結成20周年を迎えた9mmがアルバム「YOU NEED FREEDOM TO BE YOU」を10月にリリースし、来年3月まで続くリリースツアーを開催。初日の11月「9日」の会場は結成の地横浜の、9mmと縁深いF.A.D YOKOHAMA。
入場すると既にフロア前方1/3ほどが埋まっていてどのあたりの場所を取るか迷ったが、どこを取っても恐らくステージはほぼ見えないと予想して下手の最後方で観ることにした。ステージにはアルバムタイトルの「YOU NEED FREEDOM TO BE YOU」が書かれた、ツアー用のバックドロップが掲げられていたのが見えた。自分のいた位置のすぐ後ろにカメラが設置されていたので映像化の予定があるんだろうか。ソールド公演のため開演直前には後ろまでパンパンに人が入った状態になり、予想通りステージはほぼ見えなくなった。
定刻を5分ほど過ぎた頃に場内が暗転しSEのDigital Hardcoreが鳴り響き、フロアの前方から大歓声が巻き起こったタイミングでメンバーが登場したんだなと想像しながらステージの方向を見ていた。メンバーが定位置に着くと人の頭の隙間から奇跡的に卓郎さんの顔が見えるようになった。
Baby, Please Burn Out
ハートに火をつけて
Black Market Blues
叫び -The Freedom You Need-
Mr.Foolの末路
Vampiregirl
Discommunication
Domino Domino
新月になれば
Fuel On The Fire!!
黒い森の旅人
泡沫
それは魔法
朝影 -The Future We Choose-
Brand New Day
太陽が欲しいだけ
名もなきヒーロー
(teenage)Disaster
One More Time
Talking Machine
アルバムの1曲目であるBaby, Please Burn Outからいよいよツアーが始まった!赤い照明の中真剣な眼差しで歌い始める卓郎さんの様子が見えた。1番サビ〈愛の照明存在を始めていいんだろ〉と、最後のサビ〈完全燃焼 一片の悔いも残すなよ 愛の他に〉の部分ではフロアから見事に揃った「ハイ!!!」と声が上がり、何度かライブで演奏される機会があったとはいえツアー初日の1曲目とは思えないくらいの一体感があった。続いて演奏されたのはハートに火をつけて、〈燃え尽きてみろよ〉と歌うBaby, Please Burn Outとは抜群の相性でなるほどその手があったか、と。そこからほぼ音を切らずにBlack Market Bluesへ、卓郎さんが「Flower and Dragonに辿り着いたなら!!」としっかりF.A.Dの正式名称を入れて歌っていた。2番に入るといつものように和彦さんがノイズを作り出している間に滝さんはアドリブのフレーズを入れていたように聴こえた。
3曲終わった時点で早くもじわじわ場内の温度が上がってきたことが感じられるくらいに盛り上がったところでアルバムの2曲目に入っている叫び -The Freedom You Need-が演奏された。現時点でアルバム全曲の中でも特に好きな歌詞のひとつである〈生きることが戦いでも 人が人でいるためには心が必要だろ〉という言葉は当たり前かもしれないけれど生で聴くことで余計に強く心に響くものがあった。間奏のベースソロ前に突然演奏が停止するという驚きのアレンジ!フロアから歓声が上がり、しばらくして演奏が再開し最後のサビに入る直前で再び演奏が停止すると卓郎さんがフロアを煽り先ほどより大きな歓声が上がり、その様子を確認した卓郎さんが〈咲き乱れた命の花~〉の部分を歌い再度演奏に戻った。出したばかりの新曲でこんなに音源と違うアレンジを入れてくるなんて!
