結成19周年を迎えた9mmが「9」の付くアニバーサリーイヤーを記念して今年1年かけて開催しているツアーのアコースティック編として、卓郎さん、和彦さん、かみじょうさんによるアコースティックバンド・AC 9mmがワンマンライブを開催。
11月下旬から12月9日まで滝さんがenvyのアジアツアーに出演するのでこの日がACのライブになったと思われるが、11月には卓郎さん&滝さんのバンド・キツネツキが同じくツアーのアコースティック編としてライブを開催しその際に卓郎さんがキツネツキをツアーに入れたことについて「9mmを19年やってたらこういうサイドプロジェクトもできました」と紹介していたのでACも同じ理由でツアーに入れたのかもしれない。
この日は椅子・立見併用スタイルだったが、後ろから数えた方が早いというような整理番号で入場すると既に椅子は埋まっており立見スペースも半分くらいは埋まっていた。まだ人が少なかった下手側に場所を取るとステージはあまり見えなかったが人の頭の隙間から少しだけステージの様子を見ることができて、AC 9mmの時だけ使われる、白い球体が幾つかくっついたかのようなドラムセットがちょうど人の頭の隙間から見えた。開演時刻から数分経った頃に場内が暗転。
One More Time
淡雪
荒地
Discommunication
白夜の日々
冬がはじまるよ
キャンドルの灯を
Brand New Day
Black Market Blues
The Revolutionary
(teenage)Disaster
カモメ
太陽が欲しいだけ
黒いTシャツを着たかみじょうさんがひとりで登場すると、そのままドラムを叩き始める。次に黒い開襟シャツを着た和彦さんがステージに出てきてセミアコのベースで演奏に加わった。Brand New Dayリリース時のTシャツにジャケットを羽織りハットを被った卓郎さんが最後に登場するとアコギを弾きながら歌い始める、という洒落た登場で演奏が始まったのは、ジャズっぽいアレンジがクールなAnswer And Answer。全体的な雰囲気やサビ・アウトロでアクセント的に入れられる三連符のリズムが何度聴いても堪らないかっこよさで、今のところ個人的にAC 9mmのレパートリーの中で一番好きなアレンジ。
1曲演奏が終わると早くもMC。卓郎さんが「F.A.D…Flower and Dragon…今日はFlower and Dragon、って煽りますから」と9mmのホームとも言えるF.A.Dを正式名称で呼んでいた。「おれ今日はそんなに喋らないから。今喋ってるけど、前説だから!」と言って和彦さんとかみじょうさんに喋ってもらおうとしていた。
初めてやるアレンジです、というような紹介から演奏されたのはOne More Time。原曲2番と同じような、少し跳ねるようなリズムでのアレンジから始まりサビだけは4つ打ちという切り替わるリズムが気持ちいい構成。サビの〈One more,one more time〉のところでは9mmライブと同様に客の合唱が聞こえる部分もあった。間奏の本来ギターソロが入る部分ではかみじょうさんが和彦さんの方を向いて様々なおどけた表情を見せながらドラムを叩きそうで叩かない…という(和彦さんは見えなかったのでそれにどんな反応をしていたのか分からなかったが)フェイントの掛け合いのようなやり取りをして再び歌のパートに入っていた。淡雪は卓郎さんの歌声を引き立たせるようなシンプルなアレンジで、白く発光するドラムセットもよく似合う。One More Timeと淡雪、AC9mmのライブがなかった2年の間にリリースされた曲を続けて初披露という嬉しい流れだった。
卓郎さんのコードストロークを基調とした演奏の荒地はアウトロで卓郎さんがアコギを思いっきり歪ませて演奏するアコースティックらしからぬアレンジ。卓郎さんが歪んだ音でギターソロを弾いている時にかみじょうさんがずっと卓郎さんの方を見ながらドラムを叩いていた。今までのAC 9mmのライブでも荒地は何度も演奏されてきたはずなのに、2年振りにAC 9mmを観たのでアウトロでアコギを歪ませるのを自分がすっかり忘れていて演奏を聴きながらびっくり、そして聴きながら途中でそういえばそうだった、と思い出した。
