最後の駅の向こう

何でもすぐ忘れる人の特に記憶に残しておきたいライブの簡易レポートと趣味のレビューの予定。あくまで予定。

20221002/9mm Parabellum Bullet“Walk a Tightrope Tour 2022”@Zepp Haneda

      

9mmの記念すべき“9枚目”のアルバム「TIGHTROPE」リリースツアーのセミファイナル、東京公演。

今回のツアーは会場によって立見だったり自由席だったりと形式が異なり、羽田公演の1階は立見。近年スタンディング形式だと立ち位置がマス目やマークで指定されることが多かったがこの日はそのようなものはなく、客の判断で周りの人とぶつからないように場所を取るスタイルだった。元々2400人が入るというZepp Hanedaの1階、フルキャパとはいかないまでも整理番号1000番台が存在していたため近年のスタンディング形式のライブの中でもかなり客を入れられるようになったことが伺えた。そこそこの整理番号だった自分が入場すると上手側の段差の上がまだ埋まっていない状態だったのでそこから観ることにした。前の人の頭の間からステージがちょうど見える位置。開演時間が近付くにつれ1階はここ3年間で見たこともないほどたくさんの人で埋まった。

 

今回の会場でも仙台公演と同様、ステージには初めから今回のツアー用のバックドロップ(TIGHTROPEのジャケットに似たデザインの柄にバンド名とツアータイトルが印刷されている)が掲げられていて、天井の照明機材の骨組みを利用して9本のロープがゆるい懸垂線を描くように結ばれており、真ん中の1本だけは赤色でステージのバックドロップ右横まで繋がって垂らされていた。各会場の構造によってロープの飾り方が変わるようで、仙台ではフロア前半分の頭上に飾られていたが羽田はフロア前方あたりの天井にある照明機材の骨組みから2階席の柵を利用してフロアほぼ全体にロープを行き渡らせてあった。ライブでバックドロップ以外の装飾物を使うことがあまり多くはなかった9mmが今回は会場に本物のロープを飾るほど、TIGHTROPEの世界を再現するにあたっての気合を感じた。

開場中に2回ほど諸注意のアナウンスがあり「ロープの装飾がありますがお手を触れないようにお願いします」との注意もあったが、ロープの1番低い部分は確かにかなり長身の人が思いっきり手を伸ばせば触れられるだろうか?と思えなくもない高さではあった。

 

ほぼ定刻に場内が暗転すると普段SEで流れるDigital Hardcoreではなく、このツアーのために制作されたであろうダークなアンビエント的インスト曲が流れ、紫から青色に変化したような色のスポットライト数本がランダムに動く以外は薄暗いままのステージに卓郎さん、滝さん、和彦さん、武田さん、かみじょうさんがステージに登場。

 

Hourglass

All We Need Is Summer Day

Supernova

反逆のマーチ

Psychopolis

悪いクスリ

白夜の日々

インフェルノ

夏が続くから

Spirit Explosion

Cold Edge

淡雪

Tear

タイトロープ

キャンドルの灯を

The World

One More Time

Black Market  Blues

Termination

泡沫

煙の街

 

キャリーオン

Talking Machine

 

TIGHTROPEの1曲目、Hourglassでライブの幕が開けた。イントロのクリーンパートは音源を流していたようでそれに徐々に音を乗せて演奏に繋げていた。キャップを被って登場していた滝さんは気付けば曲の中盤にはもうキャップを被っておらず、見逃した間にキャップをすぐ吹っ飛ばすほど動き回っていたらしいということが伺えた。サビでは細かい光線が天井に白い点を描き〈こぼれ落ちる砂〉を見事に出現させた。卓郎さんが早くも「東京!」と煽りAll We Need Is Summer Dayへ。〈All We Need Is Summer Day〉のコーラス部分は音源の歌声を流しているようだったが、それに埋もれないくらい大きな声で滝さんが歌っていたのがまるでまだ声の出せない客全員の分を背負って歌ってくれていたかのように思えた。サビに入る直前にはかみじょうさんを一瞬スポットライトが照らし見せ場を逃さない。サビ後のベースソロのような部分では和彦さんがちょっと前に出てきていたのか、上手側からもその時の勇姿をしっかりと観ることができた。淡い黄色の照明が夏の日差しのように明るく降り注ぐ中、卓郎さんの溌剌とした歌声が強く響いた。

