最後の駅の向こう

何でもすぐ忘れる人の特に記憶に残しておきたいライブの簡易レポートと趣味のレビューの予定。あくまで予定。

20201122/9mm Parabellum Bullet“2Q2Q”@渋谷CLUB QUATTRO

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11月21日・22日の2日間、渋谷CLUB QUATTROにて開催された9mmの今年初となる有観客ライブの、22日公演を観に行った。

9mmが最後に客の前でライブをしたのは同じく渋谷CLUB QUATTRO、今年の年明け直後だった(バンドの中では2019年のライブという扱いになっている)ので実に11ヶ月半振り。6月の緊急事態宣言解除後から9mmは非常に慎重に活動していて、年内のツアーを延期にしたり、中止にした分を配信ライブに変えるなどの対応をしているため今年9mmは有観客ライブをやらないと思っていただけに嬉しかった。

 

今回はシングル&e.p.曲のみでセトリを組むということが事前に発表されていた。シングル縛りなんて今までなかった気がするし、シングル曲でも長いことライブで演奏されていない曲もあるので楽しみにしていた。シングル縛りということは、普段ライブの終盤に演奏されることの多いTalking MachineもPunisumentも(teenage)Disasterもロング・グッドバイもやらないということなので、どの曲をセトリの最後に持ってくるのかが個人的には一番気になっていた。

 

昨今の状況を受け、各地でライブが再開した後も自分はしばらくライブハウスに行くのを控えざるを得なかったので、ガイドライン制定後にライブハウスに来たのはこれが2回目で、会場がどのような対策を取っているのかも気になっていた。入場時に体温測定、間隔を開けて並びチケットのアプリ画面での操作も自ら行う、などの対応が徹底されていた。また開演前にはアナウンスが2回あり、座席移動は禁止、自席での立ち見や手拍子や拍手は可、終演後は規制退場となること等がしっかりと案内された。

 

会場に入るとステージではなくフロアの下手側の壁に、いつものバックドロップが掲げられているのが目に入った。フロアとその周りの段差の上にパイプ椅子が並べられており、席数は200を少し超えるぐらいだろうか。クアトロと言えば下手前方に柱が立っているが、さすがにその後ろには椅子は並べられていなかった。

自分が入場した時に下手側の段差の上にある座席が空いていたので、そこで観ることにした。下手端の方から斜めにステージを観るような角度。開演10分前にはサウンドチェックが始まったがその光景も随分懐かしいような気持ちで観ていた。ほぼ定刻に客電が落ち、ライブが始まった。

 

 Blazing Souls

The World

Answer And Answer

ハートに火をつけて

新しい光

インフェルノ

サクリファイス

Wanderland

命ノゼンマイ

生命のワルツ

カモメ

白夜の日々

名もなきヒーロー

Cold Edge

反逆のマーチ

Black Market Blues

 

 Discommunication 

 

暗転後に流れたのはお馴染みのSE、Digital Hardcore…ではなく先月配信リリースされたばかりの新曲、Blazing Soulsだった。曲が流れるとそれまで座っていた客が一斉に立ち上がる。卓郎さん、滝さん、和彦さん、かみじょうさんの4人がステージに揃うと曲の途中から演奏が始まった。完全に予想外だったのでびっくりしてしまったが、Blazing Soulsでの登場はとても勇ましさがあり、一気に気持ちが昂ぶった。真っ先に新曲を聴いてもらいたいという意図もあったかもしれないが、このライブは生配信もされており、権利関係など何らかの問題でDigital Hardcoreを流すことが出来ないためにこうなったのかもしれない、とも思った。(今までの配信ライブでもDigital Hardcoreは一度も流れなかった。)

自分がいた下手側の端からステージを観ると和彦さん、卓郎さん、滝さんがちょうど被らずに見え、かみじょうさんは卓郎さんのアンプが被っており更に顔の前にシンバルがあったため動き方によっては若干見える、という感じの視界だった。ちょうど自分の目線が和彦さんの手元と同じくらいの高さだったので、この日は全体を通して和彦さんの手元に釘付けになることが多かった。

 

次の曲はThe World、今まで何度も何度も聴いてきた「目を凝らして焼き付けてみる 明日も僕らが生きていく世界を」の一節をこの状況と重ねて聴いてしまった。2回目のサビでは滝さんがアドリブのフレーズを入れていた。続いてAnswer And Answer、和彦さんがすっかり伸びた髪をなびかせ、長い手足とベースのネックを大きく動かしながら演奏する様子に迫力がすごい…!!と初めてライブを観た人のような感想が出てしまった。そんな感想が出るほど久々の生9mmなんだな…と実感した。

ハートに火をつけて ではベースラインに合わせて終始和彦さんが小さくステップを踏むように足を動かしていた様子が小気味良く、その動きをずっと観ていた。最初のサビで卓郎さんが「灰にならないか渋谷ーー!!」と思いっきり叫んだ。間奏で卓郎さんと和彦さんが左にスライドしなかったのが珍しかったところ。

いつもライブ終盤に来ることの多い、新しい光が5曲目に入ってきた。2回目のサビ後の間奏では和彦さんがかみじょうさんの前に移動して向かい合うようにしゃがみ、その姿勢でベースのネックを上げていた。最後の「君を連れて行くのさ」の部分でかみじょうさんがだんだん音が大きくなるようにドラムを叩いていたのが曲の高揚感を一層盛り上げていた。 アウトロでは和彦さんが定位置を飛び出し、ステージのかなり端まで来てくれた。

 

「みなさんようこそお越しくださいました!来てくれて本当にどうもありがとう!」と卓郎さんが嬉しそうに話し始める。「今日は配信もやってますけど…今までの配信ライブは、みんなの好きなところで観られるし、本当は一人ひとりの家でやってもいいくらいのもんでしたけど、今日は渋谷CLUB QUATTROでやってる、みんなが観ているライブを配信で観てもらおう、という日なので、みんなの声は出せなくても、拍手で伝わる…(ここで拍手が起こる)あ、いいよ拍手してください…伝わるからひとつ、盛大なやつをしてください!」卓郎さんが「大丈夫だな渋谷!いけるかー!!」と叫ぶと、声を出せない代わりにフロアから全力の拍手が起こったり、拳が上がった。

ここまでの5曲は4人で演奏していたが、卓郎さんが話している間にこの日のサポートギター・武田さんがステージに登場。武田さんが定位置に立つと、滝さんの奥にその姿が見えた。

 

ステージが真っ赤になり、あっという間に駆け抜けるインフェルノ。鋭い眼差しで歌っていた卓郎さんが、歌い切った瞬間にパッと笑顔に変わった瞬間を観た。ステージが真紅から深い青へ切り替わり、滝さんが弾き始めたのはサクリファイスのイントロ。いつもと何か違うなと思ったら原曲よりキーを一音下げていた。キー下げのサクリファイスは初めて聴いた気がする。それまでしなやかにドラムを叩いていたかみじょうさんが、この曲の時には腕を思いっきり振り上げ、力強く叩き始めたのでついそちらに目を奪われる。シンバルの揺れ方がそれまでとは明らかに違っていたほど。(また当日は気付かなかったが、翌日にアーカイブを観た際に最後のサビで滝さんが卓郎さんの歌を追いかけるようなコーラスを入れるという新しいアレンジがあったことを知った。)次の曲はWanderland、シングル曲の中ではあまりライブで演奏されない曲なので イントロで歓声を上げそうになったが声を出してはいけないので何とかこらえる。

 

「今日はシングル&e.p.祭りです。その時々の9mmの顔としてみんなの前に届けられた曲ですが…おれたちも今年結成16年になるので、なかなか演奏できない曲もありますが、今日は彼らにも活躍してもらおうと思います。」

卓郎さんが話している時から滝さんがギターで静かに奏でていた不穏な音色で次の曲を何となく察した。その怪しげな雰囲気のまま滝さんがギターのナットとペグの間を鳴らす。卓郎さんの言った通り、シングル曲でありながら今や滅多にライブで聴けなくなった曲、命ノゼンマイ。自分が最後に聴いたのはもう6年も前だったかと思う。なので5人編成で演奏される命ノゼンマイはこれで初めて聴けたことになる。その編成の良さを最大限生かすように、間違いなくこの日一番の音圧を叩き出していたアウトロが圧巻だった。

拍手と一瞬の静寂の後、生命のワルツのイントロ音源が流れ、そのまま演奏へ。1番に入ったあたりで滝さんと武田さんが同時にギターのネックを大きく振る。最初のサビ後の間奏で和彦さんが大きな手を広げ、両手でネックを叩くようにして音を出している様子が記憶に強く残っている。

卓郎さんがアコギに、滝さんがエクリプスに持ち替えてから演奏が始まった、カモメ。空間いっぱいに広がる、包容力のあるリバーブがかかったギターのメロディーがとにかく心地よく、じっとステージを観ながら聴き惚れていた。間奏の途中でかみじょうさんのスティックが折れてしまったらしく、滝さんの後ろ辺りまで折れたスティックが飛んできて転がっていた。

 

ここで再びMC。卓郎さんが武田さんの方を見ながら、「サポートギター、武田将幸!」と紹介すると笑顔で手を上げる武田さん。かみじょうさんがドラムロールで盛り上げると武田さんが深々とフロアに向かってお辞儀をしていた。

「9mmが最後にお客さんの前でライブをしたのは2019年12月31日、正確には日付が変わって…そのクアトロのステージでした。それから11ヶ月振りに昨日、お客さんの前でライブしたんですけど、今日はそれに続き2日目のライブで、もう何回も、それしか言うことないんだけど、今日は来てくれて本当にありがとうございます。」

「配信ライブをやっていても、観ている人がいるのを感じると言うか…気のせいかもしれませんけど。同じ時間に物事が動いているのを感じながら演奏できたから配信ライブでも情熱的に演奏できたと思ってたけど、たとえみんなが声を出せなくてもみんながそこにいて反応してるだけで全然違う。ライブしている意味がある。」「いろんな人が集まって同じものを見て楽しもうという空間を、ちょっとずつ対策をしながら動かし始めてますけど、行ったり戻ったりするかもしれないけど、みなさんこれからも9mmを応援よろしくお願いします。」卓郎さんが話すたびにフロアが拍手で応えた。

「白夜の日々という…今年はツアーをたくさんするつもりだったから、君に会いに行くよ、という歌詞の曲を作ったんだけど、なかなか会いに行けませんで、11ヶ月。代わりにみんなに今日来てもらったけど、会いに行くぞという気持ちは変わらないので、配信で観てくれているみなさんもいずれ必ず会いましょう。今日ここにいるみなさんも、必ずまた会いましょう。」

卓郎さんが「いけるかーー!!」と叫んでも声でそれに応えることが出来なくてもどかしかったが、全力で拳を振り上げて応えようとした。フロア全体が声を出せない代わりに各々できる方法で卓郎さんに応えた。声を上げられないフロアを援護するかのように、かみじょうさんが思いっきりチャイナシンバルを鳴らした。

 

 白夜の日々の演奏が始まると、ステージ上のおびただしい数の照明が一斉に白く輝き、ステージを眩い光で包み込んだ。もしかしてこの演出のためにバックドロップをステージに掲げなかったのだろうか。曲の煌めきを視覚で完璧に表現したような、美しい光景だった。卓郎さんが2番で「星が見えなくなった“渋谷”の街は今夜も」と歌詞を変えて歌っていた。間奏のソロは武田さんが滝さんのオクターブ下を弾いているようだった。その息ぴったりな様子に感嘆しきりだった。遂に生で聴けた白夜の日々、先ほどの卓郎さんの話と共にひとつひとつの言葉が深く沁み入り、何とも言えない安心感とこみ上げてくるものがあった。

「流されずに 生きるために 君に会いに行くよ」と歌う白夜の日々に続けて演奏された名もなきヒーロー、「勝ち目が見当たらなくたって逃げたくないから笑ってんだろ くじけそうな心をふるいたたせて」の一節でそれまで抑えていたものを止められなくなってしまった。昨年のツアーからずっと変わらない、青とピンクの照明がサビの「また明日」で赤一色に切り替わるという色の変化が個人的にとても好きなところで今回も観られて嬉しかった。「守りたいものにいつも守られているんだね」の歌詞で真っ先に頭に思い浮かんだのは、自分がまさに今立っている場所だった。最後のサビに入るところで和彦さんと滝さん、という両翼が同時にギターとベースのネックを大きく振り下ろした光景も堪らなく嬉しかった。

名もなきヒーローのアウトロから間髪入れず、ドラムのカウントも入れずにCold Edgeへ。客が声を出せない代わりにイントロで叫んだのは卓郎さん!マイクから離れていたのにかなり大きな声だったので、卓郎さんがどれだけ全力で叫んでいたのかがよく伝わってきた。和彦さんが間奏の入りで「渋谷ーー!!」と叫んでいたが、この日の和彦さんのシャウトの中でこの部分が一番の声量だった。間奏後、再び歌に入るところでかみじょうさんがスティックを回したり投げたりするのが見えた。最後のサビ前、「飛び立て」と歌われた瞬間に和彦さんが両足で高くジャンプしながらぐるっと一回転した。アウトロで客の代わりに叫んだのも和彦さんだった。

Cold Edgeから更にノンストップで、ここでも照明の青と赤の切り替わりが見事だった反逆のマーチ、間奏の入りで和彦さんがベースを大きく振り回すとシールドが卓郎さんのギタースタンドに絡まってしまった。するとすかさずシールドをほどき、ギタースタンドを後ろに放り投げ素早く演奏に戻っていった。思わぬアクシデントも鮮やかに切り抜けた和彦さん。

本編最後の曲はBlack Market Blues、卓郎さんが「渋谷CLUB QUATTROに辿り着いたなら!!」と歌った。2番の入りでは和彦さんがアンプのキャビの前にしゃがみこんでノイズを出していた。その後和彦さんも手拍子を煽っていたが、元々手拍子が多く入っているこの曲なら、この状況でも遠慮なくいつも通り盛り上がれる!

