最後の駅の向こう

何でもすぐ忘れる人の特に記憶に残しておきたいライブの簡易レポートと趣味のレビューの予定。あくまで予定。

20210317/9mm Parabellum Bullet “カオスの百年 vol.13“@LINE CUBE SHIBUYA

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3月17日は9mmにとって「結成記念の(疑いがある)日」という大きな意味を持つ日であり、昨年の3月17日にはワンマンライブ“カオスの百年 vol.13“を開催するはずだった。昨今の状況のせいで丸一年延期してしまったが、2021年3月17日にようやく開催することができた。

多くのライブが時短の対応やキャパを減らすなどの対応を余儀なくされている中、全席指定のホールワンマンということもあって各方面に確認を取り万全の対策をした上で、キャパ100%でやるという大勝負に出た9mm。

 

今回のライブではレア曲やライブ未演奏曲を披露する“裏ベスト10連発”をやることが開催1週間ほど前に突如発表された。更にどの曲が入るのかを予想し10曲全て当てた人は抽選でプレゼントがもらえる企画もあり、自分もどの曲が入るか予想しながら当日を楽しみに待っていた。ライブ未演奏曲は2曲ほどしかないので予想ができたが、レア曲の方は把握できただけでも数年レベルでセトリに入っていない曲がかなりあって、10曲に絞るのが難しくギリギリまで悩んでいた。

 

当日は感染症対策のため来場者シートに個人情報を記入して提出し、検温・手の消毒・紙チケットを自分でもぎって入場。場内にも数ヶ所に消毒液が置かれていた。先行物販でも検温と手の消毒は都度実施されており、本当に出来る限りの対策を取っている印象だった。

この日、自分の座席は1階某列のほぼど真ん中という位置。開演15分ほど前に自席に着きステージを見ると卓郎さんのマイクスタンドとドラムセットの位置が完全には被っておらず、ドラムセットが若干下手寄りにあるように見えた。ステージ上はバックドロップがまだ掲げられていない状態。2度ほど流れた場内アナウンスでは感染対策の案内と、収録用のカメラが入っていることも告げられた。生配信は実施されなかったが、後日何らかの方法で公開、もしくは映像作品になるのだろうか、と少し期待してしまった。

 

定刻を数分過ぎたところで場内が暗転、Digital Hardcoreが流れると今回のために作られたロゴのバックドロップが下からゆっくりと上がってきた。大きな拍手が巻き起こる中メンバー4人と、この日のサポートギター・武田さんが登場。和彦さんはすっかり長く伸びた髪を一つに結んでいた。

 

 

太陽が欲しいだけ

DEEP BLUE

白夜の日々

Burning Blood

Heart-Shaped Gear

EQ

オマツリサワギニ

Face to Faceless

銀世界

Lady Rainy

Snow Plants

午後の鳥籠

Faust

名もなきヒーロー

marvelous

Talking Machine

Lovecall From The World

 

Discommunication

Punishment

 

 

1曲目は太陽が欲しいだけ、そのタイトルに相応しい赤い照明はお馴染みだが、普段と違っていくつかのスポットライトが同系色の細い光の線を描くようにステージに差し込んでいた。「さあ両手を広げてすべてを受け止めろ」の部分で赤い空間に上がる無数の手、それ越しに見える卓郎さん、という光景を見て序盤から晴れ晴れとした気持ちになった。続いて演奏されたのはDEEP BLUE、ステージが赤から深い深い青へ。確か昨年は一度も演奏されなかったので、レアではないものの久々に聴けた曲。出だしの「あっけなく終わりにしたくない」という一節に、この状況の中でどうにかして音を鳴らし続けようとする卓郎さん達の姿が重なった。

3曲目の白夜の日々ではステージを眩い白い照明が包んだ。ただの白一色ではなく、最初は純白のような透明感のある白、歌に入ると少しあたたかみのある白、と変化していたことに驚く。ここまで1曲ごとに赤→青→白、とステージの色が変わってゆく様子が美しかった。優しい眼差しで歌う卓郎さんは終盤で2階席、3階席の隅々まで見渡すように視線を上に向けていた。和彦さんも遠くを見るように視線を動かしていた。

 

ここで最初のMC。昨年からあまりにも有観客のライブが減ってしまったためか、卓郎さんが「9mm Parabellum Bulletです…本当におれたちです!!」と、みんなも本当だよね?と嬉しそうに話していた。この一言に聴いた直後は単純に和やかな気持ちになったが、久々にキャパ100%=今までの日常に一番近い環境で演奏できる、ライブを観られる、その喜びを凝縮したような言葉だったなと後からじわじわ嬉しくなった。