ここで最初のMC。「ツアーを通して段々と曲がおれたちのものに、9mmの音楽の一部になっていくわけで、アルバムの曲たちはまだ誰のものでもない。このツアーの“末路”はどうなるんだろうか…。」
という丁寧な前振りから演奏されたのはもちろんMr.Foolの末路。アルバムの中でも特に抽象的な歌詞で掴みどころがない印象だったので、ツアーを経て印象がどう変わるのかがとても楽しみな曲だと思っていて、ライブで初めて聴けたこの日はステージの様子がほぼ分からない分聴くことに集中し語感の良さやメロディーを純粋に楽しんだ。次の曲がVampiregirlだったのはもしかしてタイトルが「Mr.Fool」との対比…?と咄嗟に考え、アルバム曲と既発の曲の並べ方に色々考えを巡らせながら聴くのも楽しかった。
Discommunicationは普段黄緑色の照明が使われることが多いが、確か赤っぽい色で珍しいなと思いながら聴いていた。ここもほぼノンストップで激つなぎ的なアレンジだっただろうか、和彦さんのベースの音が一際目立つDomino Dominoのイントロへ。ここまで赤い照明が多かったのでパッと青い照明に切り替わったのがいいアクセントだった。音源を聴いた時からそのような印象だったが、和彦さんとかみじょうさんによるストロングなリズムがとにかく気持ちよく、特にバスドラの音が一直線に体を貫通するかのように強く響いていたのが小箱でのライブならではの感覚だった。
ここまでBaby, Please Burn Outや叫び -The Freedom You Need-そしてMr.Foolの末路とアルバム収録曲は収録順で、その間に既存の曲が入るという構成だったのでそれが続くのかなと予想しながら聴いていたら8曲目のDomino Dominoがここで演奏されたので、この後のセトリがどうなるのか予想がつかなくなった。
卓郎さんがDomino Dominoは演奏していて楽しい!というようなことを言っていた。この曲の歌詞を書く時に煮詰まっていたとのことで何でドミノの歌詞書いてるんだろう…とも思いつつ願いごとをドミノみたいに並べる歌を思いつき、願いごとを並べて最後には倒してしまうなんて退廃的じゃないか!と、歌詞が完成した時に「歌詞を書くとはこういうことだよ菅原くん!」となったことを話してくれた。
今日は上弦の月なので新月はまだ先だけれど…というような言葉から次の曲、新月になれば の演奏へ。随所にツーバス炸裂というフレーズが差し込まれていながらゆったりした歌のメロディーや、どこか童謡のような雰囲気ともの寂しさが混ざった歌詞の不思議な取り合わせがありつつ、卓郎さんの歌声に聴き浸ると優しくあたたかい感覚が自分にそっと寄り添ってくれるような不思議なイメージが湧いた。この日の終演後、帰路で空を見上げると卓郎さんの言っていた通り、上弦の月が明るく夜空に輝いていた。アルバムの中で唯一のインストナンバーFuel On The Fire!!は徐々に高揚感が増して最後に転調するパートでそれが最高潮に達するという曲構成が大変気持ちよかった。卓郎さんがどのギターを使っているのか全く見えなかったが、中盤で恐らく卓郎さんのギターだけがなっていた部分は何となくいつもよりシャキッとした音がしたような気がしてそれも心地よいものだった。
フロアが静かになってから徐に響いたギターの音に次の曲はカタルシス…?と一瞬予想したが聴こえてきたのは黒い森の旅人の、イントロのメロディーだった。トレモロピッキングのような音で柔らかなクリーンサウンドが響き、そこから音源通りのイントロへ繋がりいつも通りの美しい演奏が繰り広げられるというアレンジだった。新月から(Fuel On The Fire!!を挟んで)黒い森、と空を見上げたところから徐々に視線を移すようなイメージから次の曲、泡沫で水底へ一気に沈む…というこの部分の流れの素晴らしさには唸るしかなかった。歌い出しのあたりから滝さんが音が揺らめくようなエフェクトで音を出していて今までのライブよりも水の中にいる感じが更に増すようなアレンジになっていた。澄んだ水の中にいるような水色の照明から一転、中盤で照明が真っ赤になった〈どうして どうして どうして いつも〉からの部分では演奏のテンポがスローになるのがお馴染みではありながら今までより更に遅く音は更に重たく、天井の低い小箱というのもあってか重たい音に上から押し潰されるようなイメージも湧くほどの迫力だった。