 

 本編が終わり、滝さんが真っ先に退場、武田さんもそれに続く。かみじょうさんも早めにステージから去る。和彦さんと卓郎さんはいつものようにフロアのあちこちに視線を遣り挨拶。最後に卓郎さんがいつものように万歳三唱を始めたが、客が歓声を上げられないため無音でみんなで万歳をするというシュールな画になってしまい、それまで声を出すのを我慢していたフロアからクスクスと静かな笑い声が漏れた。

アンコールの手拍子が鳴る中、フロアにひっそりと掲げられていたバックドロップにちゃんとスポットライトが当たっていたことに気付いた。ステージではないところにあっても普段と同じように扱われていた様子を見てちょっと嬉しくなった。

 

 ステージの照明が点くと5人が再び登場。卓郎さんは先ほどまで着ていた白シャツから新しいグッズである2Q2Qの白Tシャツに着替えていた。かみじょうさんも新しいグッズであるコーデュロイキャップを被って登場。かみじょうさんが帽子を被っている姿はかなりレアなのでは…。

アンコールに演奏されたのはDiscommunication、この曲は以前から9mmのライブでは珍しい、黄緑っぽい色の照明が使われていたがこの日も黄色い照明が使われていた。また、サビではフロアの2ヶ所くらいに設置されたミラーボールが回っており、とても綺麗だった…と言いたいところだが、柱の陰になってしまいちゃんと見えなかった。今日は柱に邪魔されずにライブを観られるぞ!と思っていたのに思わぬところで結局あの柱に邪魔されてしまうとは。

最後のサビの歌が終わりアウトロに入るあたりで和彦さんが徐に卓郎さんのギタースタンドを後ろに退け、その後演奏に戻ると遠慮なくぐるぐると大きく動きながら弾いていた。反逆のマーチの時にギタースタンドを倒してしまったのを受けて今度は事前に退けたと思われる。先ほどと同じことが起こらないように対処してから思いっきり動く和彦さんの姿が最高にかっこよかったのと、その判断が曲中にできるほど和彦さんが冷静だったということに驚きながら観ていた。演奏が終わり、卓郎さんがギターを置こうと後ろを向いたところでスタンドがなくなっていてあれ?というリアクションを取っていたのがちょっと面白かった。 

 

演奏が終わると滝さんが上手からふらふらと歩いてきて退場していった。全エネルギーを出し切ったことが伝わってくるような後ろ姿だった。続いて武田さんも退場。かみじょうさんが前に出てくると被っていたキャップを取り、そのままフロアへ投げた…が、キャップはフロアへ落下せず、上手いこと天井の照明に引っかかってしまった。これには笑いを堪えきれなかったフロア。大きく目を開いてびっくりしている表情を浮かべるかみじょうさん。卓郎さんのマイクで「どうする?」的なことも言っていた気がする。その様子を見ていた卓郎さんが「アンコールはアーカイブが無いんだけど…生配信はしてるけど、アーカイブなくてよかったね!」と言うので更に笑ってしまった。(事前にアンコールは生配信の時のみ流し、アーカイブではカットすると告知されていた。)一旦ドラムセットの方に戻ったかみじょうさんがスティックを2本手にして戻ってくると今度は和彦さんのマイクで「新品のスティックあげるから許して!」と言ってからフロアにスティックを投げた。卓郎さんがスティックを取った人に向かって「ちゃんと消毒してね~」と声をかけるとかみじょうさんが何とも言えない表情をフロアに向けてから退場していった。このくだりの途中でいつの間にか和彦さんも退場し、最後に残った卓郎さんが面白がるような表情で再度静かな万歳三唱をし、フロアに挨拶をしてステージを去っていった。

 

 

本編では16曲も演奏されたが、曲と曲の繋ぎやMCを簡潔にして僅か1時間余りでやり切った。状況に配慮しながらもしっかりとワンマンの曲数を詰め込んでみせた。アンコールを含めても1時間半ほどだったかと思う。

久々に画面越しではなく直接自分の目で観られた9mm、演奏中に卓郎さんと滝さんが何度もアイコンタクトを取る様子や、和彦さんがステージの前の方まで出てきて何度もフロアを煽ったり、曲のいいところでお立ち台に片足を乗せて時にはベースを掲げるようにして弾く様子などのお馴染みの光景が嬉しかった。

 自分の見えていた範囲だと、和彦さんと卓郎さんがライブ中ずっと、フロアの隅々まで視線を送っていた。和彦さんは演奏中にフロアを覗き込むようにしていたし、卓郎さんはMC中もあちこちに視線を遣り、自分のいた下手の端まで観てくれていた。卓郎さんは目線が止まった瞬間に更に目を細めて優しい笑顔を向けていた。

 

 ライブが始まる前から気になっていた、シングル&e.p.縛りセトリの最後の曲はDiscommunicationだった。ライブを観ている時にはこれを最後に持ってくるのは意外だったな、などと思ったくらいだったが、ライブの最後を締め括った歌詞が「朝までかけて近付いても 最後の最後にすれ違う わたしはあなたの探し物 早くここまで迎えに来て欲しいの」という激しく焦がれるような一節だったことに後で気づいてはっとした。

今年の不安定な状況に翻弄されて一進一退を繰り返さざるを得ない音楽周りのあらゆる物事、それ以外にも会いたい人に会えない、やりたいことができない、手に入れたいものを諦めざるを得ない、といったどうしようもないまま抱えている色々な気持ちがこの一節に全部重なった。

繰り返しになるが9mmはこの状況でかなり冷静に状況を見極めて焦ることなく活動してきた。先月の配信ライブではこの状況に対して卓郎さんが「正しい怖がり方をしましょう」と言っていた。その姿勢を見せてくれたからこそ、こちらも焦る気持ちを抑えて配信ライブなどを楽しむことが出来た。自分の勝手な解釈かもしれないけれど、その冷静な行動や姿勢の奥に隠していた、生き甲斐としてきたことに焦がれる強烈な思いをあの一節に見た気がした。

 

卓郎さんがMCで言っていた通り、徐々にライブが再開されつつあるとはいえ全体的な状況は行ったり戻ったりを繰り返している。そんな中でやっと、やっと9mmも有観客ライブを再開できた。今までと勝手が違う状況はしばらく終わりそうになさそうだけれど、守るところはしっかりと守って出来る範囲の中で、ライブを楽しめる生活が徐々に戻ってくることを切に願っている。

 

20200909/9mm Parabellum Bullet “白夜の百年”@KT Zepp Yokohama(Streaming+配信)

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今年も9月9日=“9mmの日”がやってきた。
毎年何かしらの楽しい出来事がある9月9日、今年はシングル「白夜の日々」とトリビュートアルバム「CHAOSMOLOGY」のリリース、そしてそれに伴うツアー“カオスの百年 TOUR 2020 〜CHAOSMOLOGY〜”初日公演が9mmの結成地・横浜に新しくできたライブハウスKT Zepp Yokohamaにて行われる、予定だった。しかしこのご時世…ツアー初日の9月9日公演は中止、他の公演は来年に延期となってしまった。
それでも9mmが、“9mmの日”を何もせずに終わらせる訳がなかった。ライブが中止になった代わりに配信ワンマンを開催、しかも事前に聴きたい曲のリクエストを募り上位の曲をセトリに入れるという嬉しい企画、更に「CHAOSMOLOGY」参加アーティストのうちfox capture planの岸本亮さん、チャラン・ポ・ランタンストレイテナーホリエアツシさんがゲストで出演することも発表された。

 

今回はライブの前に1時間ほど、事前収録のトークが配信された。まずは卓郎さんと和彦さんが近況やこの日リリースされた「白夜の日々」と「CHAOSMOLOGY」について話す、という内容。後半では9月9日のライブに出るはずだったfolcaの3人を迎えてのトークも。9月9日が誕生日のケンジさんをお祝いしたり、卓郎さんと爲川さんが似ているというお馴染みのネタから卓郎さんが爲川さんのご家族と会った際にお兄さんより似ていると言われたらしい、という話も。出演予定のライブが中止になってしまったfolcaに、この場で来年のライブに出て欲しいというオファーをサプライズでしていたので、9mmとfolcaの対バンは来年のお楽しみ、ということになった。トークが終わりしばらく待機画面が続いた後、画面がメンバーのいるステージに切り替わった。

 


(teenage)Disaster
Lost!!
Vampiregirl
The Revolutionary
光の雨が降る夜に
エレヴェーターに乗って
Keyword
白夜の日々
ロードムービー
Calm Down
ガラスの街のアリス
ハートに火をつけて
カモメ
Answer And Answer
名もなきヒーロー
Black Market Blues
太陽が欲しいだけ
ロング・グッドバイ

Lovecall From The World
Punishment

 

9mm Parabellum Bulletです、こんばんは」という卓郎さんのひと言からライブがスタート、曲に入る前から滝さんが元気にギターを振り回す。1曲目は(teenage)Disaster、天井から派手にスモークが出てきて、赤い照明を浴びてステージを赤い靄で包む。アウトロでも滝さんはかなり大きく動いていた。曲中に気付いたがステージにいるのは4人だけ、最初はサポートなしでの演奏だった。結成地・横浜で9月9日にやるライブの1曲目がこの曲というのは何とも嬉しい。ステージに掲げられたバックドロップはいつもの双頭の鷲ではなく、今年初めから販売されているグッズでも使用されている、心臓のような絵に「CHAOS IN 100 YEARS」と書かれたロゴが描かれたものだった。更にその上に手書き文字風にバンド名が書かれていて、照明が当たるとそれが浮かび上がってくるようになっていた。
続いてはLost!!、先程まで赤かったステージが今度は青へと変わる。要所要所で抜かれた、和彦さんのベースを指弾きするしなやかな手つきが美しかった。何が正解なのか分からないこのご時世に聴くと余計に切実な歌詞だなと思わされる。最後のサビに入る前に卓郎さんが、気合を入れるかのように声を上げていたのが聞こえた。
そのまま間髪入れずにVampiregirlへ。早口のパートで卓郎さんのマイクにエフェクトがかかっているように、声が少し歪んで聴こえる気がしたが…。間奏ではモニターに腰かけてベースを弾く和彦さんとお立ち台に上がってソロを弾く滝さん。最後のサビでは卓郎さんが「頭空っぽに“しなくちゃ”」と歌詞を変えていた。トリビュートでVampiregirlをカバーしたUNISON SQUARE GARDENがそのように歌っていたので、それに倣ったことに気付く。
かみじょうさんがステージの前の方を確認するように目線を遣りながらドラムを叩き続け、卓郎さんが楽しそうにイエーイ!!と声を上げてから演奏されたのはThe Revolutionary、曲調に合わせ眩く照らされるステージ。間奏では和彦さんはステージ中央に移動しかみじょうさんと向かい合わせになって弾き始め、卓郎さんと滝さんが同時に前へ出てきてツインリードを披露、それが終わると滝さんがフラフープのように思いっきりギターを一回転させた!久し振りに観られたような気がする滝さんのギター回しに思わず笑顔になった。

 

9mm Parabellum Bulletです」と言ってから拍手をする卓郎さん。同じく拍手をする和彦さんと、ギターを鳴らす滝さん。
ここで今回ライブを開催するにあたり、曲のリクエストを募ったことを説明し始める卓郎さん。
「聴きたい曲を1曲上げてくださいと言ったら、選びきれないって何曲も候補を上げてくれたりしてる人もいましたが…今からリクエストの結果、TOP3の曲を演奏します。タイトルは言いませんが…なのでライブでよくある、イントロでワーって(歓声が上がる)やつがないのは寂しいなと思いますけど、それぞれの場所で(歓声を)上げてくれれば届きますから、気配は。おれたちに。」

 

話し終えた卓郎さんが「いけるかー!!」を入れてから演奏が始まったのは、光の雨が降る夜に。卓郎さんが話している間にステージには武田さんが登場しており、ここからは5人での演奏となった。この編成だとイントロがトリプルリードになるのが個人的に大好きなところ。アウトロで卓郎さんと滝さんが揃ってお立ち台に上がると、その後ろで和彦さん・武田さん・かみじょうさんが向かい合っていた。このフォーメーションの見事さも5人編成ならではの見どころ。2年前のツアーでリクエストを募った時の第1位がこの曲だったので、相変わらずの人気の高さが窺える。
次に演奏された曲のイントロを聴いた瞬間、思わず声を出してしまった。もう何年振りに聴くのかも忘れてしまったほど、久々だった。エレヴェーターに乗って!!この曲こそ、今回自分が一番聴きたくてリクエストした曲だった。抑揚強めに歌う卓郎さん、ギター3人の編成でより分厚くなった音…と2020年バージョンのエレヴェーターが聴けてちょっと泣きそうになった。嬉し過ぎてアーカイブで何度も何度も繰り返し聴いた。
そして最後はKeyword、順位は発表されなかった気がするが順番的に今回の1位はこの曲だったのだろうか。この曲もかなり聴きたかったのでやはり嬉しい。間奏のギターソロで生き生きとタッピングを弾き切った滝さんの姿に、画面の前で拳を振り上げそうになった。

 

ここで再びMC。「リクエストからTOP3を演奏しましたが…エレヴェーターに乗って を演奏したのは…もう百年くらい前ですね」と和彦さんの方を向いて笑いながら言う卓郎さん、笑顔で頷く和彦さん。この曲は「命ノゼンマイ」というシングルのカップリングで…この配信時代にカップリングと言われてもピンと来ないかもしれませんが、とも。
「たくさんのご応募ありがとうございます。おれたちはまだやったことないですけど、そのうちレア曲縛りとかね、やりたいですけどね。」「こんな状況ではありますが、2020年ライブがバタバタと中止や延期になってどうなることやらと思いましたが、それでも9月9日にめでたくシングルとトリビュートアルバムをリリースすることができました、ありがとうございます。」
卓郎さんが話す間、滝さんとかみじょうさんがBGMを付けるかのように音を出していた。また気付くとステージには武田さんではなく爲川さんの姿があった。次の曲からまた編成が変わるようだ。
「9mmが何を考えて過ごしていたのかっていうことは、白夜の日々というシングルの中に…今のところは、とてもいい形で込めることができたと思っています。…さっき入りました速報によりますと、シングル、トリビュートアルバム共に…(ここでかみじょうさんが短く控えめにドラムロールを入れる)…オリコンデイリー10位!共に、惜しい!9位まで!(ここで滝さんが残念そうな効果音を入れる)(かみじょうさんはカウベルを叩く)もうひと頑張りして9位を目指したいですね~。」などと言いながら思いっきり笑う卓郎さん。
「もう聴いてくれているとは思いますが、今日、2020年9月9日のライブで聴いてもらおうと思います。9mm Parabellum Bulletの、2020年の新曲、白夜の日々、聴いてください。」

 

ステージが一際明るく照らされて白夜の日々の演奏が始まった。そっと寄り添ってくれるような優しさを含んだようなサウンドが煌めき、心がじわじわと温かくなるような感覚があった。やっぱり、祈りのようなイメージが湧く、美しい曲だなと思いながら眩いステージを見つめていた。
続いてはロードムービー、配信ではあるがこれがライブ初披露。明るい音階と歌を引き立たせるような落ち着いた演奏が新鮮であり、青みがかった爽やかな照明がぴったりだった。終盤に曲展開が変わり、音が重たくなるにつれ真っ赤に変わるステージが予想以上のインパクトだった。
そしてCalm Downへ。「白夜の日々」シングルの収録順通りに3曲が続いた。どこかオリエンタルな夢現的メロディーがだんだん激しくなる様、赤と青のコントラスト。焼き尽くすような轟音を叩き付ける迫力のラスト。昨年のツアーでピンチをチャンスに変えたこの曲が正式に楽曲としてリリースまでされてセットリストに入る嬉しさ。

 

演奏が終わると卓郎さん、滝さん、爲川さんがステージから退場。カメラがステージ全体を映すのをやめ、バックドロップを画面いっぱいに映す。ステージ全体を映さないようにして何やら準備が始まったらしく、微かな物音がする。
「はい、えーっと、ここからは2人で…何人か人数が減ったんですけど…出張9mm radioということで」と沈黙を破ったのは、和彦さん!!9mmのライブでは仙台でしか喋らない和彦さんが、話し始めた。それに相槌を入れるのは同じく9mmのライブではほぼ喋らない、かみじょうさん。ちなみに9mm radioとは大体メンバー2人ずつのトークが配信されるモバイル会員限定コンテンツのことである。
「本日9月9日はですね、かみじょうちひろ君の誕生日ということで、おめでとうございます。」と和彦さんが拍手をしながら続ける。「その設定まだ生きてたんですね、ありがとうございますー。」と低いトーンで返すかみじょうさん。(公式プロフィール上のかみじょうさんの誕生日は1999年9月9日[仮]なので)「1999年生まれ、21歳?俺。大学3年生ぐらい」と笑顔を浮かべながら当の本人が言い出す。
「ここからはゲストを迎えて一緒にやろうかな、という感じですね。ゲストというのは、トリビュートに参加して頂いたアーティストの中から、今日は何組か出て頂けるということで、一緒にやろうと思います。」と和彦さんが進行に戻る。話しながらきょろきょろとしていた和彦さん、普段喋らないからやはり慣れないんだろうか。
「何でこの2人が残ってるかってのは理由があるんだよね。」と和彦さんがかみじょうさんに振れば、「えっどんな理由?」とすっとぼけて返すかみじょうさんに、和彦さんが思わず笑ってしまっていた。かみじょうさんのボケを全然拾わずに和彦さんが続ける。「じゃあもう呼んじゃっていいかな…紹介します、fox capture planの岸本亮君です。」