荒地の演奏が終わると卓郎さんが「歪んだ音最高!」とアコースティックライブらしからぬひと言で笑いを取っていた。 ずっとこの音でやってたいよね、(コンセプトを)破壊するようなこと言うけど、とも。Discommunicationは9mmのアコースティック形態の時と同じく6/8拍子のアレンジで、イントロからサビ前まではドラムセットが赤く、サビに入るとドラムセットは青く光っていた。アコギの穏やかな音から演奏に入った白夜の日々ではドラムセットが白く光り、ステージの照明も純白を基調とした色合いに。
この時だったか、かみじょうさんが赤ワインを飲んで酔っ払うと女性みたいな言葉になるという話が出てきていたが、以前どこかで聞いたことのある話だったので“赤ワイン”の時点でその話だと気付き吹き出してしまった。卓郎さんがそれに乗っかって女性言葉で受け答えをしていた。
そんなやり取りから次の曲は、2年前のビルボード公演でも披露された「ウイスキーが、お好きでしょ」のカバー。卓郎さんがしっとりと歌い上げるこの曲は卓郎さんの歌声によく合っているのでこのまま音源化して欲しいくらい。演奏が終わると、そういえばこの曲は女性言葉(の歌詞)だったね、ドラムもウイスキー色だったね(あまり見えなかったが黄色にしていた?)とかハイボールの方が体へのダメージ少ないんだっけ?プリン体的な意味で…と3人で話していた。
卓郎さんが次の曲からはかみじょうくんが選んだ、とこの後演奏する曲について説明。かみじょうくんは昔のCMソングをよく覚えてるよね、次の曲は何のCMの曲だっけ?と卓郎さんがかみじょうさんに聞くと返答はまさかの 「覚えてない」でフロア爆笑。JRのスキーのCMだっけ、ビールのCM?と3人で話してから演奏に入った曲は「冬がはじまるよ」テレビで聴く機会が多い曲で親しみやすいメロディーのいい曲という印象があったが、アコースティックでの演奏で聴くことで実は歌のメロディーとコードの組み合わせが難解そうな曲だということに初めて気付いて驚いた。演奏後にお客さんから冬物語というビールのCMソングだと教えてもらっていた。平成初期のCMだったのか、卓郎さんかかみじょうさんが「平成以降生まれの人、すいません」と言っていた。
次のカバー曲は卓郎さんが歌っているとご本人の歌い方に寄ってしまうというようなエピソードを入れてから演奏されたが自分は歌い出しからしばらくどの曲か分からずサビの少し前でようやく「白い恋人達」だと気付いた。確かに普段の卓郎さんと少しだけ歌声が違っていたような。後半のファルセットがとても美しく見事だった。
歌い終わった卓郎さん、途中で自分の歌い方に戻そうと思ったのに「“おれ”が分からなくなってしまった!」と言っていた。また、歌詞の〈こみあげる〉の部分は桑田さんじゃなくて長渕さんになってしまうと言いながら長渕さんっぽくその部分を歌ってみせた。それを聞いたかみじょうさんが「俺もモノマネやりたい」というようなことを言ったり、和彦さんが「モノマネ芸人さんはすごいよね」と言ったりしていた。誰だったか、この辺りのパートは恋に敗れてるみたいだよね、と言いながら次の曲へ。
その次の曲が、ステージがオレンジ色の照明に包まれた中で演奏された、キャンドルの灯を。ボサノヴァのようなリズムが心地よく聴いていて胸の奥がほっと暖かくなるような感覚があった。以前、9mmアコースティック配信でボサノヴァはニューウェーブ、という解説があったことを思い出した。このあたりからはそれまで見えていたかみじょうさんのあたりがほぼ見えなくなり逆にそれまで見えなかった和彦さんが少し見えるようになった。9mmと違い和彦さんがアップライトベースを弾かないキャンドル、よく考えたらとてもレアだなと思いながら演奏する様子を観ていた。
次の曲について卓郎さんが「かみじょうくんが今朝ドラ見てるからブギみたいなアレンジ。毎回アレンジが決まっているわけではないから、今回のアレンジがレアになるかもしれない。」という解説を入れてから演奏されたのは9mmの最新曲Brand New Day、シャッフル的なリズムの今回のアレンジは前向きな曲調が更に明るくなったような素敵なアレンジだった。言葉ではうまく表せないが跳ねたリズムを3人できっちり揃える、という最後の締め方が非常にかっこよかった。