「9mmには冬の曲がいくつかありますが、とうとう〈クリスマスソングはもう飽きた〉という曲ができました(笑)おれはそんなことないですが。」と卓郎さんが言ってからそれは魔法を演奏。ライブの前に少しだけ通った、クリスマスツリーや装飾が少しずつ現れ始めた横浜の街を思い出してぴったりな時期に聴くことができる嬉しさがあった。ステージが見えなくても9mmのライブはとても楽しいが、この時ばかりはほんの少しだけ、アルバム随一のとびきりのフレーズを叩き続けるかみじょうさんの様子が見たかったなという気持ちになった。幻の光では卓郎さんが時折9mmでも見せるようになった、弾き語りの時のような柔らかい歌声がフロアいっぱいに広がった。全体的に歌のメロディーが際立っているアルバムの曲の中でも特に歌を美しく聴かせるような2曲がここで並んだ。
そんな流れからいよいよ朝影 -The Future We Choose-を披露。9mm結成初期から縁のあるこの場所で聴いたからというのもあったかと思うが〈あなたなしの朝が来る明日は選ばない〉の一節は色々なことがあった中でもひたすらに「バンドを続けること」を目標にし続けた9mmの意志であるように感じられ、〈壊れかけた世界なら なおさら愛して見せましょう〉の一節には長年の活動の中で何度も垣間見えた9mmの、卓郎さんの物事の柔軟な見方や懐の深さが滲み出ているようにも感じられた。
「叫び -The Freedom You Need-と朝影 -The Future We Choose-はゲームのOPとEDで、ゲームにもOPとEDがあるんだ、というところから始まって(笑)プロットをもらって、滝くんが曲を書いて、おれが歌詞を書いて。タイアップだけど100%9mmの曲、と両立できるように書きました。インフェルノの時みたいに。」と卓郎さんが丁寧にタイアップが付く際の曲作りについて話してくれた。
「曲の中で実はゲームのネタバレをしてしまってるので、Nintendo Switchを持っている人は買ってください、持ってなかったらクリスマスに買って。ゲームをやってみて、これかぁ〜〜!!(笑)って。そして感想をつぶやいて教えて欲しい。」とのことで、自分が普段やらないようなジャンルのゲームだけれどそれを聞いてしまったら実際どこがネタバレなのか買って確かめたくなってきた。
ゲームのOPとEDである叫びと朝影がアルバムでもオープニングとエンディングの位置に入って、Brand New Dayがアルバムのエンドロールのような位置にある、とも。Brand New Dayは9mmの19周年を祝う曲だったのが、みんなの前で演奏するにつれみんなのことも祝福するような曲になってきた、と卓郎さんは話を続けた。
卓郎さんの「みんなを祝福してもいいですか!!」からのBrand New Dayは1番サビの〈Brand new day どうか 僕にもひとつください〉に「みんなにも!!」と付け加え、最後の一節は〈Brand new day どうか 「僕らに」ひとつください〉と歌詞を変えて歌ったので直前のMCと合わせて9mmに関わる全ての人達を祝福するかのような雰囲気が嬉しかった。そんな多幸感の中続けて演奏された太陽が欲しいだけ はいつにも増して強く前向きなエネルギーを放っていたように思えて、Brand New Dayと太陽が欲しいだけ の組み合わせの無敵感に心を打たれたが、更に名もなきヒーローまで続いたのが9mmの頼もしさが全面に出たような堪らなくかっこいい流れだった。
卓郎さんが「20年前に作ってこの場所でやった曲!」と言うと演奏されたのは9mm最初期の曲である(teenage)Disaster、間違いなくF.A.Dに捧げた選曲だったと思うし、この場所でこの曲を聴けるのがとにかく嬉しかった!
「最後の曲です」と卓郎さんが告げてから演奏されたカタルシス。この日ライブを観て一曲一曲を楽しみながらもずっと、この流れでカタルシスはどこに入るんだ…?と考えていた。ツアーが始まる前には、アルバムの新月になれば〜朝影〜Brand New Dayの完成度の高さにこの曲順のままセトリの最後に入るのかなと予想もしていたが、全てを燃やし尽くすような音圧と壮絶な演奏のカタルシスが最後に投下されたことで驚嘆ととんでもない高揚感に襲われた。全然予想できなかった。すごかった。本当にすごかった。
アンコールの手拍子が少し長めに続いてから5人が再びステージに登場したと思われるタイミングでフロア前方から歓声が上がった。しばらくすると控えめな笑い声が聞こえ、ステージで何があったんだろうかと気になっていると卓郎さんが滝さんの方を向いていいよいいよ、と笑いながら言ってからみんなも何回でもおかわりしてくださいね、One More One Moreって…と滝さんの何らかのお酒に関しての反応だったことと次に演奏される曲を把握した。