和彦さんの拍手に迎えられて岸本さんが登場。かみじょうさんが「通称メルテンさんでーす!」と紹介しつつ「メールテン、メールテン、ピアノが上手いのよー…」と童謡のメロディーで謎の替え歌を披露すると「これ配信されてるからね」と和彦さんがばっさり。その様子を見ながら「よろしくお願いします!」と挨拶をするメルテンさんにかみじょうさんがごめんねー、と謝っていた。
「ゲストが3組いる中で、CHAOSMOLOGYの…インスト勢の代表ということで身が引き締まる思いなんですけど、もともとは先週リハーサルがあって、9mmのフルメンバーに僕がキーボードとして入ってセッション的な感じでやるんだと思って、リハーサル着いた日にfox capture planのバージョンでお願いしますって言われて、そこから1週間ほど眠れない日々が続いてました。」と裏話を披露。逆にそれ言われていきなりリハでよくできたもんだな、と和彦さんが返していた。
和彦さん「fox capture planと同じ編成で…トリオでやるということで。」かみじょうさん「トリオを再現させて頂こうと思って、それでギタリストとボーカリストにはけてもらって…ごめんねリズム隊で、華が無くて。」にメルテンさんがいやいや…大船に乗ったつもりで…と、和やかな雰囲気で会話が進む。

 

「じゃあ、あの曲をやります。」という和彦さんのひと言からいよいよ演奏へ。fox capture planがカバーしたアレンジでの、ガラスの街のアリス。曲に入る前にメルテンさんがサビの歌メロをアレンジして弾くという音源にはない部分を追加していた。和彦さんとかみじょうさんは普段と同じ、メルテンさんが上手という位置。キーボードにエフェクトをかけ、楽しそうに演奏するメルテンさん。貴重なトリオ編成で、シャープなアレンジでのガラスの街のアリス。2回目のサビに入る前には大きく頭を振って眼鏡を吹っ飛ばすほどの熱演ぶりだったメルテンさん。演奏が終わるとメルテンさんが「ありがとうございました!」と言って和彦さん、かみじょうさんとグータッチをして退場していった。「慣れないMCやるといつものライブより疲れたな…。」と、かみじょうさんがぼそっと言っていた。

 

再び画面がバックドロップを映し、しばらく経つとステージに卓郎さん、滝さん、爲川さんが戻ってきていた。
和彦さんとかみじょうさんに「こんなに長いMCしたことないでしょ」と言い、メルテンさんには拍手を送る卓郎さん。続いてのゲスト、チャラン・ポ・ランタンを呼び込む。お揃いのワンピースで元気に登場したももちゃんと小春さん。ももちゃんは和彦さんと卓郎さんの間に、小春さんは卓郎さんと滝さんの間に立つ。
2人を紹介し始める卓郎さん。2018年にチャランポがラジオ番組に出演した際に9mmをカバーしたと聞きつけて、セッション等のステージに出てもらういい口実ができた…ということになって、2019年の荒吐にも出てもらった、と。その縁のままトリビュートアルバムに参加してもらった、と。
「なんか、9mmのファンの人達が参加しちゃったみたいな。さっきから足元すごーい!とか、右も左も頭がもじゃもじゃ!とかいろんなことが気になっちゃって。」と、9mmへの愛もさりげなく込めつつ小春さんが話す。
トリビュートアルバムでは二人で演奏してもらって…と卓郎さんが紹介を続けると、トリビュートを聴いてきたんですけど、歌とアコーディオンだけだと音圧がない!と言うももちゃんと小春さんに対して、2人の演奏が相当ヒリついてるからねと、「インスト盤に入っているハートに火をつけても2人だけの演奏だから(インスト盤は→Pia-no-jaC←)、すごくいい、対称的な。」と称賛していた。

 

ラジオがご縁で出会ったので、と卓郎さんがももちゃんに曲紹介をお願いし、ももちゃんが「それでは聴いてください、ハートに火をつけて」と言ってから演奏へ。イントロから情熱的なアコーディオンの音を奏でる小春さんと元気に踊りだすももちゃん。ハンドマイクで目元に力を込め熱唱するももちゃんがかっこいい!間奏でアコーディオンを弾きまくる小春さんもかっこいい!!卓郎さん、ももちゃん、小春さんが歌声を重ねるサビの華やかさ。アウトロで笑顔で踊るももちゃんが思いっきりジャンプして曲を締めた。歌い終わって「楽しい~~!!」と満面の笑顔を見せるももちゃんの可愛らしさ。ステージ中に「ありがとうございました!」を振りまいて2人が退場していった。昨年の荒吐で観たあのハー火が、また観られるなんて思わなかった。とにかく嬉しかった。

 

ステージが暗くなり、滝さんが静かにギターを鳴らす。「続いてのゲストを紹介します…ホリエアツシ!」と卓郎さんが言うと最後のゲスト、ストレイテナーのホリエさんが登場。開口一番「外、大雨らしいです。」と言って卓郎さんを驚かせる。ホリエさんがこの日のライブ前にみなとみらいを散策していた時には星が見えていたらしいが…。「もしこんな日にお客さんを入れてたらまた雨バンドって言われる…それは避けられました。」と笑う卓郎さん。
卓郎さんが選曲でもう泣く、と言っていたがストレイテナーがトリビュートでカバーしたのは、カモメ。「荒吐良すぎてね…あれでもう来すぎちゃって。」というホリエさん。選曲のきっかけが荒吐だったということか。それを聴いて卓郎さんが「荒吐感謝シリーズだね!」と。このライブの前にテナーの配信ライブを観た卓郎さんが、「MCでTITLE(テナーが配信ライブで再現したアルバム)の曲は、鳥がメッセンジャーの役割を果たしているような歌詞が多いと言っていて、それでこの曲(カモメ)だから…。」と言っていた。だからリンクしているような気がした、と。

そんな話からのカモメ、卓郎さんがアコギに持ち替えていた。エクリプスに持ち替えた滝さんが静かにギターを奏でる。この曲では全体を通してリードを爲川さんが弾いていた。ベースのフレーズで、原曲ではなくテナーのアレンジで演奏していることに気付く。ホリエさんが澄んだ声で歌い、サビで卓郎さんの歌声が重なる。原曲よりもグッと音数を抑えたようなアレンジに乗る2人乗る声がどこまでも広がっていった。終始心が落ち着く、いつまでも聴いていたくなる気持ちの良い演奏だった。「ホリエアツシ fromストレイテナー!」と最後に卓郎さんがもう一度紹介すると「ありがとう!!」と言ってホリエさんがステージから退場していった。

 

「改めて、ゲストの3組に大きな拍手をお送りください。」と卓郎さんが言いながら拍手をする。「気持ち的にはすべてのアーティストの皆さんに来てもらってやりたいところですけど、ディスタンスの概念が崩壊しますので。」
「おれたちは結成して16年経つんですけど、錚々たるアーティストの皆さんにカバーしてもらっても、それでも9mmだと分かる曲をたくさん生み出して、それを楽しんでもらえているということがとても幸せです。ありがとうございます。」と言いつつこの日もサポートギターとして参加した武田さん、爲川さんに感謝の言葉を述べた。この時点でまたステージにいるのが4人だけだと気づく。


「ここからはまた4人で演奏します、9mmの日!みんな準備はいいか!!」
「いけるかー!」
「いけるかーー!!」
「いけるかああああああ!!!!!!」

威勢よくAnswer And Answerへ。赤と青を散りばめた、明るさを落としたステージがサビで一気に明るくなると同時に非常に晴れやかな気持ちになった。最後のサビ前に卓郎さんがまっすぐ上に伸ばした腕を思いっきり振り下ろしたり、アウトロ前に和彦さんも思いっきり腕を上に伸ばしていたりと気合が滲み出ている様子も見えた。続いて名もなきヒーローへ。ライブアレンジのイントロはなく、スパッと曲に入る。勇ましい曲に合わせるかのように、青とピンクの照明が派手に点滅する。最後のサビに入る前、滝さんが勢いよく蹴りを入れるように動いていたのが記憶に残っている。特に今年、この曲の「生きのびて会いましょう」という一節に、どれほど助けられてきたか。それを噛み締めながら聴いた。
和彦さんが思いっきり腰を落としながら弾き、卓郎さんと滝さんが声を揃えて出だしを歌ったBlack Market Blues、卓郎さんが「Zepp KT Yokohamaに辿り着いたなら!!」と歌詞を変えていた。「迷える子羊たちが~」の部分では普段ベースを高く掲げる和彦さんが、この日はアンプと向かい合いノイズを出していた。この曲はトリビュートでa flood of circleがカバーしているのでセトリに入れられたのかもしれないな、とも思った。(演奏は原曲アレンジだったが)
「マジで大雨なの!?マジで大雨!?じゃああれが欲しい!!!」と卓郎さんが素晴らし過ぎる前フリを入れてからの、太陽が欲しいだけ!!ステージ上に置かれた円形の照明が輝き、太陽のような眩さでステージを照らした。卓郎さんがまっすぐな眼差しでこちらに向かって歌う。
「最後の曲です、また会いましょう!」の言葉からロング・グッドバイのイントロのタッピングへなだれ込むとスモークとレーザーがステージを派手に盛り上げる。太陽が欲しいだけからのロング・グッドバイという流れで、自分でも最早よく分からないほどに感情が昂ぶり、体が熱くなり、画面に釘付けになっていた。
演奏が終わると卓郎さんが晴れやかな笑顔で「ありがとうございました!」と言う間に滝さんが退場、続いて和彦さん、卓郎さんも退場し最後にかみじょうさんがひらひらと手を振りながら退場していった。

 

配信なのでこれで終わりかと思ったが、画面は変わらずステージを映す。アンコールまでやってくれるのか!
卓郎さんが拍手をしながらステージに戻ってくると、それに合わせて会場内のスタッフさんも拍手をしていた。
「アンコールありがとうございます。9mm Parabellum Bullet Presents “白夜の百年”ご覧頂きありがとうございました!何が起こるか分からない世の中ではありますが…そんなの早く終わるぜ!と無責任なことも言えないですが、こうやって音楽を皆さんのところに届けたい、というかおれたちは演奏がしたい!バンドだから!と思っているので、皆さんに会えるのを楽しみにしています。」
アーカイブが残るとはいえ今日観てくれた皆さん本当にありがとう、と視聴者に感謝の言葉を述べ、続けて先程ゲストで出演してくれたメルテンさん、チャランポの2人、ホリエさんにももう一度感謝を伝える卓郎さん。
「またツアーとかやるぜ、おれたちは絶対やるぜ、と思っているので皆さんも絶対、会いましょう。今日は本当にありがとうございました。」
「アンコールも4人で演奏します!」「いけるかー!!!」からカオス音を思いっきり叩き付けたLovecall From The Worldは卓郎さんと滝さんが2人で歌い、和彦さんがありったけの気合を込めてシャウト、かみじょうさんは冷静に叩き続ける。一瞬の静寂を経てこの日最後の曲、凄まじいキレの爆速Punishmentへ。間奏で滝さんとともに手拍子をしながら、暴れ倒す滝さんを観ながら、歌いながら、あの暴風のような演奏の中で、卓郎さんが何度も笑顔を見せていた。

 

演奏が終わるとやはり真っ先に退場していった滝さんの背中が映った。いつものようにフロアに向かって丁寧にお辞儀をする卓郎さんが続いて退場。和彦さんの姿は既にステージから消えていた。最後まで残っていたかみじょうさんがゆっくり歩きながら手を振り、すまし顔のままこちらに向かって投げキッスをしてステージから去っていった。

 


前半のトークも入れると2時間半を大幅に超えた配信だった。セトリはアンコールも含めると20曲で、今回の編成をまとめると、
最初の(teenage)Disaster、Lost!!、Vampiregirl、The Revolutionaryは4人編成。
光の雨が降る夜に、エレヴェーターに乗って、Keywordは武田さんを入れた5人編成。
白夜の日々、ロードムービーCalm Downは爲川さんを入れた5人編成。
ガラスの街のアリスは和彦さん、かみじょうさん、メルテンさんによるピアノトリオ。
ハートに火をつけては9mmの4人と爲川さん、チャラン・ポ・ランタンの7人編成。
カモメは9mmの4人と爲川さん、ホリエさんの6人編成。
Answer And Answer、名もなきヒーロー、Black Market Blues、太陽が欲しいだけ、ロング・グッドバイ、そしてアンコールのLovecall From The World、Punishmentは再び4人編成。
武田さんも爲川さんも参加、ゲストが3組、そして20曲中11曲を4人だけで演奏、と“9mmの日”ならではの盛りだくさんの内容だった。
今年に入ってから4人で演奏する曲数が大幅に増えていて、再び4人で長い時間演奏できる9mmを観られるようになったことが本当に嬉しくて堪らない。滝さんが雑誌のインタビューでも言っていたが、今は4人でもライブがしたい、できそうな気がするというモードだという。だからといって完全復活だ!!と区切りをつけるつもりは無いそうなので、こちらも4人の9mmも5人の9mmも観られて楽しいな、というフラットな気持ちで観続けていこうと思う。


卓郎さんがMCで「レア曲縛りもやりたい」と言っていたが、今回のように4人、4人+武田さん、4人+爲川さんと一度のライブで3編成組めば充分実現可能なんじゃないか、と考えると期待が膨らむ。
大好きなもの、楽しみにしていたことを悉く奪われてきた2020年。でも2020年の“9mmの日”も「楽しみ!」という気持ちで迎えられ、「楽しかった!!」という気持ちで終わることが出来た。今年の9月9日も最高に良い1日だった。

20200724/9mm Parabellum Bullet“ UNITED FOR MUSIC LIVE 60 -9mm Parabellum Bullet-”@赤坂BLITZ(Streaming+配信)

9mmの“今年最初の実質ワンマン”として配信されたライブ。会場は今年の9月に閉館する赤坂BLITZということで、配信とはいえこのステージでライブが行われるのを観られる機会があること、もう一度BLITZのステージに立つ9mmを観られたのが嬉しかった。規模の大きなライブの開催が難しい現在の状況を考えると、恐らくもう現地には行けないだろうな、と残念に思っていただけに。

 

 

ロング・グッドバイ

ハートに火をつけて

反逆のマーチ

太陽が欲しいだけ

インフェルノ

Termination

Living Dying Message

Vampiregirl

白夜の日々

Calm Down

カモメ

Answer And Answer

名もなきヒーロー

Talking Machine

新しい光

Punisument

 

 

配信の待機画面が会場の映像に切り替わるとステージには既にメンバーの姿があり、卓郎さんが「9mm Parabellum Bulletです、こんばんは」とひと言。この日のサポートメンバーは武田さん。

 