次の曲はSupernova、〈十万度の太陽を〜〉の部分に入るとランダムに動いていたスポットライトが卓郎さんの上あたりに集まって交差し、歪な星のようにも見える模様を描いた。サビ前までのどこか儚さを感じさせるようなメロディーを経てサビに入った瞬間の爆発力は凄まじく、終盤には滝さん・和彦さんの動きも一際大きくなっていた。卓郎さんが〈流れ星の最期〉の語尾をビブラートかけて長めに歌声を伸ばしていた僅かな瞬間が忘れられないほど美しかった。今までだっていつ聴いても毎回良い演奏だと思っていたがこのツアーでのSupernovaの演奏は今までよりも更に貫禄を増していて化け物のような存在感を放っていた。続いては反逆のマーチ、赤と白の照明が威勢よく点滅する中元気いっぱいに跳ねるような演奏、滝さんも軽やかにステップを踏んでいたように見えた。間奏で滝さんがギターでピュンピュンと効果音を入れ、卓郎さんは〈闘ってるんだろ “東京のみんなも”!!〉と歌った。7年前の曲だけれど、歌詞の一言一句が全世界的な困難を乗り越えようとしている今の状況にぴったりで納得のセトリ入りだと思うと同時に、この状況下でまだ疲弊している心を奮い立たせてくれたようで嬉しかった。

 

ここで最初のMC。今回のセトリについてアルバムTIGHTROPEが35分しかないので、今回はアルバム以外の曲の方が多いかもしれないと言及していた。確かに90分あまりのセトリを組んだとしても3分の1しか埋まらないくらいの長さだなと。

9月17日の福岡公演が台風で中止になってしまったため、この日のライブは急遽生配信されており、会場にいる人だけでなく全国の人達がライブを観ている状況だった。なので卓郎さんは全国で生配信を観ている人達にも呼びかけつつ「今だけはみんなのこと福岡だと煽っていいですか?」と言ってから曲に入る前に「いけるか!福岡!!!」

 

福岡で配信を見ている人達への熱いメッセージからPsychopolisへ、序盤から武田さんが頭を激しく振りながら演奏していてかなりテンションが上がっていることが伺えた。天井近くにあったLEDライトが右から左へ円い形の赤い光を点灯しては消えてゆく様子が煌びやかで素敵な演出。仙台と同様、アウトロの最後の1小節は演奏せずすかさず次の曲、悪いクスリのイントロのベースが入りスムーズな繋ぎで引き続き演奏へ。歌詞を“ミルク”ではなく〈“何かを入れた”コーヒーで〉と変えて歌っていた。どっしりとしたリズムに飄々としたメロディーとこちらを惑わせるかのような歌詞、バックドロップに映された蜘蛛の巣のような模様やサビでフロア両壁に散らされた三枚羽根のプロペラのような模様の演出がこちらを奇妙な夢の世界に迷い込ませるような雰囲気がありそれに包まれる時間を目一杯楽しんだ。そんな不思議な空気を一瞬で吹き飛ばすような真っ白で眩い照明がステージを包み込んだ白夜の日々。リリースされた2年前はライブの開催が危うかったり規制が今より多かったりした頃で、その時には歌詞のすべてが、特に〈君に会いに行くよ〉の一節がささやかな祈りのように感じられたが今では確実さををもった約束のように頼もしく聞こえてきてグッとくるものがあった。卓郎さんも歌詞を〈君に“会いに来たぞーー!!”〉と変えて歌ってくれていた。そこから短い演奏時間にエネルギーを爆発させるかのようなインフェルノへ。〈終わりのない夜を越えて命を燃やし尽くせ〉の一節も、今の状況で聴くとより一層頼もしさを感じさせた。