ここからいよいよ“裏ベスト10連発”へ、卓郎さんが「いけるかー!!!」と煽る。

 

裏ベスト10連発”の幕開けは滝さん&武田さんのタッピングが炸裂、昨年10月に配信リリースされたばかりのインストナンバー・Burning Blood!いきなりライブ初披露の曲が来た!!広いステージを大きめに動き回っていた滝さんが中盤ではステージ中央、卓郎さんの前あたりまで元気に出てきて弾き倒していた。終盤にはまるでプロレスの入場シーンのようにいくつものスポットライトがグルグルと派手に動き回っていて、それが余計にかっこよかった。次の曲はHeart-Shaped Gear、ここからは1曲ごとにライブで聴けたのいつ振りだ…?と振り返りながら聴き進めていった。改めて今聴くと、メロディーや歌詞の口調などに何となく卓郎さんソロ曲に通じるものを感じたり、Termination収録曲は何となく赤のイメージがあったので、ここの照明は青なんだな、意外だなと勝手に思ったりしながら聴いていた。よく演奏していた当時は1番サビ後の間奏で音源とは違うライブアレンジのメロディーが入っていたが、この日は滝さんがピックスクラッチを一発入れた以外は音源通りのメロディーを弾いていた。音域的に結構高めのコーラスを滝さんが綺麗に歌い上げていたのが強く耳に残った。

続いてはEQからオマツリサワギニ、共に2014年の武道館公演で初披露された2曲が揃って裏ベスト入り。

不穏なギターのフレーズに頭を揺らされ心を揺さぶられるEQでは転調パートの後の「生きるべきか いやさ死ぬべきか」の部分で、この一節を強く目立たせるかのようにいくつものスポットライトが一斉に卓郎さんを照らした瞬間に息を呑んだ。性急なリズムのEQとは正反対に民謡的なゆったりしたテンポのオマツリサワギニでの深い赤の照明の中どことなく和風なメロディーが流れる様子は、何となくこの世のものではない祭りを覗き見ているような雰囲気があって不思議な心地よさにすっかり陶酔しながら聴いていた。

オマツリサワギニからカウントも入れずにノンストップで演奏されたのはFace to Faceless、あまりにも綺麗に繋がって曲に入ったので一瞬どの曲に入ったのか分からないほどだった。つかみどころのない序盤からサビで核心に触れるようなシリアスな曲展開が、リリース当時よりも迫力を増していたように思えた。今回セトリに入る可能性は大いにあったとはいえ個人的にはほぼノーマークの曲だったのでびっくりだった。もちろん大好きな曲だし、かなり久々に聴けて嬉しかったけれど、驚きの方が大きかったかもしれない。

 

5曲の演奏を終えここで再びMC。卓郎さん曰く「一気にやると目眩がするかもしれないから」とのこと。本当はみんなに札を持ってもらって、セトリ予想的な意味で今どのくらい振り落とされているか?をやりたかったらしい。客側は言わずもがなだけれど、卓郎さんたち演奏する側もこの企画をそうやって楽しんでいるんだな、と思うと嬉しい。

 

裏ベスト10連発”後半戦、演奏が始まったのは銀世界。ギターとベースの音が控えめな分、バスドラの連打が一際強く目立っていて、自分の体のど真ん中を貫通するようにその振動が伝わってきた。ここまで全然気づかなかったがステージの上手と下手の端にそれぞれミラーボールが床置きされていて、それがサビで突然雪を降らせていた。思わずステージから目を離し、天井を見上げたり会場全体を見回してしまうほど美しい雪景色だった。中盤、「とぎれとぎれの文字で~君の眠りが覚める朝に」のパートを卓郎さんが丸ごと飛ばしてしまっていたが、そんなところからもこの曲がどれほど久々に演奏されたかを実感した。

ミラーボールがきらめく銀世界を作り上げた後、スポットライトが雨を降らせたのはLady Rainy 卓郎さんのしなやかな歌声とそれを引き立たせるような優しい演奏。その演奏にじっくり浸る間もなく脳裏に蘇ってきたのは2016年の野音ワンマン。この曲の演奏中に滝さんの腕に不調が出てしまった、因縁の曲。もうすぐ5年経つがあの光景は今でも忘れることができない(もしかしたら聴き手側の感情が大きくなりすぎてしまっただけかもしれないけれど)。だからついあの時のことを思い出してしまったが、滝さんはしっかりと弾ききってみせた。最初はどうしても不安な気持ちになってしまったけれど、途中から集中して聴けるようになり、演奏が終わると何とも言えない嬉しい気持ちになった。

雨が上がって次の曲はSnow Plants、再び雪の曲。ステージは熱を奪うような青に包まれていたが最後のサビに入ると雪の曲なのにいきなり照明が真っ赤に変わるという演出に驚かされた。曲全体の情景から歌詞の情念に視点を移したかのような演出に思えた。アウトロのツインリードのようなパートは上の音を滝さん、下の音を武田さんが重ね、澄んだギターの音を息ぴったりに響かせていたのが見事だった。自分は今までライブでSnow Plantsを聴けたことがなかったのでここでようやく、聴けた…!!