滝さんのタッピングで始まるロング・グッドバイから威勢よくライブがスタート。配信ということもあり最初は冷静な気持ちで画面を見つめていた。何度も切り替わるカメラアングルで今回どれだけカメラの台数が多いのかを把握し、いきなり驚かされた。2曲目はハートに火をつけて。引き続き情熱的な赤色のステージ。2番では卓郎さんが「手触りだけの“赤坂BLITZ”は」と歌詞を変えて歌っていた。武田さんが弾きながらかみじょうさんの方を何度か向いて確認しているような様子や、最後のサビでコーラスのためマイクから離れられない滝さんの分まで頭を大きく振りながら演奏するところが映っていた。

続いて反逆のマーチ、イントロでは卓郎さんが普段のライブと同じように手拍子をしていた。最後のサビ前には滝さんがギターを掲げ、アウトロでは卓郎さんと滝さんの頭の振り方が綺麗にシンクロしていたり、下手では和彦さんが片足をモニターに乗せるようにして弾いていた様子などが映された。最後に和彦さんがベースの指板をスラップのように一発叩くと、さらに気合を入れるかのようにシャツの右袖を捲る。

そこから太陽が欲しいだけ、ステージ全体が映され上手では滝さんが高速リフを弾き、下手では和彦さんが自分の左胸を拳でトントンと叩いてみせる。この曲ではとにかく卓郎さんの優しい眼差し、笑顔が印象的だった。「さあ両手を広げて すべてを受け止めろ」と歌い上げた後に笑顔で両手を広げる卓郎さん、という見慣れた姿があった。更にノンストップでインフェルノへ。90秒の演奏をあっという間に駆け抜け、音が止まると卓郎さんが「ありがとう」とひと言。

 

ここまでのブロックでは特に気持ちを奮い立たせるような曲が並んだな、という印象。反逆のマーチの「でっかい壁にぶつかってんだ 絶体絶命も上等さ」から太陽が欲しいだけの「それでも最後には笑え」に至る流れ、インフェルノの「運命を喰い破れ いくらでも悪あがけ」まで、今どういう言葉が必要なのかを考えて組まれたような気がして、心から頼もしく思えた。

 

滝さんが徐にギターの音を鳴らす中で卓郎さんが「こんばんは、9mm Parabellum Bulletです」と挨拶し、嬉しそうな笑顔で拍手。今回の配信について、卓郎さん曰く内容としては実質2020年最初のワンマンライブです、と。6月30日に7ヶ月振りにライブをしたこと(新代田FEVERから配信された“カオスの百年~YouTube Super Chat~”)、ライブのない期間が今まではそんなに空いたことがなかった、とも。

「演奏している時の気持ちは、お客さんは目の前にはいないけれどライブをしている時の…音楽が始まった時の気持ちは意外とこれまでの、みんなが目の前にいた時とあまり変わらないです」「信じるかどうかはあなた次第ですけど、ライブ観てるぜ9mm、という気持ちを送ってください」

卓郎さんがいきますか、と自分たちに言い聞かせるように呟き、「いけるかー!」を1回。

 

そこからTerminationへ、イントロで武田さんがいないことに気付く。無観客ということでサビに入る直前の「歌ってくれー!」が無かった。滝さんが間奏で卓郎さんに、ギター!と振られると表情に思いっきり力を込め、お腹が見えるぐらいの勢いでギターのネックをぐいっと立てたりと気迫のギターソロを見せる。最後のサビのコーラスはファルセットで綺麗な歌声を出していた滝さん。同じく最後のサビで思いっきり腕を振り上げて叩くかみじょうさんが映った。

続いては久し振りにセトリ入りした気がするLiving Dying Message、イントロにて滝さんがギターのネックを一本釣りのようにぐいっと上げる懐かしい光景。間奏ではすっかり伸びた和彦さんの髪がふわっとなびく様子が、アウトロではシャウトする和彦さんが画面に抜かれた。次の曲、Vampiregirlの入りで卓郎さんが楽しそうに左右の拳を交互に挙げて踊っていた。滝さんのかっこいいスクラッチからサビへ、普段フロアから大合唱が発生する「You’re Vampiregirl!!」は滝さんが声を張り上げる。間奏は下手ではモニターに腰かけて弾く和彦さん、上手ではお立ち台の上でソロを弾く滝さんがそれぞれ映る。最後の「悪夢まがいの現実の中で~」の部分では和彦さんがベースを高く掲げていた。かみじょうさんが最後にシンバルを静かに掴んで音を止める。

 

ここで再びMC。今年の9月9日=9mmの日はシングルをリリースします。白夜の日々というタイトルで、3曲入りのシングルです、と話し始める卓郎さん。

「緊急事態宣言の自粛期間が明けからレコーディング始めたけど一部リモートで、和彦が自宅でベースを録ったりとか、今しかできないやり方でレコーディングしました。歌詞も2ヶ月間、緊急事態宣言下で過ごしていた日々のことを歌詞の中にメッセージとして書きました。」

「どうしても9月9日はライブもやるつもりだったし、その先のツアーとか、今年はたくさんおれたちツアーするつもりだったんだけど…どうしてもあれをやるつもりだったとか、これをするはずだったのになということに思いを馳せちゃうのは仕方ないな、ということで。仕方ないけどそれで終わりたくないんで。前に進んでいけるような何か新しい道が見つかるようなそういうところも曲の中に込めたつもりなんで、新曲を、白夜の日々をこれから演奏します。」

 

「皆さん聴いてください、白夜の日々」と卓郎さんがタイトルを告げてから始まった、新曲の初披露。ステージ後方にいくつか置かれていた丸いものがここで初めて光を発し、照明だったことが分かった。(ドラムセットの後ろにもあったため最初は銅鑼だと思っていた)クリーンと歪みの切り替えが凛々しく、サビの「いつか当たり前のような日々に流されて すべて忘れても 君に会いに行くよ」という歌詞が優しい。綺麗な曲だな、というのが第一印象だった。

白夜の日々初披露が終わるとしばしの静寂から滝さんのギターがゆらゆらと鳴り、そこへ穏やかに音が重なる。静かなカウントから音が徐々に広がってCalm Downへ。丸い照明がぼんやり赤く光り、暗いステージに4人の赤い影を作る様子がとても幻想的だった。和彦さんの、ベースをつま弾く手元が画面に映る。曲が進むと丸い照明の右半分の輪郭が青に、左半分輪郭が赤に変わりステージが2色に染まる。去年のツアーと同じ配色。更に演奏が激しくなるにつれて照明もそれに呼応し、最後の全てを焼き尽くすかのような轟音と共に真っ赤になったステージが、音が消えると真っ暗に。

一瞬だけ音も光も消えた空間に、聴き慣れたリバーブのかかったギターの音が現れる。カモメ。歌いだしの直後に滝さんが2度ほどアンプに向かい音を調整していた。濃い青色の照明が、先程の灼熱のような赤色との対比でより深く映えていた。個人的には1サビ後の滝さんのひらりとしたギターのフレーズがとても好きなところ。2番に入ったあたりで下手の袖に卓郎さんのギターを持って控えているスタッフさんが映った。その方が曲のテンポに合わせて親指でギターのネックを軽く叩くように拍を取っていて、その様子が何だかとても良かった。ステージ下のカメラから卓郎さんを映した時のスポットライトと、終盤でステージ後方の丸い照明が柔らかく光を放ち、その様子が夜明けのようで大変美しかった。

 

音が止まるとここで卓郎さんが、ステージに戻ってきた武田さんを改めて紹介。丁寧なお辞儀からギターのネックを掲げてみせる武田さん。

話し続ける卓郎さんが9月9日にリリースされるもう一枚のCD、9mmのトリビュートアルバム「CHAOSMOLOGY」について、総勢18組のアーティストが参加し、2枚組でDisc1は歌盤=ボーカルありでDisc2は(そういうパターンのトリビュートは)あんまり聞かないと思うんですけど…インスト盤です、と紹介。

「とても面白いので是非聴いてください、タイトルのCHAOSMOLOGYは“CHAOS”と“COSMOS”=混沌と秩序、 “~LOGY”=学問で混沌と秩序の学問、みたいな、9mmのことをそういう風に解釈して再構築して演奏してもらっているのでみなさんよろしくお願いします。」

卓郎さんが話している間にBGMを付けるかのようにギターの音を出す滝さん(宇宙みたいなふわふわした音を出していた)と、それに合わせるかのように手にしたスティックを回したりスティックで音を出していたかみじょうさん。

「こうやって演奏すると早くライブハウスに帰りたいなと思うけれど、焦らずいきましょう。先は長い…焦らずいきましょうって言った後にいけるかーっていうのもなんですけど(笑)」と笑いながら言った後にいきますか、とここでも小さく呟いてから、普段のライブと同じように、

「いけるかー!!」

「いけるかー!!!!!」

 

「いけるかー!!!!!!!!」

 

ここからは5人での演奏に戻る。Answer And Answer、「0時5秒前に~」の部分で丸い照明の外周を水色の光が目まぐるしく回るという、曲のスピード感をそのまま視覚で表したかのような照明が目立つ。2番の汽笛を鳴らす部分は滝さんを、その直後には片足を上げるようにして演奏する和彦さんをカメラが抜く、というカメラワークも同じくスピード感があって良かった。2サビでは滝さんと武田さんが息ぴったりな様子で頭を振っていた。

そこから名もなきヒーロー。ライブアレンジのイントロがないという珍しいパターン。水色とピンク、というMVと同じ色合いを丸い照明が作り出していた。その2色を基本にしつつ、サビの後半の「また明日」でステージが真っ赤になったのが去年のツアーと同じ演出だった。2サビの「たおれたらそのまま空を見上げて」の部分で歌詞に合わせるように視線を上に移していた卓郎さん。最後のサビの入り「勝ち目が見当たらなくたって~」の部分で滝さんが手拍子を煽るかのようにギターのボディを叩いていた。その後は口元にキュッと力を込めつつ演奏を続けるかみじょうさんの横顔が映った。

間髪入れずにTalking Machineへ、いつものライブアレンジのイントロでは卓郎さんがピックを咥え上手の方を観ながらマラカスを振り、それが終わると両手を挙げて手拍子、そして「1,2,3,4!!」は卓郎さんと滝さんが声を張り上げる。2番の「衛星から~」の部分では卓郎さんが手拍子をしつつ、「空を見上げているだけ」と歌う通りに右腕を上げ、見上げる卓郎さん。2サビの直前で大きくジャンプする滝さんをカメラがしっかり捉える。アウトロに入る際には卓郎さんが「お、ど、れーー!!!!」と思いっきり叫んだ。

クリーンなギターの音、こちらもライブアレンジのイントロから新しい光。真っ白な照明が演奏に合わせて派手に点滅する。2回目のサビだったか、滝さんがオクターブ下のコーラスを入れるという珍しいことがあった。(今までに観た記憶がないので初めてだったか、相当稀なのか…)最後のサビ前には音を思いっきり歪ませて早弾きもしていた。終盤、全く同じタイミングでギターを掲げる滝さんと拳を突き上げる武田さん、という場面もあった。

予想を遥かに超える曲数のライブだったがこれが最後の曲、Punishmentの間奏では和彦さん、卓郎さん、滝さん、武田さんが横並びになって演奏、アウトロではかみじょうさんの乱れ打ちとフロント4人が思い思いに暴れ回りこの日のライブを締めくくった。

 

演奏が終わると滝さんと武田さんはいつものように早めに退場、卓郎さんはギターを両手で掲げるようにし視線を上に移し、その後拍手をしたりカメラに向かって手を振って見せる。袖に引っ込む前に一度立ち止まり丁寧にお辞儀をすると袖の中に消えていった。卓郎さんのあとに続くようにかみじょうさんも退場すると、無人のステージ映像と卓郎さんたちがステージに残していったノイズにエンドロールが重なり、配信が終わった。

 

 

全16曲、およそ1時間半ほどだったか。アンコールはなかったもののここ数年のワンマンライブとさほど変わらない曲数だった。だから“実質ワンマンライブ”という表現に偽りなしの内容だった。

もちろん配信ライブは生で観るライブの代替になるなんて思っていないし、やはり配信だからと序盤は冷静に、慣れない緊張感のようなものを伴いながら観ていたが卓郎さんが「ライブをしている時の気持ちは意外とこれまでの、みんなが目の前にいた時とあまり変わらない」と言ってくれたことでその後は少しほっとして構えずに観られるようになったし、最終的には普段のライブに近い気持ちの昂ぶりと共に小さな画面に噛り付くようにして観ていた。楽しかった。

 

中盤、Termination・Living Dying Message・Vampiregirl・白夜の日々・Calm Down・カモメ の6曲は武田さんは演奏に参加せず、9mmメンバー4人だけでの演奏だった。サポートメンバーを入れるスタイルになってから4人だけで連続で演奏した曲数としては最多である(今まではアンコールの1~2曲は4人だけで、という日は何度もあったが)。久々に4人編成で演奏された 9mm初期の代表曲たち…Termination・Living Dying Message・Vampiregirlはすっかり貫禄が出ていて、それを観ながらふと「滝さんの体調に何事もないまま16周年を迎えた9mm」はきっとこんな感じなんだろうな…と思ったらようやくこの光景が観られたことへの嬉しさがこみ上げてきて堪らない気持ちになった。

 

そして、新曲「白夜の日々」について。

前述の通りクリーンと歪みの切り替えが凛々しく、語りかけるような言葉選びが優しく、それでいて内に秘めた熱さがあるような綺麗な曲、という第一印象。演奏前に卓郎さんの口から緊急事態宣言下で過ごしていた日々のことをメッセージとして込めた、というひと言があったため歌詞のひとつひとつがリアリティと切実さを感じさせるものに聞こえた。

それから、これは本当に自分の深読みが過ぎるだけだとは思うが、サビの「いつか当たり前のような日々に流されて すべて忘れても 君に会いに行くよ」という優しい歌詞の裏に“また会えるようになるまでどうか忘れないで”という言葉が隠れているような気がしてしまって胸がぎゅっとなるような、何とも表現しがたい気持ちになってしまった。

 

自分たちが生き甲斐にしている音楽やライブがこの期間にどういう扱いを受けたのか、ライブが長いことなくなって自分たちのような音楽が特に好き、という人間以外にはライブの存在意義がどんどん薄れていってしまうのではないか、そういう心配ばかりをしていたのでそんな深読みをしてしまったのかもしれない。9mmも本来であれば“終わりのないツアー”を開催し今年1年全国各地のたくさんの場所でライブをしているはずだったのに。

それでも卓郎さんは、やるはずだったことに思いを馳せるのは仕方ないと言いつつ前に進んでいけるようにと「焦らずいきましょう、先は長い」と、とても冷静に構えていた。おかげで卓郎さんの言葉を聴きながら、また会場で会える日を待ち遠しく思いつつ今はできる限りの方法で鳴らされる音をできる限りの方法でそれを楽しまないとな、という気持ちにもなった。

今は9月9日のシングルとトリビュート、そして今年の“9mmの日”のワンマンライブを楽しみに待っている。

20200115/KEYTALK“モルタルレコード presents“SLIP INTO THE 20th YEAR”北浦和KYARA閉店公演『realにあの日に戻れる〜バック・トゥ・ザ・フューチャーチャレンジ〜』”@北浦和KYARA

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1月で閉店してしまう北浦和KYARAにて、KEYTALKのワンマン。ライブのタイトルからKEYTALKの前身バンドrealやKEYTALKの初期曲を聴けるのではないか、という期待。

 

出遅れて開演の少し前にフロアに到着、上手後方にて待機。キャパ170ほどと聞いていたKYARA、キャパに対してステージが高く、後方からでも見やすそうだった。ほぼ定刻に暗転すると「物販」が流れ4人が登場。ステージ前方にお立ち台があったのか?4人の顔がよく見える。びっくりするほど近い…!!