 

ステージが暗転すると卓郎さんと滝さんがギターを持ち替える。ステージが明るくなるとアコギを構えた卓郎さんとエレガットを構えた滝さんがそこにいた。それを見た瞬間に次の曲を察してそわそわしてしまう。

滝さんが優しいアルペジオを奏でる中、卓郎さんがこの日の10月とは思えない暑さに触れたり来週ツアーファイナルを行う札幌も30℃近くあるらしいというような話をしてみたり、最後には「やっぱり夏はずっと続いてもらわないと困る」というようなひと言で次の曲を匂わせたところで夏が続くからの演奏へ。あたたかい白を基調としたシンプルな照明が軽やかなメロディーのこの曲を優しく引き立たせていた。個人的に大好きな夏が続くから を聴けた嬉しさやツアー終わったらまたしばらく聴けなくなるのかなという寂しさや単純に曲の美しさに心打たれたりと色々な気持ちが一気に出てきて溢れてくる感情を抑えることができなかった。そしてこの曲をライブで聴くたびに、メロディーと演奏がただただ美しいというだけでこんなにも心を動かされるのかと堪らない気持ちになる。

繊細な夏が続くからとの対比が印象的なSpirit Explosion、卓郎さんと滝さんというギターヒーローふたりによるツインリードのイントロはやはり聴いていて血が滾り(バッキングを担当する武田さんも言わずもがなギターヒーローであるという贅沢さも改めて嚙み締めた)それを視覚で表したような赤い照明が余計に5人のヒーロー感を演出していた。曲中では卓郎さんもフロアと一緒になって拳を上げるなど全体的にかなりのエキサイトぶりを見せていた。Spirit Explosionの最後の音からかみじょうさんが短くドラムで繋ぎそのままCold Edgeへ、ここでも武田さんがものすごい勢いで頭を振りながら演奏していて、きっと全力で演奏を楽しんでいるんだろうなという様子だったので観ているこちらも嬉しくなる。間奏では和彦さんが「福岡ーー!!!」とシャウトしていて、ここでも行くことが叶わなかった福岡への想いが溢れていた。照明の青くて細い光が空間を横に斬るような動きをするのはかつてのCold Edge演奏時の定番で個人的に好きな演出のひとつだったので、同じ演出を入れてくれていたことにも胸を打たれた。

叩きつけられた轟音がスッと引くと柔らかな音色がフロアに広がり、ドラムの音から次の曲、淡雪の演奏に入ると桜色の照明がパッとステージを包み込んだ。サビ以外の部分は無数の細かい線を描く照明がステージを淡い白に染めていて、その光がフロア後方に雪のような模様を描いていたようだった。やわらかくも芯のある歌い方だった卓郎さんが2番の〈駅に続く道で 二人黙り込んで〉の部分ではもっとふわりとやわらかな、弾き語りの時などに近いような歌い方に変えていたように聴こえて、それが一層曲のたおやかさを表現していた。

 

ここでのMCだったか、卓郎さんがタイトロープの歌詞はレコーディングが進む中で歌入れギリギリの状況で書かれたと図らずもスリリングな状態だったことを明かし、「TIGHTROPEは世界中がこういう状況になってから作ったアルバムで…世界中が同じ状況で過ごしたのは多分これが初めてだと思います。だから聴いて共感できるところがあるとしたら、それはおれたちがみんなと同じことを考えて過ごしてきたからだと思う。」とも話していた。

 