Black Market Bluesはアコースティックだといつも卓郎さんが滝さんのギターのメロディーを口ずさむのがお馴染みだがこの日はイントロで珍しく卓郎さんが歌わなかった。最初のMCを回収するかのように〈Flower and Dragonに辿り着いたなら!!〉と歌詞を変えて歌っていた。次のサビ後の間奏では卓郎さんが滝さんパートの、ライブバージョンのメロディーを口ずさんでいたのでイントロは客に歌って欲しかったのかもしれない…と気付いたが遅かった。間奏では卓郎さんがフロアの上手、下手、真ん中と順番に煽りそれぞれの位置にいる客が歓声を返す様子を嬉しそうに見ていた。その様子を見ていた和彦さんも椅子から立ち上がってやろうとしたところシールドが抜けてしまい、椅子に戻ってスタッフさんにシールドを戻してもらっていた。
ステージから卓郎さんのハーモニカの音が聞こえてきたので次の曲が何となく分かったところで人の頭の隙間からステージの様子を窺うと、卓郎さんがかみじょうさんに向かってハーモニカの音を出しそれを受けたかみじょうさんが口を手で叩いてワワワワ…と声を出して反撃していたので笑ってしまった。卓郎さんのハーモニカの出番と言えば次の曲はThe Revolutionary、カントリー調の軽快な演奏に合わせるかのようにドラムセットが赤・青・緑と色を変えながら光っていた。本編最後は(teenage)Disaster、9mm初期の曲なのでこの日のセトリの中で一番F.A.Dに縁がある曲だったのではないか。曲のテンポに合わせるかのようにThe Revolutionaryの時よりも更に早いスピードでドラムセットが赤青緑と色を変えていたのが見え、賑やかで楽しい締めとなった。
一旦3人が退場した後、しばらく続いたアンコールの手拍子に迎えられ再び3人がステージへ。卓郎さんがAC 9mm&キツネツキコラボロンTの白、かみじょうさんが卓郎さんと色違いのロンTに着替えていた。(薄く色が付いているように見えたのでスモーキーグリーン?)かみじょうさんが黒以外の服を着ているのが珍しいなと思ったら「スタッフに渡された」とのこと。卓郎さんは「ツアーの中でAC 9mmとキツネツキが異物だと思われないように、みんなの胸に焼き付けて…胸にロゴが入ってるから、ってわけじゃないよ!本当はそういうの言わなきゃいいんだよね」と図らずもロンTのデザインに合致した発言をしてしまい和やかな雰囲気に。
そんな雰囲気の中、卓郎さんが優しくアコギの音を出し始めると青い照明の中、卓郎さんの柔らかい歌声が存分に発揮されるカモメの素敵なアレンジに聴き浸った。この日最後の曲は赤い照明の中、客に手拍子を促しながら明るく和やかな雰囲気で演奏された太陽が欲しいだけ。アンコールの2曲の青い照明と赤い照明、という対比の構成だったのもよかった。
退場時に卓郎さんがステージ中央に立つと、先ほどBlack Market Bluesでやっていたのと同じようにフロアの上手、下手、真ん中と順番に煽り再びそれぞれの位置にいる客が歓声を返し、それを卓郎さんが嬉しそうに見ていた。そんなフロアとのやり取りを何度も楽しんでから笑顔で下手の袖へ退場していった。
基本的に卓郎さんしか喋らない9mmと違い、和彦さんとかみじょうさんも喋るAC 9mm。かっこいい演奏の間にゆるいトークが何度も挟まれるのもAC 9mmの楽しみのひとつ。あまりにも話題が多くどこで何の話をしていたか忘れてしまったので以下覚えている分だけメモ。※急に思い出したら追記したい
envyのツアーでアジアを廻る滝さんの近況が、滝さんと共にenvyのサポートを務めているロッキーさんから卓郎さん宛に送られてくるとのこと。
19周年ツアーのセミファイナルであるこの日の公演。和彦さんが「AC 9mmは初日」と言った後に少し間を空けて「AC 9mmはツアーファイナル」とも言っていた気が。それを聞くと1日だけのライブなのが惜しくて、短くてもいいのでいつかツアーをやってくれたらいいな…と考えてしまった。
かみじょうさんがMCに慣れていないという話。どういう流れだったかかみじょうさんが「MCの踏んできた場数が違うんだよ」と言うとすかさず卓郎さんが「先輩…場数踏んでないっす…!」と返していたのが面白かった。9mmが新曲を試したいからと乙やLa.mamaのブッキングを入れてもらっていた時にかみじょうさんがMCをやったことがあったがすべってしまい、当時の事務所の社長から「お前もう喋るな」と言われたらしい。
同じくかみじょうさんのMCの話の時に、光るドラムセットが自分の目の前にあると女優ライトみたいな効果になって顔が綺麗に見える、逆光になるのでフロアの様子も見えないからMCですべっても大丈夫、と言ったところフロアの電気を点けられ逆光ではなくなってしまい客の顔が見えるようになってかみじょうさんが咄嗟に自分の顔を手で覆って隠していたので笑ってしまった。