 

Oh!En!Ka

ララ・ラプソディー

YURAMEKI SUMMER

view

MATSURI BAYASHI

パラレル

sympathy

blue moon light

a leaf

旋律の迷宮

MURASAKI

a picture book

アーカンザス

ナンバーブレイン

夕映えの街、今

 

1曲目はOh!En!Ka、割と新しい曲ではあるが自分はしばらくライブでは聴いていなかったため、いきなり嬉しい選曲。続いて昨夏の新曲ララ・ラプソディー、そしてお馴染みYURAMEKI SUMMER。最後のブロックでは武正さんがアドリブを入れまくっていた。やはり驚くほど表情がよく見えるほど近い。早くもフロアに投げていたピックの軌道もよく見えた。

 

曲が終わると武正さんと八木君が何故か「ありがとうございます!」を連発、「どちらがありがとうございますを多く言えるか」勝負を突然始めつつここでMC。今回の主催、モルタルレコード山崎さんはKEYTALKがかつてパンク系のイベントに出た時に観に来ていてダイブしたりしていたらしい。かつて山崎さんとご飯を食べに行った時に、ハンバーグが来る前に200gのライスを平らげてしまってびっくりした(ちなみに塩で)というエピソードが語られた。その食べ方埼玉式?と巨匠が尋ねると義勝さんと武正さんが俺等も埼玉だけど…と返していたような。

 

ここまでは意外と最近の曲が続いたな、と思いながら聴いていたが「そろそろrealになりますか、まずは1曲だけ」という感じのひと言から、KEYTALKの楽曲ではない曲が演奏される。realの曲、view。初期KEYTALKを彷彿とさせるフュージョン的な曲は、サビに入るといきなりテンポが早くなるというなかなかトリッキーな曲。

これに続くのがど定番曲のMATSURI BAYASHI、聴き慣れたこの曲も小箱だとガラッと印象が変わる。普段よりメロディーの美しさとほんの僅かに浮かぶ哀愁が際立つ。小さな空間いっぱいに、普段通り赤と白の照明が広がっていた。言わずもがなviewと曲調はかなり違うが、この2曲のメロディーを並べて聴いても全く違和感がない。間奏では武正さんがorange and cool soundsのリフと思しきメロディーを弾いていたような気がした。その勢いのままパラレル、そしてsympathyへ。どちらも普段のライブではたまに聴ける曲だが、特にSUGAR TITLEの曲であるsympathyをこういうコンセプトのライブで聴けることは、普段とはまた違った嬉しさがある。

 

ここで、real時代にはメインボーカルが武正さんでコーラスを八木君がやっていたこともあるという話が出てくる。しかし後に巨匠が歌った時に“こんなにいいメロディーだったんだ”と思ったらしい。(八木氏コーラス上手いんですよ的な話も)武正さんが1番だけ歌うと言いながら客に拍手と歓声を求め、巻き起こった大歓声からのblue moon light、武正さんがステージ前方まで出てきて表情豊かに、途中で歌詞を飛ばしながらも1番を歌う。サビでは八木君がコーラス。今となってはかなりレアな光景…!2番でボーカルを巨匠、コーラスを義勝さんにバトンタッチ。武正さん&八木君のどこかやんちゃで元気な歌声も好きだなと思いながら聴いていたが巨匠が歌い始めると「巨匠歌上手いなぁ!!」とつい頭の中で呟いてしまった。2番に入る前に巨匠が若干何かを確認するような表情を浮かべているように見えた。次も初期の曲a leaf、歌ったのは巨匠!!KEYTALKだと歌っているのは義勝さんである。これもrealバージョンということか…。

それに続いたのがKEYTALKの中でも最も新しくリリースされた曲、旋律の迷宮。あくまで個人の感想ではあるけれど、初期曲と最新曲、アルバム単位で間を空けて聴くとKEYTALK結構曲調が変わってきたな、という印象が少なからずあるが曲単位だとやはり違和感なく、とても心地よく繋がるような感覚があった。旋律の迷宮がどちらかというと非常にメロウなメロディーだから、というのもあるかもしれないが。

一際歓声が上がっていたMURASAKI、メジャー曲だけれど最近あまりライブで聴けていなかったような気がして、これも嬉しい選曲。

 

このあたりで話が出たが、この日のセトリを考えたのは八木君だという。その紹介を受け「次の曲で歓声がブーイングになるかもしれません…」と言い始める八木君。それを受け、武正さんが「次の曲はラストクリスマス」と続けると時期がずれてるとか、2ビートでやるとか、それだとモルタル山崎さんが飛んじゃうからダメだとか、しばらくふたりで喋り続ける。

 

まだまだいけますかー!!!と武正さんが煽ってからa picture book。緑色の細かいレーザーのような照明が大変綺麗だった…KYARA、予想以上に照明の美しい箱だった。

そこからアーカンザス。ここまで後半はインディー時代〜メジャー初期の曲が続く。原曲よりキーを1音上げたアーカンザスを巨匠が朗々とした歌声で頼もしく歌い上げる様が堪らなくかっこいい。いよいよ勢いが止まらず最高潮に盛り上がるフロアに投下されたのはナンバーブレイン!!そして最後に巨匠が「アンコールはやりません!最後の曲!!」と言って演奏された夕映えの街、今。灼熱の空間に激しいモッシュが巻き起こり次々と人が飛んでいく。ナンバーブレインからの夕映え、KEYTALKの剥き出しの熱さが炸裂する、大好きな曲をこんなに激しい空間で観られるとは…!!ともみくちゃになりながら、最高に嬉しい気持ちでこの光景を見届けた。

 

 

MCを2回ほど挟んでいたが、その間KEYTALKやKYARAの思い出話が途切れることなく出てきていた。あまりにも出てきた話が多かったので以下覚えているだけメモ。

 

今回このような内容のワンマンを開催したが、実は出ていたのは移転前のKYARAであり移転後の現在のKYARAには初めて出たらしく、この場所自体にはあまり思い入れがないらしい。

 

real時代のMC再現もあり、武正さんがボサノヴァ的メロディーをクリーンサウンドで弾いているところで八木君が現在のテンションとは真逆の淡々とした口調で「次回のライブは明日…渋谷クアトロです…」などと喋る。義勝さん加入前にKYARAでライブしていた頃はベースを先輩に弾いてもらいながらMCでメンバー募集をしていたらしく、義勝さんはそれをきっかけに加入したがこのやりとりを聞きながら「どうかしてる……」と呟いていた。それが2006年12月26日、だと。

real時代は曲をMDに録っていて、それを加入前の義勝さんにMDで音源あげたという話もあったか。あとからベースの音を入れて返したりしていたという話も。それからrealのホームページのキリ番を踏んだ義勝さんがその際にコメントを残したという話。(かつてはHPのアクセス数で一定のキリのいい番号を踏むとコメントが残せるというシステムがあった)MDとキリ番のくだりではこの話が分かる人がある一定以上の年齢だと想定できるためにフロアに向かって「こちら側の人間」とか「ババア!」などといじり倒していた。別のくだりで「可愛い声」を出した八木君に向かって「(31)」と年齢を言っていじっていた。

 

KYARAは楽屋にファミコンがあり、もうそれができなくなってしまう…という話から巨匠はロックマンXが上手い、それを八木氏が隣でずっと見てる(昔そういう、ゲームやってるところをずっと見てる友達いたよねという話もあった)巨匠のゲーム見ている間の八木君の反応がいいから、ゲーム実況でもやったらいいんじゃないか、と。是非やってください…!!

 

さっき演奏したview、実はあの曲がきっかけでKEYTALKはKOGA RECORDSに入った、という話。から「今日、古閑いなくね?」「そこに鳴るがライブなんじゃないの?」「最近そこに鳴る にハマってるから…」と古閑さんいじりに変わる。

 

何のくだりだったか忘れてしまったが、武正さんが「今日はMONSTER DANCEはやりません!!」と宣言すると義勝さんが「今ので50人くらい帰っちゃうよ」と返したり、高校生の時に武正さんと義勝さんが大宮駅の真ん中にある「まめの木」でずっと喋ってて、話している間に改札にどんどん近付いていってその流れで解散する話、など細かいエピソードも次々と出てきていた。

普段からMCでは仲良く喋っている4人だがこの日は特に、時間の制約がなければもっと終わりが見えないくらいに思い出話が出てきただろうな、というくらいに話が止まらなかった。自分の位置からは義勝さんが一番見えていたが、MC中終始リラックスしたような穏やかな表情で武正さんや八木君の話を聞いていた。

 

 

ライブのタイトル的にセトリはほぼreal期とインディー時代の曲で構成されるのかなと思いきやメジャー初期の曲に最新曲まで、KEYTALKの歴史の中から満遍なく持ってきたようないいとこ取りのようなセトリだった。繰り返しになるが曲調の全く違う初期曲と最新曲を並べても全然違和感がないのは流石だなと、今更ながら改めて驚嘆しながら聴いていたので、特にa leafから旋律の迷宮、という流れは大変貴重で有難いものだった。

real時代とTIMES SQUARE期はまだKEYTALKを知らず、SUGAR TITLEからリアルタイムで聴いてはいたもののその当時はなかなかライブに行けなかったので、数年経って遂にKYARAでreal〜KEYTALK初期の曲を聴けた嬉しさに浸りながら、終始ライブを観ていた。

 

自分は今までKYARAに行ったことがなかった。だからこの日が最初で最後のKYARAだった。駅から近くて、入口では着ぐるみを着た陽気なお兄さんが迎えてくださり、クロークやドリンクでも優しく対応してくださるスタッフさんがいて、ステージが高めで照明も綺麗という居心地のいい箱だった。何で今まで来なかったんだろうかと後悔するくらいには好きな箱になってしまった。もう閉店してしまうのに。

最後の最後にKEYTALKがKYARAとの縁を繋いでくれた。それが今回一番嬉しかったことだった。

ありがとうございました。

 

20191130/9mm Parabellum Bullet“FEEL THE DEEP BLUE TOUR 2019”@Zepp Tokyo

 

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アルバム「DEEP BLUE」リリースツアー、ファイナル。

約2ヶ月、全部で10公演。滝さん復帰以降では最も長いツアーだった。自分は11月開催の公演しか観ていないからというのもあるかもしれないが、やはりあっという間にファイナルまで来てしまった。

この日はフロアの様子を見て、2柵目中央あたりを選んだ。ツアー中で初めて1階のほぼ中央から観る。開演前の自分の視界には卓郎さんのマイクスタンドとアンプ、ドラムセット・PHXが見える。前日にも2階席から観ていて気付いたが、この日もPHXがステージ中心からバスドラ1個分くらい左寄りに置かれていた。

チケットが完売していた日だったこともあり、開演15分前にはフロアの見える範囲は満員という様子だった。開演が若干押していて、開演時刻である18時からアナウンスが流れ始めた。「映像収録用のカメラが入っています」のひと言に期待が膨らむ。周りからも歓声が上がり、アナウンスが終わると早くも拍手が起こっていた。

定刻を5分ほど過ぎたところで場内が暗転。Digital Hardcoreと大歓声が響く中、前日と同じく左右からスポットライトの点滅を浴び、15周年仕様の巨大な双頭の鷲がステージに現れた。 

 

DEEP BLUE

名もなきヒーロー

The Revolutionary

太陽が欲しいだけ

Getting Better

Scarlet Shoes

反逆のマーチ

The Revenge of Surf Queen

Beautiful Dreamer

君は桜

Calm down

Ice Cream

夏が続くから

Mantra

ロング・グッドバイ

Black Market Blues

新しい光

Carry On 

 

いつまでも

Punishment  

 

この日もDEEP BLUEからライブが始まる。自分の真正面に卓郎さんがいた。かみじょうさんは卓郎さんの影に隠れている、滝さんは何となく見える、という感じの視界。真ん中で観ていたので当たり前ではあるが、上手や下手で観ていた時よりもドラムの音が目立つので、サビ前の三連符が真っ直ぐに自分の体を突き刺すような感覚が心地良かった。卓郎さんが歌いながらフロアのあちこちに視線を移している様子がよく分かる。

かみじょうさんが演奏を繋げ、滝さんがギターのペグとナットの間を搔き鳴らし、ライブアレンジのイントロに入った名もなきヒーロー。前日に2階席で観ていた青とピンクの照明が左右対称に交差する様子は、下から見上げるとバックドロップの双頭の鷲を囲むように見えた。サビの「また明日」の部分でいきなり真っ赤になる照明はバックドロップ下のLED横照明の光が強いため、2階席より1階で観ている方がインパクトが強かった。最後のサビ前で滝さんがギターのボディを叩いて手拍子を煽っていた。そして最後のサビ、滝さんが音源通りにピックスクラッチを入れていたがツアー前にはやっていなかった気がする。自分が気付かなかっただけで、このツアーから導入されていたのかもしれない。

続いてはThe Revolutionary、眩しい白い照明が卓郎さん達を包む。間奏では卓郎さんと滝さんがお立ち台に上りツインリードを弾く間に和彦さんと爲川さんがかみじょうさんの前で向かい合って弾き、ふたりでタイミングを合わせて同時に各々の定位置に戻っていった。

ステージが純白から目の覚めるような赤へ、滝さんの爆速ピッキングから太陽が欲しいだけ!「さあ両手を広げてすべてを受け止めろ」と卓郎さんが歌うとフロアにいる多くの客が両手を高く上げる。赤い空間に無数の手が上がり、それ越しに白いシャツを着た卓郎さんが見える。歌い切ると卓郎さんも両腕を大きく広げ、その様子が無数の手の隙間から見えた。 

 

演奏が終わるとフロアから5人の名前を呼ぶたくさんの声が飛んでくる。誰かが「裕也!」と言った後に何故か少しだけ笑いが起こっていた。すると卓郎さんが、「何で裕也を呼ぶと笑うの?」とその様子を拾っていた。

 

 次の曲はGetting Better、和彦さんが赤いスポットライトを浴びながら歪んだベースの音を響かせ、続けて滝さんが軽快なタッピングを披露。この部分の切り替わりは個人的にとても好きなところ。「まだ良くなる きっと良くなる もっと良くなるさ」という歌詞には実は若干皮肉な意味も込められているとインタビューで読んだが、ステージ上で生き生きとした演奏と歌声を響かせる5人を観ていると、ひたすら真っ直ぐな頼もしい歌に聴こえる。

引き続き赤いステージのScarlet Shoes、歌い出した卓郎さんの何気ない仕草にエレガントさがあり、曲の雰囲気にとても合っていた。間奏では滝さんが音源通りオートワウを踏んでいただろうか、小気味よいリズムに揺れていたフロアが、まったりとしたリズムに変わる間奏では音に聴き入るように動きが止まっていたのが、フロアも曲と一体化していたようでとても気持ちが良かった。

そのままカウントで繋ぎ反逆のマーチへ。やっぱりこの曲の滝さんは序盤の間で一番動きが大きいような気がして、特に弾くのが楽しい曲なのだろうか、と思いながら観ていた。この日も3連続で赤を基調とした照明の曲が並んだ。