タイトルからの連想なのか淡い水色の照明をメインに使っていたTear、変則的な拍子のイントロはかみじょうさんが武田さんや滝さんの方を確認しながら、武田さんもかみじょうさんの方を向いてしっかりと拍を合わせる。ゆったりとした曲調なのでその分もあってか、ドラムの一打一打がどっしりと重たくフロアに響いていてそれに圧倒された。ゆらゆらとしたイントロのクリーンパートからスリリングな空気が伝わってくるタイトロープはフロアの両壁に映し出された大きなプロペラ模様も惑わせるような雰囲気を演出。サビで卓郎さんと滝さんが歌声を重ねるところや全体的にストロングなリズム、ベースラインのすべて(特に2番で一瞬だけ入るスラップ)など聴いていて心地よいポイント尽くしであまりステージの細かいところを観る余裕もなく音に体を委ねるようにして聴いていた。卓郎さんが僅かに天井のロープに視線を遣る瞬間があったり、自分の視界には常に客とステージとそのすぐ上のロープがいっぺんにおさまっていたので本物のロープを見ながらこの曲を聴くことができたりと、やはりこの曲で一番ロープの存在感が意味を成していた。

和彦さんがアップライトベースに持ち替えれば次の曲はキャンドルの灯を、ライブアレンジのイントロが始まると先程までのスリリングな雰囲気が消えて心が温かくなるような空気感にほっとする。卓郎さん・滝さん・武田さんがメインのメロディーを見事にハモるイントロから小気味よい跳ねたリズムに乗せて大勢の客が思い思いに頭を動かしリズムに乗る様子には視覚からも気持ちよさを感じた。最後に和彦さんがアップライトをクルリと回してみせる様子もしっかりと観ることができた。

和彦さんがアップライトからエレキベースに戻り卓郎さんがアコギに持ち替えるとThe Worldの演奏へ。アコギの歯切れの良い音が加わってコードの美しさがより際立つようになったのでいいなあ、今後もアコギ入りで演奏して欲しいと思いながら聴き惚れていた。最初のサビ終わりで卓郎さんのアコギ演奏だけの部分に入る際には滝さんが卓郎さんに注目を集めるかのようにそちらを指し、そのパートが終わると滝さんが真横にぶった切るようにギターのネックを振って演奏を再開していた。

 

演奏が終わって暫しの静寂の後、確か滝さんからだったかギターを弾き始め、卓郎さん達もそれに続々と乗っかり短いセッションが繰り広げられた。卓郎さん曰く楽しくなってしまったそうで、でもこれでチューニング合ってなかったら馬鹿みたいだからチューニングします、と言うのでほっこりとした雰囲気に。

この辺りでだったか、今年メジャーデビュー15周年を迎えることに言及し「ツアーファイナル札幌公演の翌日がDiscommunication(メジャーデビューEP)のリリース日なので札幌はディスコだけやろうかな?」と言って笑いを誘いつつ、9mmにも色々なことがありましたが、と卓郎さんが続け、(メジャーデビューアルバムにも収録されている)The Worldをこんな風に聴いてもらえるとは思っていなかった、しかもみんなが拍手しか出来なくなって…でもこうしてライブできてよかった、と感慨深げだった。

 

「東京、まだまだいけるか!!!」から威勢良くOne More Timeへ、間奏のギターソロに入る時には卓郎さんが思いっきり「ギター!!」と叫ぶと滝さんがステージ前方まで出てきてギターを弾きまくり、卓郎さん・武田さん・和彦さんはかみじょうさんの方を向いて4人で輪になるような位置で演奏していた。One More Timeの最後の音から今度は滝さんがギターで音を繋ぎBlack Market Bluesへ、〈Zepp Hanedaに辿り着いたなら!!〉と歌詞を変えて歌っていた。〈迷える子羊たちが〉の部分では和彦さんが自身のアンプと向かい合ってつんざくようなノイズを出していた。これだけの大人数で手拍子がぴったり揃う光景がなんだか久し振りな気がして圧巻だった。

