、あの時の悔しさを帳消しにするようなライブを観られるなんて想像もつかなくて再現ライブをやると発表された時にはそんなことあるのか…とじわじわ嬉しい気持ちになった。ライブ中、PsychopolisからPunishmentまで、更にアンコールのTalking Machineまでずっと当時の感想を思い出しながら演奏を聴いていたので、それらの感想を抱いていた10代の時の自分が「9mmかっこいい!」「Terminationかっこいいね!」とずっと頭の中で言ってるような気がしてずっと嬉しくて嬉しくて。とはいえ全てが完全再現というわけではなくてアレンジも含めてちゃんと現在の9mmが確かに鳴らす、アルバム音源よりも格段に表現力が爆上がりした演奏を純粋に楽しめたことも嬉しかった。19周年ツアーの最後にこんなに嬉しい公演が待っていたなんて思わなかった。感無量でした。