演奏が終わり少し明るさを落としたステージがここで青色に変わり、The Revenge of Surf Queenへ。曲調的にフロアの熱気が一旦おさまったからという理由もあると思うが、空間がすっきりとした青に包まれ一気に体感温度が下がったような気がした。間奏に当たる部分をお立ち台で弾きまくっていた滝さんが、アドリブでクロマチックランを入れ卓郎さんと一緒にテケテケと音を出していた。何年もライブで聴けなかった曲がツアー後半で立て続けに聴けるようになったのは本当に嬉しいこと。

 

僅かに静まり返る空間に少しずつ音が放たれ段々と重厚な演奏へと変わってゆくBeautiful Dreamer、全体的に煌びやかな青を基調とした照明だったが、和彦さんがシャウトする瞬間だけステージが燃え上がるような赤で埋め尽くされる演出は、このツアーの中でもかなり印象に残る、屈指の名演出だった。フロアから9mm自身に向けて「You’re Beautiful Dreamer!!」という一節を投げかけられることによって、遂にこの曲が本当の意味で完成したのではないか…と考えながら、ステージに向かって声を上げた。

春の青空のような照明が瑞々しい君は桜、確かこの曲だったと思うが序盤で滝さんが拍を確認するかのようにかみじょうさんの方を窺っている様子が見えた。ストレートなリズムから開放感のあるサビに入った瞬間にステージが薄紫のような、桜色のような色になる瞬間と最後のサビ、「花ひらいた君は桜」と歌う卓郎さんを桜色のスポットライトが照らす瞬間は何度観ても心を奪われる光景だった。

音が止まると卓郎さんが退場、ツアー中盤からセトリに入れられている和彦さん、滝さん、かみじょうさん、爲川さんによるインストナンバー・Calm down が始まる。始めは4人が静かに演奏する穏やかなメロディーに合わせるかのように淡い青の照明、徐々に演奏が激しさを増してくるとステージを赤と青の照明が縦に二分し、そのまま終盤ではかなりの音圧を叩きつけ、4人の動きも大きくなる。カオス音が空間を塗り潰す頃には滝さんと和彦さんが鬼気迫る暴れっぷりを見せ、最後の一音で照明が赤一色に変わる。“Calm down ”には静まる、や落ち着く、といった意味があるらしいが、序盤はそんな印象もあったものの最後には“Calm down ”とは真逆の演奏が繰り広げられていた。ツアー中盤で卓郎さんの喉に不調が出た後からライブでやり始めたとのことなので、タイトルの意味はもしかしたら演奏中に卓郎さんの調子を落ち着かせる、というところから来ているのかもしれない。

卓郎さんが再びステージへ戻ってくると不穏な雰囲気からIce Creamへ、今度はステージを赤と青の照明が横に二分するような配色。サビでは滝さんのファルセットがとても綺麗に響いていた。ドラムをほぼ正面から聴いていたからか、「もう このまま 眠ってしまえ」の部分で段々と大きくなっていくドラムの音が上手や下手で聴いていた時よりも際立って聴こえた。大変抽象的な歌詞なので、捉え方は人によってかなり変わる曲だと思っているが、音源で聴くよりもかなりヘビーな印象と個人的な歌詞の解釈から、僅かにBABELの面影を感じた気がした。

そんな雰囲気から一転、卓郎さんの歯切れの良いアコギの音から爽やかな白い照明へと変わる、夏が続くから。この曲もドラムのほぼ正面から聴いていたからか、上手で聴いていた時よりもバスドラの音が重たく、どっしりとしたリズムが目立って聴こえた。アルバムの中でこの曲が一番、フロアのどの場所で聴くかによって印象が大きく変わる曲だった。間奏では青い空間の中、滝さんがエレガットを歪ませアルバムの中でも随一の情熱的なソロをかなりの熱量で弾く。その姿とメロディーの美しさは何度観ても強く心を揺さぶられる。

 

ここでまた卓郎さんが話し始めるアルバムのテーマ、“一生青春”について。(CDに貼ってあるシールにも書いてあるけど…と言いながら指で丸を作っていた)“一生青春”とは、ワーワーキャーキャー、チャラチャラしていることではなくて青を塗り重ねて、その他の色も混ざりあって…でも黒くなるのではなくて深い青になっていく、ということ。そしたら“一生青春”と言えるのではないか、と。

次の曲について客に叫んで欲しいものとしてこれまで「嫌いな人の名前」「好きな人の名前」「好きな食べ物の名前」「自分だけのマントラ」など色々なものを挙げていた卓郎さん、この日は「好きな曲」「好きな土地」と「好きなチーズの名前」が入っていた。3秒あげるから考えて!と卓郎さんが言うと滝さんがギターでカウントを始め、3秒目にはかみじょうさんが音を一発鳴らすというファインプレー。

 

卓郎さんの「いけるかーー!!」からMantra!この曲はどちらかというと歌詞にも大きな意味がある訳でもなく、軽い気持ちで聴けるポジションの曲であるようだが、滝さんが大きく口を開けて顔を歪ませながらありったけの声で「終わってたまるか」と叫んでいたその様子がとても切実な、心の底から叫んでいる様子に見えてその気迫を目の当たりにした時には思わず込み上げるものがあった。最後は卓郎さんと滝さんが声をそろえて「なんとかなんのか!!!」

その勢いのまま滝さんのタッピング、ロング・グッドバイへ。赤のイメージである「BABEL」曲のロング・グッドバイが、青がテーマカラーの「DEEP BLUE」曲と同じ青い照明に彩られる演出は、一見正反対に思えるようなこの2枚のアルバムを繋いでいるようにも見えた。これもツアー中でとても好きな演出のひとつ、後のサビ前で滝さんが勢いよくペグとナットの間を鳴らすあの瞬間にスポットライトが一斉に滝さんを照らす。

いよいよ終盤というところでフロアが爆発的に盛り上がるBlack Market Blues、卓郎さんが「Zepp Tokyoに辿り着いたなら!!」と歌う。それに続く新しい光、この日も1サビ後に卓郎さんと滝さんがお立ち台へ、和彦さんと爲川さんがかみじょうさんの前まで出てくるという美しいフォーメーションを見せる。最後のサビ、一瞬静かになる演奏の中でフロアでは大合唱、前日に2階席で聴いていた時にはそれがとても優しい歌声に聴こえていたがいつものように1階で聴く力強さの方が際立っていた。

本編最後の曲、Carry On。卓郎さんが「声を聞かせてくれーー!」と叫べば大歓声と無数の拳がフロアから上がる。滝さんが最後の「いつか鼓動が」をとびきり大きな歌声で歌い、最後の音を卓郎さんの「過去も未来も追い越すまで」にすっかり被るくらい長く伸ばし続けていた。 

 

本編が終わり、滝さんと爲川さんが退場、その後に卓郎さんと和彦さんがフロアに挨拶してから退場。かみじょうさんがドラムセットの後ろから出てくると、どこから持ってきたのかティッシュを手にしていて、ステージ上で鼻をかむとそれをフロアに投げようとしていた。(本当に投げたのかは見えなかったので不明)

 

5人がステージを去り、しばらくアンコールの手拍子が続くと再びフロアが明るくなり、卓郎さんがひとりで出てくる。

前日にも告げた、2020年3月17日に開催する“カオスの百年vol.13”について。平日の開催になることに触れ、理由を「3月17日は9mmの結成記念日……という疑いのある日」「正しくは始めて4人でスタジオに入ったとされる日」と説明。

来年は今年よりもライブをします、色々な場所に行ってライブをします、と話し始めた卓郎さん。メンバーの地元、山形、長野、茨城、仙台…そして「裕也は神戸だね」としっかり紹介。ということは来年は5人の地元でもライブをやるのだろうか。その話に続けて、「今は東京に住んでいるから、東京はホームなんだ」と言う卓郎さん。

 

個人的な話になってしまうが、卓郎さんのこのひと言が、東京生まれ東京育ち東京在住である自分には嬉しくて堪らない一言だった。9mmは結成地=バンドのホームは横浜であり、各メンバーの出身地も卓郎さんが言っていた通り東京ではない。現在は東京を拠点にしているとはいえ、東京はホームではないから9mmを東京の地で「おかえりなさい」という気持ちで迎える訳にはいかないと思っていた。でも卓郎さんは東京のことも“ホーム”の仲間入りさせてくれた。卓郎さんはこの日のライブ中に何度も何度も「東京!」と言っていて、どの曲で言っていたのかを覚えきれないくらいたくさん言ってくれていた。それもずっと嬉しく思いながら聴いていた。これからは「おかえりなさい」という気持ちで迎えさせてください。

 

アンコール1曲目はいつまでも、歌い始める前に卓郎さんが柔らかい表情で笑っているのが見えた。卓郎さんの声がずっと、数週間前の喉の不調を感じさせないほど伸びやかに響いていた。

この日の、そしてこのツアー最後の曲、Punishment。滝さんによるクリーンなギターの音が聴こえるとフロアから歓喜の声が漏れる。曲の速さを視覚でも表すかのように白い照明が高速で回転していた。アウトロで卓郎さんが定位置から動いたためかみじょうさんの姿が見えた。普段澄まし顔や真剣な表情で演奏していることの多いかみじょうさんが、笑顔を浮かべていた。

 

全ての曲が終わり、滝さんと爲川さんはやはり真っ先に退場。和彦さんと卓郎さんはいつものように下手と上手を行ったり来たり、丁寧に挨拶。かみじょうさんが下手から上手側に向かって投げたスティックが勢いよく自分の頭上を飛んで行った。最後に卓郎さんがステージ中央で万歳三唱をしたが、万歳を1回する度に笑みがこぼれていた、というより完全に笑ってしまっていた。そんな表情を見せる程、卓郎さんも楽しい気持ちでいるのかと思うとこちらもとても嬉しくなる。最後にマイクを通して話し始める卓郎さん。

「みんなのおかげでツアーを終えることができました。」

「それぞれの会場に来てくれたみんなを代表して、東京のみんなに受け止めてもらおうと思います。」

「ありがとうございました!」

 

 

これで“FEEL THE DEEP BLUE TOUR 2019”全公演が無事、終了した。

この日のMCで卓郎さんが爲川さんを「全公演、熱烈サポートしてくれた」と紹介していた通りで、DEEP BLUEの曲たちを始めレア曲Scarlet ShoesもThe Revenge of Surf Queenも、突然のインストナンバーCalm downも見事弾き切りサポートを完走した。どの日も基本的には定位置の上手端で楽しそうに歌詞を口ずさみ、モニターに足を掛けて勢いをつけ、ギターのネックと素敵な笑顔でフロアを撃ち抜いていた。 

卓郎さんはツアー中盤で喉の不調が出てしまっていたが、無事にツアーファイナルを迎えることができた。滝さんはずっと調子が良さそうに見えた。ファイナルでもとても元気いっぱいで、卓郎さんとかみじょうさんの間まで出ては卓郎さんの後ろで拳を振り上げる場面もあった。 

このツアーで導入された、バックドロップ下に設置されたLEDの横一列の照明がかなり目を惹くもので、とにかく美しかった。色を変え向きを変え自在に点滅し、ステージの下半分を紗幕のような光で覆ったり、バックドロップに模様を描いたり、波を出現させたり、ステージを真っ赤に燃え上がらせたり、特定の誰かを照らし出したり。今後のライブでもこの照明は使われるのだろうか。

 

ライブを観ている途中で気が付いたが、結成15周年仕様の特別なバックドロップはこの日が見納めだったのではないかと。思えば3月17日の札幌から始まりこの日まで色々なところでこのバックドロップを見てきた。これが年内最後のワンマンであり、12月はライブハウスのイベントやフェスへの出演はあるが、バックドロップが使われる可能性は低い。それに気付いたらとても名残惜しくなってしまい、終演後もしばらくフロアの中央で真紅の“ⅩⅤ”を背負った巨大な双頭の鷲を眺めていた。

 

今回のツアー、自分の観た公演では全て、アンコールを除くとDEEP BLUEの「君を抱いて暗闇の向こうまで突き抜けたいのさ」で始まり、Carry Onの「君をかならず連れて行くよ」で終わるセトリだった。だから「DEEP BLUE」というアルバムはそれを言うためのアルバムであり、このツアーはそれを各地で言って回るためのツアーだったんだな、と思った。「あっけなく終わりにしたくない」「終わってたまるか」という一節も心に深く突き刺さるものだった。

これでツアーが終わり記念すべき15周年ももうすぐ終わろうとしているが、卓郎さんが「青を塗り重ねて深い青になっていくこと=“一生”青春」だと言っているように、9mmはこれからもバンドを続け、青を塗り重ねていく。去年のツアーでも9mmがバンドを続けるための新しい在り方を提示しているんだな、という印象を受けたが、やはり一度はバンドが止まってしまうかもしれない状況があっただけに、節目の年に「DEEP BLUE」というアルバムが生まれたこと、そして「来年は今年より盛りだくさん」という卓郎さんのひと事から、ずっと9mmは続いていくんだな、という更に先への期待と楽しみがあることが嬉しくて堪らない。「DEEP BLUE」と共に、“一生青春”という言葉と共に、ずっと青を塗り重ねていきたい。

20191129/9mm Parabellum Bullet“FEEL THE DEEP BLUE TOUR 2019”@Zepp Tokyo

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アルバム「DEEP BLUE」リリースツアー9本目!東京2days初日。

この日は2階席を取った。9mmをZeppの2階席で観るのは初めて。何となくずっと1階で観ていたが、折角の東京2daysなので片方を2階席にしても良いのではと思ったため。

 

席に到着したのは開演時刻の数分前。着席してしばらくするとすぐに場内が暗転。

Digital Hardcoreが鳴り響く中、交互に点滅する左右のスポットライトと大歓声を浴びながら15周年仕様のバックドロップが下からゆっくりと上がってくる。ステージに現れる巨大な双頭の鷲は、2階席最後列にいる自分とちょうど目が合うくらいの高さだった。

 

DEEP BLUE

名もなきヒーロー

Discommunication

太陽が欲しいだけ

Getting Better

Scarlet Shoes

反逆のマーチ

The Revenge of Surf Queen

Beautiful Dreamer

君は桜

Calm down

Ice Cream

夏が続くから

Mantra

ロング・グッドバイ

ハートに火をつけて

新しい光

Carry On

 

いつまでも

Punishment

 

この日もバックドロップの下あたりに長い横一列のLED照明が用意されていた。1曲目、滝さんがひとりでギターを弾き始めた瞬間に、その横照明が滝さんの後ろだけ光り、滝さんの姿を浮かび上がらせる。1階で観ていた時には全く気付かなかった。こんな使い方が出来るのか…!!といきなり美しい瞬間から始まったDEEP BLUE。澄んだ水色に包まれるステージを、2階席だと隅々まで視界におさめることができる。

2階席のほぼど真ん中の見晴らしの良さに感激している間に次の曲、かみじょうさんがスティックをくるりとひと回ししながら叩くと徐々に4人の音が重なっていく。その間、滝さんが何度もギターのペグとナットの間を鳴らしていた。ライブアレンジのイントロから名もなきヒーローへ。青とピンクのスポットライトが、こちらから観るとかみじょうさんと卓郎さんの間あたりで交差するように線を描いていた。サビも青とピンクの照明が交差していたが、卓郎さんが「また明日」と歌い切った瞬間に全ての照明が赤に変わりスポットライトがフロアをなぞるように縦に動く。間奏では滝さんがギターのボディを叩きながら手拍子を煽っていた。

