9mmの“今年最初の実質ワンマン”として配信されたライブ。会場は今年の9月に閉館する赤坂BLITZということで、配信とはいえこのステージでライブが行われるのを観られる機会があること、もう一度BLITZのステージに立つ9mmを観られたのが嬉しかった。規模の大きなライブの開催が難しい現在の状況を考えると、恐らくもう現地には行けないだろうな、と残念に思っていただけに。
ハートに火をつけて
太陽が欲しいだけ
Termination
Living Dying Message
Vampiregirl
白夜の日々
Calm Down
カモメ
名もなきヒーロー
Talking Machine
新しい光
Punisument
配信の待機画面が会場の映像に切り替わるとステージには既にメンバーの姿があり、卓郎さんが「9mm Parabellum Bulletです、こんばんは」とひと言。この日のサポートメンバーは武田さん。
滝さんのタッピングで始まるロング・グッドバイから威勢よくライブがスタート。配信ということもあり最初は冷静な気持ちで画面を見つめていた。何度も切り替わるカメラアングルで今回どれだけカメラの台数が多いのかを把握し、いきなり驚かされた。2曲目はハートに火をつけて。引き続き情熱的な赤色のステージ。2番では卓郎さんが「手触りだけの“赤坂BLITZ”は」と歌詞を変えて歌っていた。武田さんが弾きながらかみじょうさんの方を何度か向いて確認しているような様子や、最後のサビでコーラスのためマイクから離れられない滝さんの分まで頭を大きく振りながら演奏するところが映っていた。
続いて反逆のマーチ、イントロでは卓郎さんが普段のライブと同じように手拍子をしていた。最後のサビ前には滝さんがギターを掲げ、アウトロでは卓郎さんと滝さんの頭の振り方が綺麗にシンクロしていたり、下手では和彦さんが片足をモニターに乗せるようにして弾いていた様子などが映された。最後に和彦さんがベースの指板をスラップのように一発叩くと、さらに気合を入れるかのようにシャツの右袖を捲る。
そこから太陽が欲しいだけ、ステージ全体が映され上手では滝さんが高速リフを弾き、下手では和彦さんが自分の左胸を拳でトントンと叩いてみせる。この曲ではとにかく卓郎さんの優しい眼差し、笑顔が印象的だった。「さあ両手を広げて すべてを受け止めろ」と歌い上げた後に笑顔で両手を広げる卓郎さん、という見慣れた姿があった。更にノンストップでインフェルノへ。90秒の演奏をあっという間に駆け抜け、音が止まると卓郎さんが「ありがとう」とひと言。
ここまでのブロックでは特に気持ちを奮い立たせるような曲が並んだな、という印象。反逆のマーチの「でっかい壁にぶつかってんだ 絶体絶命も上等さ」から太陽が欲しいだけの「それでも最後には笑え」に至る流れ、インフェルノの「運命を喰い破れ いくらでも悪あがけ」まで、今どういう言葉が必要なのかを考えて組まれたような気がして、心から頼もしく思えた。
滝さんが徐にギターの音を鳴らす中で卓郎さんが「こんばんは、9mm Parabellum Bulletです」と挨拶し、嬉しそうな笑顔で拍手。今回の配信について、卓郎さん曰く内容としては実質2020年最初のワンマンライブです、と。6月30日に7ヶ月振りにライブをしたこと(新代田FEVERから配信された“カオスの百年~YouTube Super Chat~”)、ライブのない期間が今まではそんなに空いたことがなかった、とも。
「演奏している時の気持ちは、お客さんは目の前にはいないけれどライブをしている時の…音楽が始まった時の気持ちは意外とこれまでの、みんなが目の前にいた時とあまり変わらないです」「信じるかどうかはあなた次第ですけど、ライブ観てるぜ9mm、という気持ちを送ってください」
卓郎さんがいきますか、と自分たちに言い聞かせるように呟き、「いけるかー!」を1回。