次の曲、午後の鳥籠もBurning Bloodと同じく今まで一度もライブで演奏されたことのない曲。4年前にリリースされてからいつ聴けるのだろうか、とずっと待ち遠しかった曲もここでついにセトリ入りを果たした。細いスポットライトがステージに何本もの縦線を描き、まるで大きな鳥籠のようだった。ようやく聴けた嬉しさに浸りつつも本当に聴けたんだ…と夢のような気分で立ちつくしてしまった。

裏ベスト10連発”最後の曲は、Faust 演奏が始まると歌詞に合わせて日差しをイメージしたのだろうか、細いスポットライトがステージの上に何本かの斜線を描いていた。

 

「どれだけ歩き続けても ここにいるただの自分が 抱きしめられない 抱きしめたいのに」

 

リリースが2008年、自分がこの曲を最後にライブで聴いたのはおそらく10年以上前。リリース当時から存在感のある曲ではあった。でも年齢を重ね演奏力・歌唱力・表現力を爆上げした状態の現在の9mmが投下したこの一節は重みが全く違っていて、同じく当時から年齢や色々な何かを重ねてきた聴く側の人間の心に想像以上にのしかかってくるものがあった。それが本当に素晴らしかった。

 

ここでのMCだったか、卓郎さんがもうマスクをしていてもここ(自分の目元を両手で囲いながら)だけで笑ってるとか、怒ってるとか表情が分かるようになったよね?だからみんなが楽しんでいるのも伝わってくるというような話をしていた。客席に向かってそれぞれの健康を気遣う言葉を投げつつ、「ライブのような特別なものが日常にあって欲しいからまたライブをしたりCDを出したりしていきたいと思います。6月にはツアーもありますから。」と今後の活動に向けての前向きな言葉も出てきていた。

 

その言葉に続いたのは名もなきヒーロー、歌い出しの時の青く染まった空間にピンクのスポットライトが線を描いた照明が鮮烈だった。6月開催のツアーという具体的な未来の話をしてからの「生きのびて会いましょう」がとてもいい意味で実態のある、現実的な前向きさのある言葉に聞こえて普段よりさらに強く心に突き刺さった。次に演奏されたのはmarvelous、直近だと2019年のライブで演奏されていたがどちらかというとレアな曲なので、“裏ベスト10連発”ではない=レア曲扱いではない!という流れに完全に意表を突かれた。前半の「分かり合えた“ことにしよう”」の部分で滝さんが客席めがけて腕を真っすぐ伸ばし、勢いよく指をさしてみせた。後半に入ったあたりでは武田さんが高速ブリッジミュートを弾きながらかみじょうさんの方を見てしっかり息を合わせている様子が見えた。

marvelousからの Talking Machineというかつてのお馴染みの流れが嬉しかった部分、イントロセクションで突然別の曲の演奏が始まった!?という感じの、今まで聴いたこともないアレンジが入っていて更に驚かされる。初期からずっと演奏され続けてきた定番曲でまだ新しいアレンジが聴ける、それが堪らなく嬉しかった。本編最後の曲はLovecall From The World、あっという間に駆け抜けるような演奏の中で滝さんが卓郎さんと共に出だしから元気に歌い、和彦さんはアンプに駆け寄ってノイズを生み出したり、一切の出し惜しみをしないぞという感じで大きく動き回ったりしていた。

 

演奏が終わると滝さんから順番に退場。武田さんもちょっと急ぎ足で袖に消えていった。いつの間にか髪が解けていた和彦さんがステージ前まで来て挨拶、卓郎さんも客席のあちこちに目を遣り、丁寧に挨拶して退場していった。

 

本編のどこだったかを失念してしまったもの、MCで卓郎さんが話し始めると滝さんがギターで陽気に演奏し始めるものの盛り上がって手拍子をしたり踊ったりする人が増えてくると演奏をやめてしまう、というくだりがあった。また終盤のどの曲だったか、ステージの前方まで飛び出して滝さんがギターを弾いている時にシールドがマイクスタンドの向こう側に引っかかってしまい袖のスタッフさんが急いで直しに行っていて、滝さんが特に元気いっぱい動いている時のお馴染みの光景なので、そんなところも観ていて嬉しかった。