後半のどこかで、かみじょうさんが以前 20歳くらいの子と喋ったらGLAYを知らないと言われたという話になり卓郎さんが「義務教育受けてないの!?」と大きな声を出して驚いていた。ラルクも知らないって、とかみじょうさんが続けて言うと卓郎さんが再び「義務教育受けてないの!?」と言いながら2曲ほど即興で歌っていた。が自分にはGLAYの曲なのかラルクの曲なのか分からなかったのが残念。かみじょうさんが(世代的に、の意だと思うが)教科書が違うんじゃないか?と返していた。ちいちゃんのかげおくりないの?ごんぎつねは?とも。
この日卓郎さんがF.A.Dの近くにあるセブンでコーヒーを買ってからF.A.Dの前まで来た時に、ハイエースが止まって誰が出てくるかと思ったらアルカラの太佑さんだった!という話 も。アルカラはこの日横浜ベイホールでライブがあり、そのついでにF.A.Dに忘れ物を取りに来たらしい。Hawaiian6とNUBOとアルカラの対バンだったそう。アルカラのサポートを務める爲川さんもライブ前に卓郎さんたちの楽屋に遊びに来ていたらしく、結構ギリギリまでいたよねと和彦さんが言っていた。実は自分が17時頃F.A.Dに到着した時に物販スペースに爲川さんがいるのを見かけて遊びに来たのかなと思っていたので理由が分かった。アルカラと9mm、そしてcinema staffの3マンを大晦日に開催するという話も出てきて、年越しをしないイベントのため卓郎さんが“健全なイベント”と言っていたのが面白かった。
12月19日に開催される19周年ツアーのファイナル公演についての話になり、既に告知されている通りTermination再現ライブをやることになったがそれは和彦さんの発案だと卓郎さんが説明。2月9日、ツアー初日の福岡公演は昨年のTIGHGROPEリリースツアー福岡公演が台風で中止になってしまったこと、TIGHGROPEが35分ほどの長さだったので丸々入れられるのではないか、とTIGHGROPEの再現ライブをやったので、ツアーファイナルは1stアルバムTermination再現にしようというアイデアとのこと。卓郎さんが「(Terminationが)一番難しいんじゃないか」と言うと和彦さんが「変な曲ばっかりだからね」と返していた。続けて卓郎さんが「みんな再現ライブ好き?」とフロアに問いかけると歓声や拍手が巻き起こりその反応に卓郎さんがびっくりしていた。卓郎さんの反応を見る限り再現ライブにそんな需要があることは完全に予想外だったようだが、「何回も見たもののけ姫見た時をコロナ禍に映画館で見て感動した(リバイバル上映の意?)のと同じかな」と言って納得していたようだった。みんなに聞いておいて良かった、とも言っていたので今後再現ライブの開催に期待してもいいのだろうか。
2年振りのライブということでその間にリリースされたOne More Timeに淡雪、Brand New Dayと新曲を3曲もACのアレンジで聴くことができて更に嬉しかった。卓郎さんが途中でも気にせずお酒を取りに行ってください、というようなことを言っていた気がするし、この日のライブを忘年会と言い表してもいた。そのくらい全体的に終始リラックスした気持ちで観ることができたライブだった。自分は基本的にワンマンライブでは開演前~ライブ中にお酒を飲まないことにしているが、もし立見ではなく椅子に座れていたら雰囲気の心地よさにライブの途中でお酒をもらいに行っていたかもしれない。
AC 9mmならではのアレンジで繰り広げられるかっこいい演奏と、9mmのライブでは見られない3人のゆるすぎるMCの組み合わせは何度観てもやっぱり楽しい。AC 9mmはライブを一旦お休みしていた滝さんが少しずつライブへ復帰し始めた2018年から活動を開始しているが、滝さんがその後9mmのライブ全てに参加できるようになり今年は19周年、来年は20周年とアニバーサリーイヤーが続くので9mm本隊の活動が多い分元々そんなに本数の多くなかったAC 9mmのライブがかなりレアになってきたなというところ。今後も滝さんがenvyに参加して海外へ発つことがあるのなら今回同様またその時にAC 9mmのライブを開催されたらいいなと。2年振りにAC 9mmを観られて嬉しかった。