そこからTerminationへ、イントロで武田さんがいないことに気付く。無観客ということでサビに入る直前の「歌ってくれー!」が無かった。滝さんが間奏で卓郎さんに、ギター!と振られると表情に思いっきり力を込め、お腹が見えるぐらいの勢いでギターのネックをぐいっと立てたりと気迫のギターソロを見せる。最後のサビのコーラスはファルセットで綺麗な歌声を出していた滝さん。同じく最後のサビで思いっきり腕を振り上げて叩くかみじょうさんが映った。
続いては久し振りにセトリ入りした気がするLiving Dying Message、イントロにて滝さんがギターのネックを一本釣りのようにぐいっと上げる懐かしい光景。間奏ではすっかり伸びた和彦さんの髪がふわっとなびく様子が、アウトロではシャウトする和彦さんが画面に抜かれた。次の曲、Vampiregirlの入りで卓郎さんが楽しそうに左右の拳を交互に挙げて踊っていた。滝さんのかっこいいスクラッチからサビへ、普段フロアから大合唱が発生する「You’re Vampiregirl!!」は滝さんが声を張り上げる。間奏は下手ではモニターに腰かけて弾く和彦さん、上手ではお立ち台の上でソロを弾く滝さんがそれぞれ映る。最後の「悪夢まがいの現実の中で~」の部分では和彦さんがベースを高く掲げていた。かみじょうさんが最後にシンバルを静かに掴んで音を止める。
ここで再びMC。今年の9月9日=9mmの日はシングルをリリースします。白夜の日々というタイトルで、3曲入りのシングルです、と話し始める卓郎さん。
「緊急事態宣言の自粛期間が明けからレコーディング始めたけど一部リモートで、和彦が自宅でベースを録ったりとか、今しかできないやり方でレコーディングしました。歌詞も2ヶ月間、緊急事態宣言下で過ごしていた日々のことを歌詞の中にメッセージとして書きました。」
「どうしても9月9日はライブもやるつもりだったし、その先のツアーとか、今年はたくさんおれたちツアーするつもりだったんだけど…どうしてもあれをやるつもりだったとか、これをするはずだったのになということに思いを馳せちゃうのは仕方ないな、ということで。仕方ないけどそれで終わりたくないんで。前に進んでいけるような何か新しい道が見つかるようなそういうところも曲の中に込めたつもりなんで、新曲を、白夜の日々をこれから演奏します。」
「皆さん聴いてください、白夜の日々」と卓郎さんがタイトルを告げてから始まった、新曲の初披露。ステージ後方にいくつか置かれていた丸いものがここで初めて光を発し、照明だったことが分かった。(ドラムセットの後ろにもあったため最初は銅鑼だと思っていた)クリーンと歪みの切り替えが凛々しく、サビの「いつか当たり前のような日々に流されて すべて忘れても 君に会いに行くよ」という歌詞が優しい。綺麗な曲だな、というのが第一印象だった。
白夜の日々初披露が終わるとしばしの静寂から滝さんのギターがゆらゆらと鳴り、そこへ穏やかに音が重なる。静かなカウントから音が徐々に広がってCalm Downへ。丸い照明がぼんやり赤く光り、暗いステージに4人の赤い影を作る様子がとても幻想的だった。和彦さんの、ベースをつま弾く手元が画面に映る。曲が進むと丸い照明の右半分の輪郭が青に、左半分輪郭が赤に変わりステージが2色に染まる。去年のツアーと同じ配色。更に演奏が激しくなるにつれて照明もそれに呼応し、最後の全てを焼き尽くすかのような轟音と共に真っ赤になったステージが、音が消えると真っ暗に。
一瞬だけ音も光も消えた空間に、聴き慣れたリバーブのかかったギターの音が現れる。カモメ。歌いだしの直後に滝さんが2度ほどアンプに向かい音を調整していた。濃い青色の照明が、先程の灼熱のような赤色との対比でより深く映えていた。個人的には1サビ後の滝さんのひらりとしたギターのフレーズがとても好きなところ。2番に入ったあたりで下手の袖に卓郎さんのギターを持って控えているスタッフさんが映った。その方が曲のテンポに合わせて親指でギターのネックを軽く叩くように拍を取っていて、その様子が何だかとても良かった。ステージ下のカメラから卓郎さんを映した時のスポットライトと、終盤でステージ後方の丸い照明が柔らかく光を放ち、その様子が夜明けのようで大変美しかった。