続いてはDiscommunication、普段から青や赤の照明が多い9mm、今回はそれが特に顕著な気がしたがこの曲では黄緑の照明がとてもよく映える。次の曲、滝さんの爆速ピッキングから太陽が欲しいだけ!自分が観た中ではこのツアーで初めてセトリ入りしたのでイントロで思わず歓声を上げてしまった。燃え上がる太陽を表すかのように赤い照明がステージを包んでいたが「ツキに見放されて 流れ星は消えた それでも最後には笑え」の部分では、ステージ下半分は青く、上半分は赤く、ステージに鮮烈な夜明け空を描き出すようだった。

 

卓郎さんがフロアに「東京!」と元気に呼びかける。東京、よく来たね!とも。

続けて、このツアーの中で色々と実験をしてきたけれど、“まだ良くなる”、“もっと良くなる”…

 

と前置きしてから始まったGetting Better、和彦さんがステージの前方へ出てきて歪んだベースを鳴らす。その瞬間、ステージ全体が青くなる中で和彦さんだけを赤いスポットライトが照らす、という演出で和彦さん渾身の見せ場を盛り上げていた。曲中で一度「東京!!」と卓郎さんが叫んでいたような。

次はScarlet Shoes、最初のサビ後のドラムだけになる僅かな瞬間にかみじょうさんが一際明るく照らされていて、かみじょうさんの見せ場をしっかりと目立たせていた。間奏で滝さんが弾くゆらゆらとしたフレーズに合わせるかのようにバックドロップを赤と青の斑に色付けていた照明が不穏な雰囲気を作り出していた。

カウントから間髪入れずに反逆のマーチへ。毎回この曲では滝さんの動きが序盤の他の曲よりも大きいような気がするな、と思いながら観ていた。「戦ってるんだろ“東京”のみんなも!!」と歌う卓郎さん。

3曲続けて赤を基調とした照明だったが、一度ステージが薄暗くなり、滝さんが次の曲が何となく予想できるような音を出し始め、そのままThe Revenge of Surf Queenへ。一転して爽やかな青い照明がステージいっぱいに広がる中、曲調に合わせるように控えめな動きで演奏する5人。サビにあたる部分では滝さんがギターを歪ませお立ち台へ。間奏のような部分ではお立ち台に乗った滝さんが更に動きを大きくしながら弾いてゆく。その間に下手では和彦さんがモニターに座り足を伸ばし、リラックスしたような様子でベースを弾いていた。バックドロップ下の横照明は濃淡をつけてウェーブを描き、ステージに波を出現させていた。

 

卓郎さんが「東京」と優しい口調で語りかける。語り口は失念してしまったが、どんどん黒に近づくほどに青を塗り重ねる、そんな話だったかと思う。

 

そのひと言から始まったBeautiful Dreamer 、音源の印象とは比べ物にならないほど重厚な演奏が段々大きくなるにつれてステージも明るくなり、爆速感のあるメロディーになだれ込んだところで煌びやかな青が視界一面に広がる。サビ前、和彦さんのシャウトの瞬間に照明が赤に変わる。名もなきヒーローの時もそうだったが、ピンポイントなタイミングで入れられる赤が曲の見せ場をさらに目立たせる。

君は桜、最初は水色、そこから白が差し込むような照明。ピンクじゃないんだな、と思いつつ春の晴天と日差しを思わせる色合いが若々しさのあるこの曲にぴったりだった。サビではステージが淡い紫のような、桜色のような色へ。最後のサビ、「花ひらいた 君は桜」と卓郎さんが歌う直前に桜色のスポットライトが一斉に卓郎さんを照らした。最後の一音の後にかみじょうさんがシンバルを静かな手つきで止める。

君は桜 が終わり暗くなるステージ。卓郎さんが速やかにステージから退場し、ギターも下げられると滝さんが穏やかにギターを弾き始める。序盤はしばらく東洋的なまったりとしたメロディーが奏でられ、中盤から段々と演奏が激しくなり最後にはステージが青と赤に二分される中、思いっきりカオス音を叩きつける。距離が離れている2階席にいてもその迫力に言葉を失うほどの音圧だった。激暴れする和彦さんと滝さん、上手端から離れないまま、でも動きを大きくしていく爲川さん。最後の最後に滝さんがかみじょうさんの前、普段卓郎さんがいるあたりまで出て思いっきりギターのネックを振っていた。最後の音が鳴った瞬間に突然ステージが轟音で焼き尽くされたかのような真っ赤に変わり、音が止まるのとほぼ同時に暗くなった。これが、ツアー中盤から突如として現れたセッションパート、Calm downである。

 

卓郎さんが戻ってくると暗いステージにどろどろとした音が放たれる。「DEEP BLUE」の中でも異色の雰囲気を持つIce Creamが始まる。そんな不思議な雰囲気に浸りながら卓郎さんと滝さんによるツインリードの掛け合いを聴いていた。 バックドロップの双頭の鷲の体に、波形のような模様の照明が青や赤に色を変えながらずっと浮かび上がっていた。

卓郎さんがアコギ、滝さんがエレガットに持ち替える。卓郎さんのギターから夏が続くから へ。澄んだ白の照明とアコギ・エレガットの音色がとても合っていた。間奏前からは青い照明に変わった。どの公演でも同じことを思いながら聴いていたが、滝さんのギターソロがあまりにも情熱的で美しいメロディーなので、人はただただ「目の前に存在する音が美しいから」という理由だけでこんなにも心を掴まれるのかと毎回胸を打たれながら聴いていた。この曲を聴いていると自分でもうまく言葉にできないが、何かに焦がれる気持ちが沸々と湧いてくるような、不思議な気持ちになる。

 

このあたりだったか、滝さんがクリーンサウンドで静かにギターを弾き始める。何だか可愛らしいメロディーを弾いているとかみじょうさんがハイハットで合わせ始め、最終的にCメジャー調?のジャムセッションのようになっていた。その様子に卓郎さんが後で「セッションタイムが増えましたね…20年、30年続けていたらもっと増えるかもね!」と楽しそうに言っていた。

アルバムについて「みんながたくさん聴いてくれているのが分かる」と言ってくれたりもしていた。

また、アルバムのテーマである“一生青春”について改めて説明します、と。“一生青春”とは、ワーワーキャーキャーしていることではなくて青を塗り重ねていくこと、ここにいるみんなには伝わるってるかな、と。

そして次の曲について、客に叫んで欲しいものとして「嫌いな人、好きな人、好きな食べ物…自分だけのマントラ」と卓郎さんが言うと「マントラ」の部分で歓声が上がっていた。

 

卓郎さんの「いけるかーー!!!」の勢いのままMantra!赤いスポットライトが猛スピードで回転しながらステージとフロアに鋭い光を飛ばす。 最初の「終わってたまるか」のブロックでは卓郎さんはマイクから離れ、滝さんが思いっきり歌詞を叫び始める。中盤は和彦さん、滝さん、爲川さんが「終わってたまるか」を叫んでいたが、和彦さんは普段のシャウトのような叫び方ではなくはっきりと歌詞が聴こえるように叫んでいた。最後は卓郎さんと滝さんがふたり揃って「なんとかなんのか!!!!」

更にその勢いのまま滝さんのタッピングからロング・グッドバイへ!「僕には君がいれば何もいらなかった」と卓郎さんが歌う間に和彦さんが前に出てきて、オフマイクで思いっきり叫んでいた。その声はさすがに2階席までは届かなかったが、和彦さんがどれほどの力を込めて叫んでいたのかは視覚からはっきりと伝わってきた。そしてこの日も、最後のサビ前で滝さんが勢いよくペグとナットの間を鳴らすあの瞬間にスポットライトが一斉に滝さんを照らした。

再びステージが燃え上がるような赤に包まれたハートに火をつけて。間奏では和彦さん、卓郎さん、爲川さんが左にスライドする中ひとりお立ち台でソロを弾く滝さんが3人が移動するのと同じ方向にネックを振る。間奏後には卓郎さんが「手触りだけの“Zepp Tokyo”は」と歌っていた。最後のサビでも滝さんはお立ち台の上でかなりの熱量でギターを弾いていた。

毎回5人のサビ後のフォーメーションが美しいため、2階席でその様子をステージの上から観られるのを一番楽しみにしていた新しい光。2回目のサビだったと思うが、滝さんがお立ち台の上で一度大きく両手を広げた後、ギターで歌のメロディーを弾いていた。なかなか珍しいものが聴けたと大喜びしながらその様子を観ていた。その後の間奏では和彦さんと爲川さんが同時にかみじょうさんの前へ。卓郎さんと滝さんがお立ち台の上でギターを弾き、その後ろで和彦さんと爲川さんが向かい合い、中心にはかみじょうさんがいるという左右対称の美しいフォーメーション。4人がネックを上げると直後に和彦さんと爲川さんがまた同時にそれぞれの定位置に戻る。アウトロでは和彦さんと爲川さんがそれぞれ上手と下手の端まで出て行って、卓郎さんと滝さんは先程と同じ位置、そしてステージ奥の中心にはかみじょうさん、というフォーメーション。期待していたものが本当に観られた。見事な美しさだった。

今までに何度も何度もライブで聴いてきた新しい光。多くの客たちが出せる限りの歌声を響かせる最後のサビの部分、いつも1階にいるとそれがとても力強い歌声に聞こえていた。ところが2階席にいて下から聞こえてきた大合唱は普段と全然聞こえ方が違ったことにとても驚かされた。たくさんの人の色々な声が混ざって、ひとつの優しい歌声になっていた。あんなに優しい歌声が聞こえてくるとは思わなかった。眩い白い照明とクリーンな演奏の中で聞こえたその歌声は、思わず感極まるほど希望に満ち溢れたものだった。あの歌声を、きっと一生忘れないだろうなと思う。

本編最後の曲、Carry On。かみじょうさんが チャイナシンバルでカウントを3拍入れると、かみじょうさんの方を向いているように見えた滝さんがそれに合わせて片腕を振って拍を取っていた。青空のような澄んだ水色のステージに双頭の鷲が浮かんでいる、その光景は今思い出すとアルバムのジャケットを表しているかのよう、とも取れるものだった。かなり大きな声でコーラスをしていた滝さんが最後に一回転するように動いていたのが記憶に残っている。

 

5人が退場し、アンコールの手拍子が鳴り始める。自分の目線の高さと同じ位置にいる双頭の鷲を見ながら再び5人がステージに戻ってくるのを待つ。

しばらくするとステージが明るくなり、卓郎さんがひとりで出てきた。卓郎さんが話し始めたのは9mmの来年の活動について。「来年は今年よりも盛りだくさんです」と言いつつ、2020年3月17日に渋谷公会堂にてワンマンライブ“カオスの百年 vol.13”を開催することを告げた。(渋谷公会堂、現在は渋谷LINE CUBEって名前だっけ、という卓郎さんのひと言で渋公の名前がまた変わったことを初めて知った)そしてこれが9mmの来年一発目のライブになるとのこと。

 

ひと通り告知が終わると卓郎さんが「そろそろ呼んでいいかな?」「9mmの皆さんです!」と言いながらメンバーを呼び込む。最初に和彦さんが出てきて、どうもどうも、というような感じで軽く頭を下げる。滝さん、かみじょうさんに続き登場した爲川さんが定位置に辿り着きアンプに向かったところで卓郎さんが「サポートギター爲川裕也!」と突然紹介を始めると爲川さんがすぐに客席側を向き、スマートな仕草で挨拶。

 

アンコール1曲目、いつまでも。この曲は公演によっては演奏されないこともあったため、今日は聴けるんだな、という喜びと共に聴いていた。白い光の中をオルガンのようなギターの音色が広がってゆく様子がとても晴れやか。優しい演奏と卓郎さんの歌声がそれに合わさると会場全体がこの日一番やわらかい空気に包まれたように感じられた。最後に寒色系の白い照明が暖色系の白へ変わり、優しい光がフロアを撫でるように動いていた。

そんなやわらかい空気を一変させるこの日最後の曲、Punishment!Ice Creamに似た雰囲気の低音が響き、そこからお馴染みのリフへ。曲の速さに合わせるかのように白いスポットライトが高速で回りまくっていた。アウトロでは和彦さんがシャウトの代わりに爆速で指弾きしているように見えた。最後の最後に滝さんが軽々とギターを掲げ、振り回していた。

 

演奏が終わり、滝さんと爲川さんが退場。滝さんが袖に消える前に一度立ち止まってフロアを見、頭の上で拍手をしていた。和彦さんと卓郎さんがフロア上手下手真ん中と丁寧に挨拶をしている間にゆっくりと前に出てきたかみじょうさんが、いつの間にか手にした水を飲みながら顔の横で手を振っていた。ペットボトルにストローが刺さっていたのでもしかして卓郎さんの水か?と思いながら見ていると、ペットボトルを卓郎さんのアンプに戻していたのでその通りだった。最後に卓郎さんが万歳三唱、袖に消える直前までフロアに笑顔を向け、ステージを去った。

 

 

今回のツアーで唯一2階席から観ていたこの日の感想。とにかく照明の美しさを余すことなく視界におさめることができたことが嬉しかった。アルバムのアートワークやMV、歌詞を思い起こさせたり曲のメロディーとリズムに連動するような照明を目一杯楽しめたこと。特に今回のツアーは、バックドロップ下に設置された横一列のLED照明が光り方と色のパターンが多くてとにかく美しく、1階で観ていた時とは印象が大幅に変わったところがあったり、1階で観ていた時には気付かなかった照明の使い方を2階席では確認することができた。照明の角度を変えることでステージの下半分を色付けしたり、バックドロップを照らしたり、メンバーを紗幕のような光で覆ったり、流れる水のように見えたり、など。照明を観たい、でも5人の動きも追っていたい…と遮るものなくステージが全部見えるので、途中で目が2つでは足りない!と思ってしまうくらいだった。

全席指定の場合を除いて、これまで9mmのライブはほぼ1階のチケットを取ってきた。熱量の高いファン達に混ざって、照明の範囲内にも入り、ステージと近い高さから観るのが好きだから。2階席では最初こそほんの少しだけ外野感あるかな…という気もしたが、1階にいる時とは違う楽しみ方ができる、2階席でも静かに盛り上がった気持ちで観ることができるな、ととても楽しむことができた。これからは機会があれば大箱の2階席で観ることも増えるかもしれない。

 

この日、卓郎さんがMCで「これでもうアルバムの曲やりませんというのは嫌だなと思ったので、次のアルバムが出るまではDEEP BLUEのプロモーション期間ということにします。」と言っていた。リリースツアーが終われば当たり前だけれどアルバムの曲は一部を除いて演奏される機会がかなり少なくなってしまう。ツアーが終わったら次に聴けるのは何年後、という曲ももしかしたら出てくるかもしれない。あと1本でこのツアーが終わってしまうという寂しさも抱えながら観ていただけに、この言葉は本当に嬉しいものだった。フェスなど持ち時間が短いライブだとなかなか厳しいかもしれないが、ツアーが終わってもきっと近いうちに聴ける日が来るんだな、と。卓郎さんのおかげでツアーが終わる寂しさが少しだけなくなり、翌日のファイナルへの期待を一層膨らませながら会場を後にした。

20191123/9mm Parabellum Bullet“FEEL THE DEEP BLUE TOUR 2019”@Zepp Nagoya

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アルバム「DEEP BLUE」リリースツアー7本目、名古屋。

朝、地元を出発する際には雨が降っており11月らしい寒さだったが名古屋に到着するといい天気で、季節が1ヶ月ほど逆戻りしたかのような暖かさ。しっかり着込んでしまったので少し暑いくらいだった。名古屋の街中を歩きながら「夏がまだ続くから…」とつい頭の中で反芻してしまった。 

 