それに続くTerminationでは最初のサビで卓郎さんが「歌ってくれーー!!」と煽ったが少なくとも自分の周りでは誰一人歌うことなく手を挙げてリアクションのみで応え、この時に聴こえた歌声は大きな声でコーラスをする滝さんのものだけだった。サビが終わると卓郎さんが「聴こえたぞーー!!!」と大きな声で返してくれたものだからもう何もかもが嬉しくて感極まってしまった。ここでも間奏のギターソロに入る前に卓郎さんが「ギター!!」と叫んだがその瞬間、既にお立ち台にいた滝さんがピックを手放してしまったのか、マイクの側に急いで戻ってピックをもぎ取ると何事もなかったかのように最高にかっこいいギターソロを披露してみせた。

勿体ぶらずにそのまま演奏に入った泡沫 、あの空間がすべて水に沈んだかのような澄んだ水色の照明に包まれる。赤い照明に切り替わり曲の情念を表したかのような〈どうして どうして どうして〉の部分はこれまでこの曲をライブで聴いてきた中で最も遅いテンポで演奏していたように感じたが〈生まれて こわれて 消えゆく さだめ〉の部分はもっとじっくり溜めて入り、それが曲の重厚さを最大限際立たせていてとんでもない迫力だった。最初から感情を込めつつもしなやかな歌声を崩さなかった卓郎さんが最後の〈どこまでも沈めてくれ〉にかなり力を込めて歌っていて切実な叫びのように聴こえ、歌い方を巧みに使い分け音源で聴くより遥かに曲へ引き摺り込まれる力が強くなっていて圧倒された。

本編最後の曲はTIGHTROPE最後の曲である煙の街。ライブが始まる際にSEで使われたようなサウンドがしばし流れてから演奏へ入った。スモークが多めに焚かれる中、白い照明と5人の黒い影で終始モノクロの世界を作り出していたが〈茜色に染まる部屋でした〉の部分だけはステージが歌詞通りの茜色に。アウトロに入るとスモークに包まれたステージをストロボのような照明がいくつも点滅し非現実的な光景を生み出すなど最低限の照明とスモークだけで何とも形容しがたい曲の雰囲気を完璧に作り上げた。最後の一音が鳴ったと同時にステージが暗くなり、薄暗いステージから5人が静かに退場していった。



アンコールで再び5人が出てくると手拍子のリズムに合わせるかのようにまたセッションが繰り広げられたあと、満員のような状態のフロアを見て卓郎さんが「あともう少しだね、(以前みたいに戻れる日が来たらマスクを、的な言葉)YAZAWAみたいに投げる?」とおどけていたが、卓郎さんの言う通り、声が出せなかったり他の人に触れないようにしないといけなかったりという制約以外はフロアにたくさんの人を入れ、2時間のワンマンライブが問題なく開催できるところまで状況が戻ってきた。滝さんはワンマンでは珍しく、缶のお酒と思しきものを手にして演奏までの間飲んでいた。

「これからもよろしくな!」というひと言にぴったりなアンコール1曲目はキャリーオン、2番の歌詞を卓郎さんが〈“心”の声を聴かせてくれー!!〉と叫ぶとそれに呼応するかのようにまたフロアから無数の拳が上がった。この日最後の曲はイントロのライブアレンジパートからフロアを踊らせまくったTalking Machine、曲入りの「1.2.3.4!!」もフロアの熱狂ぶりとは裏腹に誰も声を出さなかった。ここでも時折滝さんがギターでピュンピュンと不思議な音を入れていた。多くの客がまだ定位置を動けない中でも思い思いに体を揺らす光景には見入ってしまった。最後には滝さんがギターのネックをバットのように握り全力でフルスイングを決めた。

 