音が止まるとここで卓郎さんが、ステージに戻ってきた武田さんを改めて紹介。丁寧なお辞儀からギターのネックを掲げてみせる武田さん。
話し続ける卓郎さんが9月9日にリリースされるもう一枚のCD、9mmのトリビュートアルバム「CHAOSMOLOGY」について、総勢18組のアーティストが参加し、2枚組でDisc1は歌盤=ボーカルありでDisc2は(そういうパターンのトリビュートは)あんまり聞かないと思うんですけど…インスト盤です、と紹介。
「とても面白いので是非聴いてください、タイトルのCHAOSMOLOGYは“CHAOS”と“COSMOS”=混沌と秩序、 “~LOGY”=学問で混沌と秩序の学問、みたいな、9mmのことをそういう風に解釈して再構築して演奏してもらっているのでみなさんよろしくお願いします。」
卓郎さんが話している間にBGMを付けるかのようにギターの音を出す滝さん(宇宙みたいなふわふわした音を出していた)と、それに合わせるかのように手にしたスティックを回したりスティックで音を出していたかみじょうさん。
「こうやって演奏すると早くライブハウスに帰りたいなと思うけれど、焦らずいきましょう。先は長い…焦らずいきましょうって言った後にいけるかーっていうのもなんですけど(笑)」と笑いながら言った後にいきますか、とここでも小さく呟いてから、普段のライブと同じように、
「いけるかー!!」
「いけるかー!!!!!」
「いけるかー!!!!!!!!」
ここからは5人での演奏に戻る。Answer And Answer、「0時5秒前に~」の部分で丸い照明の外周を水色の光が目まぐるしく回るという、曲のスピード感をそのまま視覚で表したかのような照明が目立つ。2番の汽笛を鳴らす部分は滝さんを、その直後には片足を上げるようにして演奏する和彦さんをカメラが抜く、というカメラワークも同じくスピード感があって良かった。2サビでは滝さんと武田さんが息ぴったりな様子で頭を振っていた。
そこから名もなきヒーロー。ライブアレンジのイントロがないという珍しいパターン。水色とピンク、というMVと同じ色合いを丸い照明が作り出していた。その2色を基本にしつつ、サビの後半の「また明日」でステージが真っ赤になったのが去年のツアーと同じ演出だった。2サビの「たおれたらそのまま空を見上げて」の部分で歌詞に合わせるように視線を上に移していた卓郎さん。最後のサビの入り「勝ち目が見当たらなくたって~」の部分で滝さんが手拍子を煽るかのようにギターのボディを叩いていた。その後は口元にキュッと力を込めつつ演奏を続けるかみじょうさんの横顔が映った。
間髪入れずにTalking Machineへ、いつものライブアレンジのイントロでは卓郎さんがピックを咥え上手の方を観ながらマラカスを振り、それが終わると両手を挙げて手拍子、そして「1,2,3,4!!」は卓郎さんと滝さんが声を張り上げる。2番の「衛星から~」の部分では卓郎さんが手拍子をしつつ、「空を見上げているだけ」と歌う通りに右腕を上げ、見上げる卓郎さん。2サビの直前で大きくジャンプする滝さんをカメラがしっかり捉える。アウトロに入る際には卓郎さんが「お、ど、れーー!!!!」と思いっきり叫んだ。
クリーンなギターの音、こちらもライブアレンジのイントロから新しい光。真っ白な照明が演奏に合わせて派手に点滅する。2回目のサビだったか、滝さんがオクターブ下のコーラスを入れるという珍しいことがあった。(今までに観た記憶がないので初めてだったか、相当稀なのか…)最後のサビ前には音を思いっきり歪ませて早弾きもしていた。終盤、全く同じタイミングでギターを掲げる滝さんと拳を突き上げる武田さん、という場面もあった。