というわけでアンコール1曲目はOne More Time、タイトルや歌詞的にもアンコールに相応しい曲なのでアンコールの曲として〈One more,one more time〉とステージとフロアで一緒に歌声を重ねることができるのはとにかく楽しい。この日も卓郎さんが間奏に入る際「ほら出番だよご主人様…滝ちゃーん!!」と元気に滝さんの名前を呼んでいた。
この日最後の曲はTalking Machine。今日のイントロはどんなアレンジかなとワクワクしながら聴いていると突然人の頭の隙間からひょいと滝さんが現れて(お立ち台に上がったと思われる)、かみじょうさんが楽しげなリズムを刻み始めると今年のライブで何度か披露されている「呼び込み君」のメロディーが聴こえてきた。Talking Machineに取り入れられる前からこのメロディーが大好きなので体を揺らしながら楽しく聴いていると滝さんも笑顔で演奏していたのでより嬉しくなった。 2番に入ると〈ああ 何べんやっても〉を「20年やってまーーす!!!」と卓郎さんが思いっきり叫ぶように歌詞を変えていてこちらのテンションもぶち上がったと同時に20年間9mmを続けてくれてありがとう!!という気持ちが溢れて止まらなくなった。一瞬フロアに背を向ける滝さんの姿が見えたが、フロアにダイブしていたと後日話に聞いたり9mm公式がSNSに上げた写真を見たりしてもしかしてあれはダイブする直前の姿だったのか…。
演奏が終わり拍手喝采の中、武田さん、滝さん、かみじょうさん、和彦さんの退場する様子はやはり見えなかったが最後に卓郎さんがいつもの万歳三唱をする姿は少し見えたので、一緒に万歳をしてステージを去る卓郎さんの笑顔も見ることができた。
どのタイミングだったか忘れてしまったもの。卓郎さんがMCで、20年経っても新曲をライブでやる時は緊張すると言っていて、その発言があったので初日ならではのドキドキ感が少し増してよりツアー初日の雰囲気を楽しむことができた気がする。
前述の通りステージがほぼ見えなかったためサポートがどちらだったか分からない状態だったが、中盤のどこかのMCで卓郎さんが武田さんを紹介してくれたのでライブ中に知ることができた。その際に11月13日にHEREがツアーの横浜公演をF.A.Dで開催することに触れ「裕也がインスタのストーリーズで武田くんに誕生日プレゼント何がいいか聞いたら動員!って。だからおれも武田くんに動員をプレゼントしたい。」と言ってHEREライブの宣伝をしていた。13日は武田さんと三橋さんの誕生日という非常にめでたい日でしかも対バンが爲川さんの所属するfolcaと和彦さんが所属するSYSという素敵過ぎるライブ(休みが取れれば自分も動員に貢献したかった)。
MCに入る際にいつものようにいい感じのセッションが繰り広げられ、その後に卓郎さんが話すこと特に決めてないと言いつつグッズのタオルの話を始めて、「YOU NEED FREEDOM TO BE YOU」とたくさん書かれたデザインが気に入っていることとタオルのデザインがケーキ屋の箱みたいだとも言っていた。確かに言われてみればこんな感じのデザインのケーキ屋があったな(多分TOPS?)とちょっと笑った。
19周年として、毎月9の付く日にライブや配信をやっていた去年の方が忙しいと思っていたけど、今年も気付けば3/4くらい終わってた!と時の流れに言及する場面もあった。
アルバム曲と既存の曲で色々と近いものを感じたり相性が良かったりする組み合わせがいくつもあるという発見ができてものすごく楽しかった。Baby, Please Burn Outとハートに火をつけて、そしてBrand New Dayと太陽が欲しいだけ。アルバムの現時点での印象として歌詞からどことなく喪失感が漂っているように感じられて、なので泡沫がものすごく今作と相性がよかったのも確かにとライブを聴きながらはっとした。今後の公演でセトリが変わるなら、この日とは違う相性のいい組み合わせを知ることができるかもしれない。
遂にツアーが始まり、アルバム「YOU NEED FREEDOM TO BE YOU」全曲をライブで聴くことができた。ツアー初日が横浜のF.A.Dで最後(Extra公演)も同じく横浜のKT Zepp Yokohamaなので、卓郎さんがフロアに向けてツアーを回ってまた横浜に帰ってきますから!と話していた。卓郎さんがツアーを通して新しい曲が9mmの音楽の一部になっていくと絶妙な表現で話してくれたこともあり長いツアーに出る9mmを見送るような気持ちにもなり、来年の3月に9mmが横浜に帰ってきた時にアルバム曲の演奏がどのようになっているのか余計に楽しみになった。