 

 

アンコールの手拍子がしばらく続いた後に再び4人が登場。卓郎さんが、キャパ100%で開催させてくれた会場・LINE CUBE SHIBUYAへの感謝の言葉を述べていた。この時既に20時まで10分を切っており卓郎さんが、もう時間が少ししかないから…と急ぎつつ、「3月17日9mm Parabellum Bullet、4人で演奏します」と卓郎さんが言ってから演奏へ。大事な大事な3月17日に4人で演奏することを強く意識したようなこのひと言を聞いた瞬間、嬉しいとか泣きたいとか、そんな単純なものではない感情が湧き上がってくる感覚があった。

アンコール1曲目はDiscommunication、銀世界で登場したミラーボールが再び会場に光の粒を散りばめていた。1番のサビ後の間奏はライブの時用のアレンジではなく、音源通りに弾いていたかと思う。昨年の2Q2Qで聴いた時にも思ったが、この状況で聴く「わたしはあなたの探し物 早くここまで迎えに来て欲しいの」の一節にはつい、余計に焦がれるような気持を重ね合わせてしまった。そしてこの日最後に演奏されたのはPunishment、時間が迫る中でもアンコールに2曲入れてくれた。もはや笑ってしまうほど痛快なスピード感で土砂降りのように降ってくる音に合わせるように、床に置かれたミラーボールに点滅する照明を当てて光の粒と幾つもの放射状の線を描くことで、ステージに大嵐を起こしていた、圧巻の締め括りだった。

 

演奏が終わると滝さんが真っ先に退場。和彦さんと卓郎さんが3階席の後方まで視線を送るかのように遠くまで視線を送ったり、客席の隅々まで見回して丁寧に挨拶。最後に卓郎さんがいつもの万歳三唱を始めるが、歓声を出せないので無言で万歳を繰り返すことになり、その時だけは我慢できず客席に静かな笑い声が漏れていた。ドラムセットの後ろからゆっくり前に出てきたかみじょうさんはスティックを2本持ってきていて、1本目は遠くに投げると見せかけて前の席へ、2本目はもう少し後ろの席めがけて投げ、その後軽く手を振りながら退場していった。

 

終演を告げるアナウンスが終わると再び大きな拍手が巻き起こった。

 

 

終演後は3階席の後ろから一列ずつ規制退場が始まり誘導に従って特に混乱もなくスムーズに退場。最後まで徹底的な感染対策がされていた。

本当に久しぶりのキャパ100%ということでどんな感じになるのだろうか…とも思っていたが、最初から最後まできちんとした対策があり、指定席の会場で自分の両隣の席に人が座っているのが久々だったのでライブ中にうっかり腕が当たってしまわないように…と少しそわそわしてしまった以外はそんなに不安もなかった。自分の周りは自席で声を出している人はほぼいなかった(最後の万歳で堪えきれなかった小さな笑い声くらい)し、隣に人がいるとはいえその感覚は椅子を出した状態のライブハウスとさほど変わらなかった気がする。

 

卓郎さんの言葉通り、1年延期になったからこその特濃セットリストだった。ライブ初披露曲のBurning Bloodと午後の鳥籠の他、どれも数年振りに聴けた8曲も詰め込んだ“裏ベスト10連発”はもちろん、それ以外にも久々のDEEP BLUEやまさかのレア曲ではないところに入ってきたmarvelousなど、全体的に普段とは様子が違う選曲に驚かされっ放しだった。このセトリを弾きこなした武田さんが凄すぎる!感謝してもしきれないという気持ちです。

 

Faustを聴いた時に特に強く思ったが、何年もライブで演奏されていない曲を今の9mmの表現で、またギターがひとり多いという大きなプラスのアレンジができる状態で聴くとリリース当時、もしくはライブで演奏されていた頃とまた違う捉え方ができるので本当に楽しい。ここまでのレア曲ずくめというわけにはいかないかもしれないが、もしかしたら今後もライブで少しずつ、久し振りの曲を聴けるようになるかもしれない。

そして久々となったキャパ100%のライブ、もう少し日にちが経って結果的に何の問題もなく終われていれば、今後も同様に会場等の条件が合えば同じ環境でライブを観る機会が増えるかもしれない。

そんな風に、今後の状況への楽しみや希望を持てたことも嬉しいライブだった。

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