予想を遥かに超える曲数のライブだったがこれが最後の曲、Punishmentの間奏では和彦さん、卓郎さん、滝さん、武田さんが横並びになって演奏、アウトロではかみじょうさんの乱れ打ちとフロント4人が思い思いに暴れ回りこの日のライブを締めくくった。
演奏が終わると滝さんと武田さんはいつものように早めに退場、卓郎さんはギターを両手で掲げるようにし視線を上に移し、その後拍手をしたりカメラに向かって手を振って見せる。袖に引っ込む前に一度立ち止まり丁寧にお辞儀をすると袖の中に消えていった。卓郎さんのあとに続くようにかみじょうさんも退場すると、無人のステージ映像と卓郎さんたちがステージに残していったノイズにエンドロールが重なり、配信が終わった。
全16曲、およそ1時間半ほどだったか。アンコールはなかったもののここ数年のワンマンライブとさほど変わらない曲数だった。だから“実質ワンマンライブ”という表現に偽りなしの内容だった。
もちろん配信ライブは生で観るライブの代替になるなんて思っていないし、やはり配信だからと序盤は冷静に、慣れない緊張感のようなものを伴いながら観ていたが卓郎さんが「ライブをしている時の気持ちは意外とこれまでの、みんなが目の前にいた時とあまり変わらない」と言ってくれたことでその後は少しほっとして構えずに観られるようになったし、最終的には普段のライブに近い気持ちの昂ぶりと共に小さな画面に噛り付くようにして観ていた。楽しかった。
中盤、Termination・Living Dying Message・Vampiregirl・白夜の日々・Calm Down・カモメ の6曲は武田さんは演奏に参加せず、9mmメンバー4人だけでの演奏だった。サポートメンバーを入れるスタイルになってから4人だけで連続で演奏した曲数としては最多である(今まではアンコールの1~2曲は4人だけで、という日は何度もあったが)。久々に4人編成で演奏された 9mm初期の代表曲たち…Termination・Living Dying Message・Vampiregirlはすっかり貫禄が出ていて、それを観ながらふと「滝さんの体調に何事もないまま16周年を迎えた9mm」はきっとこんな感じなんだろうな…と思ったらようやくこの光景が観られたことへの嬉しさがこみ上げてきて堪らない気持ちになった。
そして、新曲「白夜の日々」について。
前述の通りクリーンと歪みの切り替えが凛々しく、語りかけるような言葉選びが優しく、それでいて内に秘めた熱さがあるような綺麗な曲、という第一印象。演奏前に卓郎さんの口から緊急事態宣言下で過ごしていた日々のことをメッセージとして込めた、というひと言があったため歌詞のひとつひとつがリアリティと切実さを感じさせるものに聞こえた。
それから、これは本当に自分の深読みが過ぎるだけだとは思うが、サビの「いつか当たり前のような日々に流されて すべて忘れても 君に会いに行くよ」という優しい歌詞の裏に“また会えるようになるまでどうか忘れないで”という言葉が隠れているような気がしてしまって胸がぎゅっとなるような、何とも表現しがたい気持ちになってしまった。
自分たちが生き甲斐にしている音楽やライブがこの期間にどういう扱いを受けたのか、ライブが長いことなくなって自分たちのような音楽が特に好き、という人間以外にはライブの存在意義がどんどん薄れていってしまうのではないか、そういう心配ばかりをしていたのでそんな深読みをしてしまったのかもしれない。9mmも本来であれば“終わりのないツアー”を開催し今年1年全国各地のたくさんの場所でライブをしているはずだったのに。
それでも卓郎さんは、やるはずだったことに思いを馳せるのは仕方ないと言いつつ前に進んでいけるようにと「焦らずいきましょう、先は長い」と、とても冷静に構えていた。おかげで卓郎さんの言葉を聴きながら、また会場で会える日を待ち遠しく思いつつ今はできる限りの方法で鳴らされる音をできる限りの方法でそれを楽しまないとな、という気持ちにもなった。
今は9月9日のシングルとトリビュート、そして今年の“9mmの日”のワンマンライブを楽しみに待っている。