演奏が終わるといつの間にか滝さんは退場していて、武田さんがフロアに丁寧にお辞儀をしてから笑顔で親指を立てつつ退場。卓郎さんと和彦さんが上手下手、1階2階を隅々まで見るようにしながら挨拶していると後ろからかみじょうさんが出てきてドラムスティックを4本くらいフロアに投げ、目の横でピースサインというお茶目な挨拶をして下手の袖に消えていった。最後に卓郎さんが万歳三唱をして(仙台と同じく万歳のリズムに合わせて照明を若干点滅させる気の利いた演出!)フロアに笑顔を向けながら退場していった。



ここまでの間に何度か言及したが、都内最大級の広さをもつライブハウスにこんなに人がたくさん入ったのを久々に観た。当日、フロア後方から観ていても座席指定や立ち位置指定だった時よりも人が多い分ライブ中の盛り上がり方も目に見えて大きく、更に後日公開されたこの日のライブ写真では以前とそこまで変わらないくらい(人同士の密着がないよう人数調整されている前提で)にフロアに多くの人が入っていた。ライブハウスに再びこんなにたくさんの人が集まれるようになったのが本当に嬉しかった。アンコールでは卓郎さんが満足げな様子に見えたし、曲中には滝さんや和彦さんが両手を大きく動かして何度も何度もフロアを煽っていたのでたくさんの人で盛り上がるフロアの景色はやはり演奏する側にとっても相当テンションが上がるような良いものだったのだろうなと。

 

卓郎さんがTerminationで「歌ってくれーー!!」と煽ったことには最初は正直少しびっくりしたが、当然のように歌わずにリアクションを返したフロアの様子に安心感と嬉しさが込み上げた。今までずっと慎重な姿勢を示していた卓郎さんが一時の気の迷いや考えなしにそんな煽り方するわけがない。客への絶対的な信頼をもって煽り、客は一切歌わないことで卓郎さんに完璧に応え、卓郎さんがしっかりそれを受け止めてくれた。お互いの信頼をもってステージとフロアで完璧にコミュニケーションを取ることができる、そんなバンドとファンであることが証明されて嬉しさと誇らしい気持ちになった。

 

自分は長いこと東京に住んでいて、9mmのツアー東京公演も何度も観てきた。なのでこの日のMCで卓郎さんが「東京は演奏中は盛り上がるけれど、MCの時にはすぐ静かになって、拍手が鳴り止むのも早いし…それが東京でライブやってるな、という感じがする」という話をしてたのを驚きながら聞いていた。東京、今までそんな印象を持たれていたのかと…。何か意図があるわけではなく、あくまで他の地域と比べての話をしただけだと思うけれど、それにしてもこんな地域差を感じていたんだなと。その話が出た後、「拍手がすぐ止む」東京をいじるかのように卓郎さんが笑顔で拍手を要求してたように見えた時があってつい笑ってしまった。今後はもう少し長めに拍手をしよう。

また余談になってしまうが今までの9mmのツアー東京公演は圧倒的にZepp Tokyoが多く、大きな観覧車の下にあるライブハウスでTerminationを聴けることが楽しみであり、セトリに入ると毎度嬉しかった。昨年末でZepp Tokyoが、今年の8月末で観覧車の営業が終了し思い出の場所がなくなってしまい寂しい気持ちでいる最中なのでこの日Terminationを聴いている時にもZepp Tokyoでの数えきれないほどの思い出が次々と頭に浮かんだ。こうやって自分にとって大事な思い出を呼び起こしてくれる曲になってくれたことも嬉しかった。

 

TIGHTROPEレコ発の短いツアーもファイナルの札幌公演を残すのみとなった。この日のライブで卓郎さんが「ツアー完遂してきます!」と宣言していた。Zepp Hanedaのすぐそばには羽田空港がありここは正に札幌へ向かう時の出発の地でもあるので、この日から1週間ほど日にちは空くがそれを聞いて勝手に卓郎さん達を見送るような気持ちになった。どうか無事にツアーが完遂しますように。