会場に入り、ステージを見回しながら開演を待つ。ステージ最後方の下の方に横一列のLED照明が用意されているのを確認、今回も照明器具は札幌や仙台と一緒だな、とか卓郎さんが最近使い始めた、背の低いOrangeの黒キャビにお馴染みのマーシャルのヘッドが乗っている様子がとても可愛らしいな、など。ステージの奥の方を見るとドラムセット・PHXと滝さんのアンプ・メサブギーの間あたりにバックドロップの双頭の鷲の右側の頭が見えた。開場時間中はまだバックドロップがステージに掲げられておらず、ステージ下に畳まれている状態だったためである。

 開演時刻を数分過ぎた所で暗転、Digital Hardcoreが流れ、照明の激しい点滅と大歓声を浴びて15周年仕様の巨大なバックドロップがゆっくりと上がってくる。

 

 DEEP BLUE

名もなきヒーロー

The Revolutionary

Discommunication

Getting Better

Scarlet Shoes

反逆のマーチ

The Revenge of Surf Queen

Beautiful Dreamer

君は桜

Calm down

Ice Cream

夏が続くから

Mantra

ロング・グッドバイ

Black Market Blues

新しい光

Carry On 

 

(teenage)Disaster

Punishment 

 

この日は上手側で観ることにした。滝さんは自分の視線の真っ直ぐ先、右側を向けば爲川さん、左に視線をずらすとかみじょうさん、更に左に視線を向けると何とか卓郎さんも見える。和彦さんは残念ながら視界におさまらず。

曲に入る前に滝さんがピックスクラッチを一発、ステージが爽やかな青に包まれDEEP BLUEからライブがスタート。第一声で「あっけなく終わりにしたくない」と歌う卓郎さんは眼差しに力を込め、歌声も力強く響く。上手の一番端では爲川さんがすらりとした脚を、エフェクターボードを軽々と跨ぐようにしてモニターに乗せ歌詞を口ずさみながらギターを弾いていた。

ライブアレンジのイントロを演奏してから名もなきヒーローへ、序盤から滝さんが大きく開いた目を輝かせながら元気にコーラスをしていた。間奏ではかみじょうさんがシンバルを音源よりかなり多めに叩いていたが、いつの間にか左手からスティックが消えていて、右手に持っていたスティックを左手に持ち替え、右手で新しいスティックを取り出し、その間シンバルを叩き続けるというかなり器用なことをやっていたので驚きながら観ていた。

ここでThe Revolutionary、真っ白な照明がステージを眩く照らす。間奏では卓郎さんと滝さんがお立ち台でツインリードを弾き、和彦さんと爲川さんはかみじょうさんの前までやってきて向かい合うようにして弾いていた。お立ち台から後ろ向きに降りてそのまま定位置に下がる滝さんと、ステージ中央から上手端に戻る爲川さんがぶつかってしまいそうな瞬間があった。この日滝さんは「世界を!!」の部分は叫ばずに普通に歌っていた。

続いてDiscommunication、スポットライトの黄緑とバックドロップ下の横照明のオレンジが鮮やか。2番では和彦さんと爲川さんがライブアレンジのメロディーを弾いている中、滝さんが原曲通りのメロディーを弾いていた。アウトロでは滝さんが途中でピックを落としてしまったようで最後のリフを指で弾いていた。演奏が終わると少し表情を綻ばせながら新しいピックを手にしていた。 

 

演奏が終わるとフロアからステージ上の5人に向かって名前を呼ぶ声やたくさんの言葉が飛んでくる。その様子に卓郎さんが開口一番、「名古屋、元気だね〜」

卓郎さんが話している間、隣では滝さんが片手だけエアドラムをするかのようにリズムを取っていた。後ろではかみじょうさんがスタッフの方と何やら話したりイヤモニを付け直しているようだった。

卓郎さんが話を続ける。ツアーももう折り返したけど、まだまだ良くなる、と 。

 

それに続くのはもちろんGetting Better、下手から和彦さんの歪んだベースの音が聴こえてくる。イントロのタッピングは滝さん。この曲だったかと思うが、サビを卓郎さんと滝さんが一緒に歌い上げると同時に両腕を高く挙げ、爲川さんも一緒になって片腕を挙げていた瞬間が嬉しかった。

次はScarlet Shoes、レア曲が札幌、仙台に続きセトリ入り。“DEEP BLUE”のツアーで敢えて赤系の色をタイトルに冠した“Scarlet Shoes”を入れてくるところが面白いなと思いながら毎回聴いている。引き続き真っ赤なステージが情熱的な曲調を視覚でも表すかのよう。中盤では赤の中に青い照明も混ざり、双頭の鷲を斑らに染めていた。

そこから間髪入れずにかみじょうさんがカウントを入れ、反逆のマーチへ。曲が進むにつれて少しずつ滝さんの動きが大きくなっていった。最後のサビ前でかみじょうさんがカウベルを叩きながら、その隣に置かれているチャイナシンバルを掴んでいるのが見えた。カウベルの音に共振しないようミュートしていたのだろうか。  

 

次の曲、滝さんが徐に弾き始める音を聴いた瞬間にとある曲が思い浮かんではっとした、しかし本当にそれが来るのか…?と期待と緊張が入り混じった気持ちで待っているとカウントから演奏されたのはその期待通りのThe Revenge of Surf Queen!!!!まさかここで、このタイミングで…!!中盤以外は滝さんと爲川さんが滝パートのメロディーをふたりでユニゾン。その息ぴったりな様子、滝さんに完璧に合わせていた爲川さんが流石過ぎる…。深く爽やかな青い照明の中、バックドロップ下の横照明が小さいブロックに分かれ上下に動いてウェーブを描き、ステージに緩やかな波を作り出していた。そこで初めて、あの横照明が一直線すべてくっついている訳ではなく幾つものブロックに分かれていることを把握した。

 

ステージが暗い青の底に沈むと、青い影になった卓郎さんが「名古屋」と静かに呼びかけ、もっと音楽で色々な感情が出るところを見たい、もっとみんなの声を聞かせてくれ、そんな感じの内容だったかと思う。

 

 音が重なるにつれ段々と明るくなっていくような空間で、荘厳さすら感じさせるようなイントロから音も光も爆速感を出してゆくBeautiful Dreamer、卓郎さんの言葉通りサビでは何度も「You're Beautiful Dreamer!!」と大合唱が響く。タッピングを爲川さんに任せ、滝さんも大きな声でコーラス。

君は桜、薄紫の照明と可憐なリフから、真っ直ぐに突き進むようなメロディーへ変わる部分の高揚感にワクワクする。最後のサビ前、卓郎さんが歌い出す直前に柔らかな薄紫のスポットライトが一斉に卓郎さんを照らした瞬間はやはり言葉にならない美しさ。最後の音を鳴らした直後にかみじょうさんがシンバルの上からスッと手を下ろし、静かに音を止めた。

 

滝さんが弾き始めたフレーズから次の曲が読めず、何の曲だ?と考えながらしばらく滝さんを観ているとその間にステージから卓郎さんの姿が消えていた。そのまま滝さん、和彦さん、かみじょうさん、爲川さんの4人で演奏が続けられる。序盤はゆったりとした、どこか東洋的なメロディーを滝さんが弾き続けていて、聴きながらメロディーが何となくキツネツキみたいだな…と考えていた。しばらくすると演奏が少し激しくなり、最後にはステージを二分するような青と赤の照明の中、かなりの轟音を巻き起こしていた。この突然のセッションタイムに何が起こったか理解が追いつかず、呆然としながらもただひたすらメロディーの心地良さに聴き浸っていた。終演後に9mmの公式アカウントが出したセトリを見てこの枠が“Calm down”と名付けられていることが判明。

 

セッションが終わると卓郎さんが再びステージに登場し、ステージがどす黒い青に包まれどろどろとした音からIce Creamへ。中盤でステージ奥の横照明がバックドロップ側に向き双頭の鷲の銃を照らしていたり、演出の意図とは違う解釈になるがステージ天井から数本のスポットライトがバックドロップの前を真っ直ぐ下に光を伸ばした様子が双頭の鷲を檻に閉じ込めているように見えた光景が面白かったり、つい照明を多めに観ながら聴いていた。

卓郎さんがアコギ、滝さんがエレガットに持ち替え、卓郎さんのアコギの音から始まった夏が続くから、上手側で聴くとアコギとエレガットの歯切れの良さが目立つ。サビ前まではまろやかな音を響かせるエレガットが、サビではエフェクトをかけキレのある音に切り替わる流れがやっぱり好きで、間奏に入る前に三連符のシンバルが強めに入るのも大好きで、滝さんとかみじょうさんの手元を交互に観ていた。間奏のギターソロをお立ち台に上り、かなりの気迫で弾いてゆく滝さんの姿に釘付けになった。

 

ここで一旦演奏が終わると、また多くの人が名前を呼んだり、何かひと言飛ばしていて何を言っているかはほとんど聞き取れなかったが、「米美味しかった~!」というひと言が辛うじて聞き取れた。いつまでも客の声が止まらず、卓郎さんがその様子を見ながらのんびりと「僕喋っていいかな?」と話しながらフロアを鎮める。

歌詞があるようでない、日頃の鬱憤を叫ぶも良し、自分だけのマントラを唱えるも良し…と言う卓郎さん。みんなに叫んでもらう、と言ってから卓郎さんがまず叫ぶ、「いけるかーー!!!」

 

そんな卓郎さんのMCからMantra、卓郎さんは最初から歌わずマイクから離れてギターを弾いていて、その部分を滝さんと爲川さんが歌っていた。音源で4人が各々叫んでいる部分では和彦さんがずっとソロでシャウトしていたが、その様子がこちらからだと全く見えなかったことが悔やまれる。ドラムセットにマイクは無く、やはりかみじょうさんが歌うことは無いようだ…。客たちに好きなように叫んで欲しいという意図で、メンバーの叫びが少なかったのだろうか。

滝さんのタッピングから始まったロング・グッドバイ、サビなどでは爲川さんがずっと歌詞を口ずさみながら、楽しそうに弾いていた姿が記憶に残っている。卓郎さんが「僕には君がいれば何もいらなかった」と歌い切った直後に下手から歓声が聴こえてきたので、見えなかったがきっと和彦さんがオフマイクで思いっきり叫んでいたんだろうな…と想像していた。最後のサビ前で滝さんが勢いよくペグとナットの間を鳴らすあの瞬間、スポットライトが一斉に滝さんを照らしたのがこの日の照明の中でも屈指の見事な演出だった。

フロアの盛り上がりが更に加速するBlack Market Blues、卓郎さんが「Zepp Nagoyaに辿り着いたなら!!」と歌う。最後のサビ前には滝さんも手拍子をしフロアを煽っていた。

そこから新しい光、真っ白に輝くステージで1サビ後の間奏部分、和彦さんと爲川さんがかみじょうさんの前まで来てネックを掲げ、同時に定位置に戻るというフォーメーションの美しさを見せる。アウトロでは卓郎さんがかみじょうさんと向かい合って弾いていた。

本編最後はCarry On、2番で卓郎さんが「声を聞かせてくれー!!」と叫ぶとフロアから返ってくる大歓声!滝さんはこの日一番大きな声でコーラス。ライブ序盤から曲の盛り上がるところで頭や腕を振ったりする以外は終始滑らかな動きで叩いていたかみじょうさんがこの曲だけは終始、かなりの力と気迫を込めてドラムを叩き続けていた。

演奏が終わると卓郎さんが思いっきり両腕を広げ、その後にギターを高く掲げた。弾けるような笑顔で。やり切ったぞ!!という表情だった。  

 

アンコールで再びステージに登場した卓郎さん、滝さん、和彦さん、かみじょうさん。卓郎さんがまた来年も名古屋に来るから、この先の9mmもよろしくお願いします 、と。その前にMERRY ROCKもあるね!とも。

この時点で爲川さんがステージに戻って来ない。もしかして…と考えていると卓郎さんが4人で演奏します、と言ってから演奏へ。

アンコール1曲目は(teenage)Disaster !ここ最近、4人で演奏する場合にはこの曲が多い気がする。アウトロの終盤は滝さんが原曲通りのメロディーを弾いていた。

この日最後の曲。静かなイントロから爆速カッティングへなだれ込むPunishment、滝さんがアウトロ後に何度もギターのネックを掲げ、最後の最後に空間を斬り上げるように思いっきりネックを振った。

 

真っ先に退場する滝さん。頭の上で手を叩きながら退場していった。和彦さんが下手から上手へ移動しながら手にした大量のピックを1枚ずつフロアに投げる。卓郎さんも下手、上手と動き回ってフロアに挨拶。ステージ中央に戻ってきた卓郎さんがまたフロアに挨拶していると、卓郎さんの左隣にスティックを手にしたかみじょうさんがやってきて、身に着けている衣服の隙間にスティックを差してふざけてから下手方面にスティックを投げていた。最後までステージに残った卓郎さんが万歳三唱から綺麗にお辞儀をして退場。その姿が袖に消えるまでフロアに手を振り笑顔を見せていた。

 

 

この2週間前に観た仙台公演では卓郎さんの声が終始掠れていた。最後まで歌い切り、そのような状態でもアンコールで1曲歌ってくれたものの中盤は声を出すのが辛そうな瞬間があった。翌週の福岡公演でも、詳しい様子は把握していないがやはり喉の不調があったらしいと聞いたので名古屋はどうなるかと心配していた。結果、卓郎さんの声はいつも通りの綺麗でよく通る声に戻っていた。ライブ中ずっと楽しそうに笑顔を見せていて、演奏が終わった後にはこの日一番の清々しい笑顔だったので安心した。よかった…。

ただ、少しだけ歌う部分を減らしていたのでまだ本調子ではないのかもしれない。札幌や仙台では無かった突然のセッションタイムも、今思えば卓郎さんの喉を休めるための時間として急遽入れたものだったのかもしれない。

 

そして名古屋、何と言っても最後にライブで聴いたのがいつだったか覚えてないほど久し振りに聴けたThe Revenge of Surf Queenが一番嬉しかった。とても大好きな曲、ここ数年は全くセトリに入っていない気がしてまたライブで聴けることはないかもしれないと半ば諦めていた曲だったので、まさかのタイミングで聴けて喜びも一入だった。「DEEP BLUE」がリリースされたあたりのインタビューかラジオ番組か何かで、確か夏が続くからの話題の際に「9mmでサマーチューンは無かった」という発言があってそれを聴きながら咄嗟にThe Revenge of Surf Queenを思い浮かべていて、何ならツアーでThe Revenge of Surf Queenも演奏されたらいいのにな、とぼんやり考えていてのが本当に実現した…。

 

この日のMCで卓郎さんが「DEEP BLUE」のテーマである“一生青春”について触れていた。かなりうろ覚えだけれど、まず「昔は“一生青春”という言葉が好きではなかった」と話していた。その後、一生青春= “青を塗り重ねる”ことについて、青には“生命力”と言う意味もあるし、“憂鬱”もある、色々な意味があるんだと。それを塗り重ねてゆくことが“一生青春”なのではないか、そんな感じの話だった。

「DEEP BLUE」の曲たちを目の前で聴いて、卓郎さんの“一生青春”と“青”の話を聴くたびに心が深い青に染められてゆくツアー、これを書いている時点で名古屋の翌日に開催された大阪公演も終わり(大阪公演は観ていないが)、残るはあと2本。残り少ないのが既に寂しい気もするが、今まで以上の期待を持って週末を楽しみに待つ。最後の最後まで青に深く染まるために。